そもそも「人材派遣」とは何か。日本人材派遣協会の定義を引用してみましょう。
正社員や契約社員は働く企業と直接雇用契約を結びますが、人材派遣の場合は「派遣会社」と「派遣先企業」、二つの会社が登場するのが特徴です。派遣社員にとって、派遣会社は雇用契約を結ぶ雇用主、派遣先企業は実際に仕事をする勤務先となります。
派遣会社はお給料の支払いや福利厚生、お仕事や就業条件の紹介、派遣先企業との交渉、スキルアップ研修などを通じて、派遣社員をサポートします。
派遣先企業は派遣社員に対して仕事の指示を行います。
派遣会社にスタッフ登録した段階では雇用契約は結ばれません。派遣先企業が決定し、お仕事が始まる時点で雇用契約が発生し、派遣期間の終了とともに契約も終了します。
一般社団法人日本人材派遣協会ホームページ『人材派遣とは』より引用
企業が正社員ひとりを雇おうとすると、実際に支払っている給料の2~3倍以上のコストがかかるといわれています。新卒社員を採用し、イチから育て上げるのは非常に大きな手間やコストがかかります。だからといって社会人経験のある人材を中途採用するのも、探すところからが大変です。
つまり人材派遣とは、「専門性のある or 経験豊かな人材を、必要な期間だけ契約で決めて雇える」という意味で、企業にとってメリットの多い仕組みなのです。
さて前述のとおり、建設業においては派遣社員活用が許可されていない業務があります。労働者派遣法によって「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務」、いわゆる「建設業務」は労働者派遣の対象外とされているのです。その理由は大きく分けて次の2点です。
- 建設労働者の安全を守るため
- 建設労働者の雇用を守るため
建設労働者の安全を守るため
元請の会社だけでなく多くの下請け会社が関わる建設工事においては、派遣社員の活用が禁止されています。それは、指揮系統を統一して労働者を保護するため。逆に言えば、派遣社員の労働者を現場に入れると統一されていた指揮系統が複雑化し、責任の所在が曖昧になってしまうのです。
仮に、下請け会社の指示で派遣労働者が建設資材の整理業務をおこなっていたときに事故に遭った場合、その責任は指示をした下請け会社にあるのか、派遣会社にあるのかが明確ではなくなってしまいます。
責任が不明確な現場は当然のことながら労働者にとって良い労働環境とは言えません。このような労働災害が起こらないようにするため、建設業務への派遣は許可されていないのです。
建設労働者の雇用を守るため
建設業界は受注生産方式です。他業界と比較するとその需要はかならずしも安定しておらず、雇用が常にあるというわけではありません。
そのような不安定な状況で、建設業務に従事する派遣社員は立場が弱く「派遣切り」されやすくなってしまいます。また建設業における雇用の安定を図るために、建設労働者の実態を踏まえた労働力需給調整制度として、建設事業者が一時的に余剰になった人員を、同じ事業主団体に属している他の現場に送り、雇用維持や安定を図る制度「建設業務労働者就業機会確保事業制度」がすでに設けられていることも、人材派遣が許可されていない理由のひとつです。