近年の人手不足を背景として、建設業界で働く外国人材は増加傾向にあります。それは今後も続いていくと予想されていますが、外国人材の採用を検討する建設企業の中には、「コミュニケーションの壁」「文化の違い」「スキル」など漠然とした不安を感じている向きも少なくないのではないでしょうか。
外国人材採用にあたっては「在留資格を有しているか」など、気を付けるべき基本的なポイントがあります。今回は外国人材採用のメリットやデメリット、注意点などを解説しますが、いわゆる「技能実習」「特定技能」以外にも、建設DX領域で活躍する外国人材についても解説します。ぜひ、最後までお付き合いください。
建設業界で外国人材を採用するメリット
建設業界で外国人材を採用するメリットは次の3点です。
- 人材不足が解消できる
- 新しいアイディアが生まれる
- 組織のコミュニケーション能力が上がる
人材不足が解消できる
2021年現在、建設業界は人材不足が大きな課題となっている現状については、もはやここで語るまでもないでしょう。特に若年層の人材を確保するのは非常に難しい状況です。
実際、『建設業ハンドブック2020』(日本建設業連合会)の「建設業就業者の高齢化の進行」グラフを見れば、それは一目瞭然。29歳以下労働者の割合は11.6パーセントしかいません。
出典:日本建設業連合会『建設業ハンドブック2020』より引用
コロナ禍による建設需要の減少はあったものの、インフラメンテナンスなどまだまだニーズはある反面、人口減少はどうにも不可避。もはや国内だけでは賄いきれない建設業界の人材ですが、外国人材によってその解消が期待されています。
新しいアイディアが生まれる
日本人と外国人材では生まれ育った文化はもちろん、教育やそこで培われた考え方などが違うため、日本人ではなかなか思いつかないアイディアを生み出してくれる可能性があります。
元来、日本は海外の文化を柔軟に取り入れて独自の文化を発展させてきた国です。
現在でも、たとえばスペインなどラテン系の各国において昼休憩の時間を長めにとる文化「シエスタ」を制度として導入し、社員の生産性が上がったという例も存在します。
ただし、外国の考え方や文化を取り入れる姿勢がない、江戸時代の「鎖国状態」のような企業では、あまり意味がないとも言えますが……。
組織のコミュニケーション能力が向上する
これまで日本人しかいなかった職場に外国人材を採用した場合、言語の違いによるコミュニケーションのすれ違いが起きがちです。
しかし、これまでのコミュニケーションスタイルは、日本人同士であっても本当に通じていたのでしょうか。実は若手社員とベテラン社員のあいだで「背中を見て覚えろ」的な教育におけるミスコミュニケーションが生じていたり、あるいは職種間でやりとりがうまくいっていなかったり……。振り返ってみれば、「日本語だからすべてが通じていた」わけではないのではないでしょうか。
外国人材の採用は、このコミュニケーションスタイルを大幅に見直すチャンスでもあります。日本語や業界独特の言い回しを外国人材に理解してもらえるように、より的確な言葉でダイレクトに伝えなければなりません。
常日頃からこういった意識を持って外国人材と関わるようになれば、組織内の表現方法が論理的なものになるように工夫されて、結果的に組織内のコミュニケーション能力は向上していくはずです。
外国人材採用時の懸念点
とはいえ、外国人材採用にあたり懸念点があるのも確かです。主に次の2つが挙げられるでしょう。
- 文化や習慣の違いがある
- 日本語特有の言い回し、ニュアンスの理解が難しい
文化や習慣の違いがある
外国人材採用でトラブルになりやすいのが、カルチャーフィットの問題です。宗教や文化など価値観の違いによって、互いに悪気がなくても不愉快にさせてしまうケースがあります。
たとえば、イスラム教徒の外国人材(ムスリム)を採用すると、ムスリムには1日5回ほどの礼拝義務があるため、就業時間中であっても礼拝します。また、その際には礼拝の場も必要です。
さらに、彼らがイスラム教の教えに則って許される食事・行動は「ハラル」、逆に許されていないものは「ハラム」と言います。豚肉やアルコールは「ハラム」にあたり、これを職場の宴席などで強要してはならないのです(ムスリムの戒律は出身国により多少異なります)。
これらのことを知っておかないと、礼拝を「サボっている」と思って注意したり、宴席参加を強要したりしてトラブルになり、せっかく採用した外国人材が退職してしまう事態になりかねません。
採用した外国人材の文化や習慣、宗教などについて事前にしっかりと調べ、相互理解をしていく努力が必要なのです。
日本人特有の言い回しなどが理解出来ない
日本人特有の「阿吽の呼吸」を理解したり、空気を読むといった行動を、外国人材に求めるのはきわめて難しいでしょう。仕事内容の説明や指導の際には、「はっきりと、論理的に、かつ正確に」伝える必要があります。日本人なら指示を出さなくても「空気を読んで」やってくれる内容であっても、しっかりと伝えないと行動してくれないケースも少なからず存在します。
明確な指示や説明をしなかったがために、最悪の場合、大きな事故が発生する可能性もあります。外国人材にはこれまでは伝えなかったことも言語化して、明確に伝えるようにしていくべきでしょう。
外国人材採用時の注意点
外国人材の採用時に注意すべきこと。それは次の3点が挙げられます。
- 在留資格の確認
- 外国人雇用状況の届出
- 人材教育
在留資格の確認
大前提として、外国人材は「技能実習」「特定技能」の在留資格がないと、建設業界では働けません。どちらの資格を持っているのかによって業務内容が異なります。まずはどのような在留資格を持っているのかの確認が必要となるでしょう。
ちなみに「在留資格」とは、外国人材が日本に在留できる資格です。
技能実習
そもそも「技能実習」とは、発展途上国の外国人材が出身国では習得困難な技能を習得できるようにする制度のこと。
この技能実習には技術実習1号~3号の資格があり、資格習得するには技術を習得して実技試験や学科試験に合格する必要があります。
名称 | 内容 | 働ける年数 |
技能実習1号 | 日本で技能を習得したい人に与える在留資格 | 1年 |
技能実習2号 | 技能実習1号の資格を有しているものが技能試験や日本語試験に合格することで得られる在留資格 | 2年 |
技能実習3号 | 技能実習2号の資格を有したものが実技試験に合格するなどの条件を満たすと習得出来る資格 | 2年 |
引用:(公財)国際人材協力機構を元に筆者作成
なお、技能実習の在留資格でおこなえる建設関連作業は次のとおりです。
職種 | 作業 |
さく井 | パーカッション式さく井工事作業 |
ロータリー式さく井工事作業 | |
建築板金 | ダクト板金作業 |
内外装板金作業 | |
冷凍空気調和機器施工 | 冷凍空気調和機器施工作業 |
建具製作 | 木製建具手加工作業 |
建築大工 | 大工工事作業 |
型枠施工 | 型枠工事作業 |
鉄筋施工 | 鉄筋組立て作業 |
とび | とび作業 |
石材施工 | 石材加工作業 |
石張り作業 | |
タイル張り | タイル張り作業 |
かわらぶき | かわらぶき作業 |
左官 | 左官作業 |
配管 | 建築配管作業 |
プラント配管作業 | |
熱絶縁施工 | 保温保冷工事作業 |
内装仕上げ施工 | プラスチック系床仕上げ工事作業 |
カーペット系床仕上げ工事作業 | |
鋼製下地工事作業 | |
ボード仕上げ工事作業 | |
カーテン工事作業 | |
サッシ施工 | ビル用サッシ施工作業 |
防水施工 | シーリング防水工事作業 |
コンクリート圧送施工 | コンクリート圧送工事作業 |
ウェルポイント施工 | ウェルポイント工事作業 |
表装 | 壁装作業 |
建設機械施工 | 押土・整地作業 |
積込み作業 | |
掘削作業 | |
締固め作業 | |
築炉 | 壁装作業 |
引用:外国人技能実習機構から筆者作成
技能実習生が日本で働ける期間は、最大で5年と決まっています。3年目が終了した時点で実技実習3号になるための実技試験に合格する必要があり、合格できないと特定技能の在留資格に変更できず、在留期限が切れてしまいます。したがって、帰国しなければならないのです。
技能実習を3年間良好に修了し「実技実習2号」となっていれば、「特定技能1号」の在留資格に変更可能です。特定技能に変更できれば、さらに5年間日本で働けるようになります。
特定技能
「特定技能」の在留資格は、建設業界や介護業界など人材不足に苦しんでいる特定業界の人材確保のために設けられた在留資格で、一定の専門技能を有している外国人材受け入れを目的としています。
ただし、特定技能の在留資格を取得するためには、技能実習2号を良好に修了するか、日本語試験や技能試験への合格が必要です。
なお、特定技能の在留資格でおこなえる建設関連職種は次のとおり。
- 型枠施工
- 左官
- コンクリート圧送
- トンネル推進工
- 建設機械施工
- 土工
- 屋根ふき
- 電気通信
- 鉄筋施工
- 鉄筋継手
- 内装仕上げ/表装
- とび
- 建築大工
- 配管
- 建築板金
- 保温保冷
- 吹付ウレタン断熱
- 海洋土木工
上記技能を有し、技能実習2号を良好に修了するか、技能試験などに合格すると特定技能1号の在留資格を取得できますが、特定技能1号の資格では5年間しか働けません。
5年間、建設業界で働いて特定2号の評価試験に合格するか、指定されている技能検定1級の資格を有している場合は特定技能2号の資格を取得できます。この資格は期限がないため、取得すれば日本に永住して働けるようになるのです。
外国人材雇用状況の届出
外国人材を採用する際や離職時には、ハローワークに「外国人雇用状況の届出」をする必要があります。この届出は外国人材を雇用するすべての事業主に提出が義務づけられたもので、違反すると30万円以下の罰金。注意が必要です。
外国人材の教育について
上記の外国人材は、一般に日本語習得が不十分なケースが多く、教えた仕事内容が理解できない場合があります。そのため、外国人材に向けた教育カリキュラムを作成する必要があります。
しかし、自社でカリキュラムを作成には大変な労力と時間がかかってしまいます。そんな場合は、厚生労働省が提供している「建設業務に従事する外国人材向け教材」を活用してみてはいかがでしょう。
引用:厚生労働省「建設業務に従事する外国人材向け教材」より引用
引用:厚生労働省「建設業務に従事する外国人材向け教材」より引用
この教材は建設現場全般の知識から、職種ごとに必要な知識まで記載されているため、教育の効率化に貢献するはずです。
「海外DX人材」という選択肢がある
ここまで解説してきたのは、主に「建設技能者」の外国人材採用の話です。
しかし、建設業界の人材不足は、なにも建設技能者に限った話ではありません。とりわけ建設技術者の不足は否めません。
人材不足からの長時間労働慢性化、そしてさらなる人材流出という負のスパイラル――このような状況を打破すべく、いま業界では「建設DX」が話題です。しかし、この建設DXを進めるための人材も建設業界では、いや、国内中で不足しているのが現状。日本人ITエンジニアはDX化を目指す各業界から引っ張りだこで、ましてや正規雇用となると非常に困難を極めます。
そこで脚光を浴びているのが、外国人材の活用。それも「海外ITエンジニアの派遣」というスタイルです。
そもそもDX推進のために、IT分野に長けた人材を高給で中途採用することに血眼になるよりも、必要なタスクをおこなってもらうために必要な時期だけ招聘した方がコストがかからない――という考え方もあります。
仮にそれが外国人材だとしましょう。上記で長々と述べてきたような「在留資格」「特定技能」、さらに「日本語能力」の心配が不要だとしたら……。
ヒューマンリソシアでは、各国のトップクラス大学でITを専攻したレベルの人材等を世界中からスカウトして無期雇用。そのような海外ITエンジニアを「GIT(Global IT Talent)」として派遣し、現在まで各企業から高い評価を得ています。
特徴として、まずヒューマンリソシアが雇用している正社員であること。働く期間の制限はありません。また手間のかかる入国手続きや在留資格取得、さらには住居の手配まで、日本での生活をサポートする負担は一切かかりません。
さらに、パーソナリティ、日本文化への適応力、日本語によるコミュニケーション力なども、ヒューマンリソシアが厳しくチェック・かつ育成、責任を持って人材を送り出しています。
令和の建設業界における外国人材活用のスタイルは、「技能実習」「特定技能」ではなく、「ITエンジニア派遣」。ぜひお問い合わせください。