「2023年までに小規模工事を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用する」と決定した国土交通省。
国土交通省次第でBIM/CIM普及のスピードが大きく変わる面もあるため、導入検討中の企業担当者の方で「国土交通省はBIM/CIM推進を今後どのように展開していくのか? どれぐらい本気なのだろうか?」と不安や疑問を持っている方も少なくないのではないでしょうか。
国土交通省のBIM/CIMに対するこれからの取り組みとその意図を知るために、まずは国土交通省のこれまでの取り組みを振り返ると同時に、国土交通省が公表している「BIM/CIM運用拡大に向けた全体ロードマップ」を読み解いていきたいと思います。
国土交通省とBIM/CIMのこれまでの流れ
そもそもなぜ、国土交通省はBIM/CIMを普及させようとしているのでしょうか?
それは、BIM/CIMが建設業界が抱えるいくつかの課題を、解決の方向に向かわせると考えられているためです。
まずは「BIM/CIMの概要と目的」と「BIM/CIMの取り組み」について解説します。
BIM/CIMの概要と目的
『国土交通白書 2020』によれば、BIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling, Management)は「調査・計画・設計段階から施工、維持管理の建設生産・管理システムの各段階において、3次元モデルを連携・発展させ、あわせて事業全体に携わる関係者間で情報を共有することで、生産性向上とともに品質確保・向上を目的とするもの」です。
そう、生産性向上は建設業界の長年の課題でした。その背景には、一品生産・屋外生産で労働集約型生産の構造的問題があり、さらに言えば長時間労働や高齢化による人手不足問題などもありました。
これらの諸課題の解決がBIM/CIMには期待できるため、国土交通省はBIM/CIMの普及を推進しているのです。
関連記事:BIM/CIMの違いは何?どちらを導入すべきなのか
BIM/CIMの取り組み
国土交通省がおこなっているこれまでの取り組みを年表形式でまとめました。
年代 |
取り組み内容 |
2010年~2012年 |
官庁営繕事業でBIM導入の試行を行う |
2012年 |
BIM/CIM活用業務・工事の11件(設計事業)試行を開始 |
2014年 |
「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成及び利用に関するガイドライン」を作成 |
2018年 |
「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成及び利用に関するガイドライン」の改定 |
2018年 |
大規模構造物における詳細設計でBIM/CIMを原則適用化 |
2019年 |
詳細設計のBIM/CIMモデルの成果品を貸与する工事において、BIM/CIMを原則適用に |
2019年 |
「BIM/CIMを作る」という視点から「BIM/CIMを利用する」という視点で既存基準要領等を見直すとともに、発注者自らがBIM/CIMを活用するために必要な事項を整理し、BIM/CIMに関する基準要領等を制定・改定 |
2019年 |
官民一体となってBIMの推進を図る「建築BIM推進会議」を設置し、BIMを活用した建築生産等の将来像とその実現に係る工程表をとりまとめ |
2020年 |
BIM/CIM活用業務・工事は2020年3月までに累計991件を実施 |
このように、国土交通省はBIMの試行を重ね、試行結果を基にBIM/CIMのガイドラインなどを作成、BIM/CIMが導入しやすい環境を整えている――それが現在の状況です。
公共事業におけるBIM/CIMの原則適用の内容
国土交通省は2019年に開催された「BIM/CIM推進委員会」において、BIM/CIMの導入を促進するために、「今後のBIM/CIM運用拡大に向けた整理」を発表。その後の2020年2月の「BIM/CIM推進委員会」の第3回会合では「BIM/CIM運用拡大に向けた全体ロードマップ(案)」を明らかにしました。
このロードマップは、2025年度にすべての全公共事業において原則BIM/CIMを用いること、BIM/CIM普及と国内の建築・土木領域における生産性向上を図る目的で定められています。
ちなみにこのロードマップでは、3つの目標が掲げられています。それはいったい、どのような内容なのでしょうか?
BIM/CIMの「標準化」
ひとつ目の目標は「関連する規格等の標準化」。具体的には次の3点です。
形状や属性情報の標準化
ワークフロー(手順)の標準化
国内規格の標準化
すべての建設生産・管理システムの関係者が不自由なくBIM/CIMを活用できるよう、情報の「シームレスな運用」を可能とするための目標です。この目標を達成するため、次表に記載されている中期目標を立てられました。
目標年 |
目標の内容 |
2021年 |
次元データ標準規格の「IFC5」に準ずる属性情報の標準化 ソフトウエアの機能要件などの国内規格の標準化 成果品に求める標準的な要件の整理 |
2025年 |
4次元・5次元データの標準化 BIM/CIMのJIS化検討 |
3次元を超えて4次元や5次元データの活用など、BIM/CIMのさらなる発展が見込まれているのです。
BIM/CIMの「普及・促進」
次はそのものズバリ、「BIM/CIMの普及・促進」。
BIM/CIMを活用したさらなる効率化・高度化に向け、普及・啓蒙により裾野を広げるとともに、活用しやすい環境整備を促進することを2つ目の目標として掲げています。具体的な3点は次のとおりです。
適用事業の順次拡大
BIM/CIM技術者の活用
効率化に資するツール等の普及
こちらも中期目標を立てて進められていました。
目標年 |
目標の内容 |
2021年 |
共通分野に配慮したBIM/CIM要領策定 BIM/CIMの普及と啓蒙体制構築 パラメトリックモデル等のモデル作成支援ツールの実装 |
2025年 |
全事業でBIM/CIM原則適用(方式問わず) 技術者を活用したデータ管理による高度化 機械処理による部分的な自動作図や設計照査の実装 |
BIM/CIM技術者の活用や効率化を図るためのツールなどを普及させて、BIM/CIMが活用しやすい環境の整備を行う計画です。
BIM/CIM「高度利活用」の推進
3つ目の目標はBIM/CIMモデルの高度利活用の推進。具体的には公共事業の効率化・高度化です。次の目標達成を掲げています。
公共事業の品質確保・向上
発注関係事務の抜本的な見直し
データ活用の拡大
この目標を達成するために掲げた中期目標はこちら。
目標年 |
目標の内容 |
2021年 |
3次元設計照査による成果品の品質確保 3次元モデルを主とする契約の基準化 BIM/CIMモデルの二次利用(設計協議)を促進 |
2025年 |
BIM/CIMを設計照査や監督・検査要領に反映 BIM/CIMを主とする契約の標準化 データプラットフォームにおける3次元情報の活用促進 |
これらの目標と計画によってBIM/CIM普及は進み、2025年度までに次世代3次元モデルの活用がいっそうおこなわれると考えられていました。
ところが……。
「原則適用2年前倒し」の理由
国土交通省は2020年7月の「第1回 国土交通省インフラ分野のDX」会合にて、当初目標として掲げていた「2025年度にすべての直轄事業において原則BIM/CIMの適用」の2023年度前倒しを発表しました。
「2年前倒し」という驚きの決定をした要因は何か。それには2020年初めから国内外にて感染拡大した新型コロナウイルスによる影響で、テレワークの普及やZoomなどのオンラインツールを利用したリモート打ち合わせが広く利用されるようになったことが挙げられます。
こうしたシステムを多くの企業が取り入れていたためにデジタル化が進展し、働き方も大きく変わったため、コロナの感染リスクを下げたうえで、業務効率化が図れると判断されました。つまり、BIM/CIM原則適用が実現する算段が立ったという考え方です。
原則適用拡大の進め方(案)(一般土木、鋼橋上部)
出典:国土交通省「令和5年度のBIM/CIM原則適⽤に向けた進め⽅」より引用
「BIM/CIM原則適用」の課題
新型コロナウイルス感染拡大という思いがけない外圧で、建設業界もリモート化を余儀なくされた結果、BIM/CIM原則適用が前倒しになった。それですべてがめでたしめでたし……というわけにはいきません。まだ積み残ったままの課題もあるからです。
それは「BIM/CIM人材の育成」です。指示が出せたり手を動かせたりする人材が足りていない現状では、普及もままならない、というのが実情でしょう。
こういったBIM/CIM人材の課題を国土交通省も把握しており、ロードマップが示されています。
各検討項目のロードマップ案 (3/3) 人材育成
出典:国土交通省「令和5年度のBIM/CIM原則適⽤に向けた進め⽅」より引用
ただし、国土交通省が人材育成制度を構築するのを待っているのが吉、とは限りません。人口減少社会の日本において、技術を持つBIM/CIM人材に向けていかに早くリーチするか、確実性の高い採用ルートをいかに確保しておくかが問われます。
BIM人材確保なら、まずは建設業界に強い人材サービス会社へのご相談を。ヒューマンリソシアはいつでも相談受付中です。
ご相談・お問い合わせはこちら