飛島建設社長・乘京正弘氏に迫るインタビュー後編。彼が静かに口にした、これからのゼネコンが求める、すこし意外な人材像とは……?
記事初出:『建設の匠』2019年9月19日
写真:髙橋 学(アニマート)
これから求める人材は「失敗できる人」
ただ……と人材について希望を口にする乘京氏。
「もっともっと、チャレンジする人が多くほしいですね。みんな真面目というか、指示待ちというか……自分から失敗する人はなかなかいない。もちろん失敗したくて失敗するわけじゃないけれど、みずから動いて失敗する人がもっと増えていかないとね」
“失敗”について、彼はアメフト部出身らしく、パスの練習にたとえた。
「よくスポーツ選手が『練習でできたことしかできない』なんて言うけれど、それはレベルが低いんですよ。自分はアメフトでパスを取る係でしたが、パスを取る練習ばかりしていても、『どうなったときに手から落とすのか』までは分からないんです。それは『手に当たる前に胸に当たったから弾んだ』などの理由がある。確実に両手で取るのではなくて、片手で取ってみるぐらい、むりやりに失敗してもいい」
それでは乘京氏の経験した失敗とは? と軽い気持ちで尋ねてみた。すると彼は「もう毎日が失敗ですわ。生まれてきたこと自体が失敗」などと茶化しつつ、「でも、自分の担当現場で死亡事故を出したというのは大きな失敗です。それはものすごく胸に残ります。それ以外の失敗なんか、たいしたことない」と言い切った。
「死亡事故」……そのワードにハッとした。そういえば、飛島建設は殉職者・物故者合同追悼法要を毎年おこなっている稀有なゼネコンだった。それは今年で107回を数えるという。人の死をしっかりと重く受け止める飛島建設だからこそ、それ以外の失敗は「かすり傷」だと捉えられるのかもしれない。
「やってみなはれ」と言ったのはサントリー創業者・鳥井信治郎だけれど、「なにもしないぐらいやったら、失敗ぐらいしてもかまへんし。議論ばかりして、一歩も動かへんのやったらそんなのやめて、まず一歩、動いてみい。で、アカンかったら、引っ込めりゃええやん。意地になってやりつづけるのもおかしい。アカンと思ったときにやめりゃいい」と語る乘京氏の言葉にもまた、強い説得力を感じずにはいられなかった(※そのニュアンスを伝えたくて、このフレーズはあえて彼の関西弁をそのまま書いている)。
乘京氏はそれほどに人間の力を信じ、これからの人材に期待している。いまの若い人(に限らないだろうが)には現在の建設業界に不安を感じて身を投じるべきか悩み、また業界の閉塞感に悩んでいる向きもあろうが、「悩んでいるぐらいに選択肢にあるのなら、うちにどんどん来てほしい。いろいろなことができるよと訴えたい」と熱く語る。
「いままでは(3Kのイメージで)『炎天下でものをつくっているだけ』と思っている人が多いかも分からないけれど、建設業は本当にいろいろなことをやっている業界なんですよ。しかも一つひとつ、違うものをつくっている。みんなで協力し合って、ものをつくって、できあがったときの感動というのはなかなか味わえないもの。ちなみに飛島建設の目指す新3Kは『協力し合って』ものをつくり、できあがったときにみんなで『感動する』。そのつくったものが世間で『貢献している』――です」
仮にAIが人間の知能を超えても、ロボットが人間の能力を超えても――建設業界に人間、そしてゼネコンは必要ですかね?
「必要ですね。プロの棋士がAIに負けても、人間が変わらず将棋をしているのは、人間対人間のほうがおもしろいからです。建設現場で汗だくになって働くことは魅力的で、それに向いた人もたくさんいるはず」と彼は言い切った。
もっと開け、建設業界
「そもそも、建設業界自体は外に開かれていない。外に対して働きかけが一番少ない業界だと思います。いや、そう思いません?」
建設業外の世界から来た筆者に対して、乘京氏は逆にこう質問してきた。よほど思うところがあるらしい。
「『自分たちは宣伝下手だ』とかなんとか言っていますけれど、理由はそうじゃない。本当は自分たちが外に開いていないからです。でも、『いやいや、自分たちは自分たちなりにやっているんだ』とまだまだみんなそう思っている。それはイノベーションがまったくできない体質です。
だから、もっと外に開いたらいい。もっと建設業界を開いていろいろな人に来てもらって、いろいろなところと付き合って、またぜんぜん違う風を採り入れるべき。自分たちの業界以外の人ともコミュニケーションを取って『この現場をどうすればもっとよくなるか』についてのアイディアを出しながら、イノベーションを起こしていく必要があると思うんです」
飛島建設が次のフェイズに移るために、現在はその“容量”をすこしずつ膨らましている段階であり、その拡張の最前線に立つ人材を増やしているという。そのようなイノベーターが現場に入って最適解を生み出すチームをつくり、さらにそのテクノロジーを社内で伝承していく――。その効果はこれからきっと徐々に出てくることだろう。
そうは言えども、と勝手に心配してしまう。なんせ136年続く会社である。親から孫世代まで3代で在籍している社員もいるほどだから、乘京体制に「ちょっと急進的な変化をしすぎなのでは?」と懸念する声も社内外から聞こえてきそうだが……。
「そんなの言われたことはないですし、会社は変わっていくほうがいいと思うんです。136年も続いてるのは会社が変化してきているから続いているのであって、同じことばかりやっていたら、会社なんて続かないですよ」と乘京氏。同席していた社員の方まで「(言われたことは)ないです」と口にしていた。
もちろん、変えてはいけないことは、変えない。それは創業以来掲げる「利他利己の精神」である。
「『自分だけのことだけじゃなく、お客さまを第一に考え、周りの人を第一に考え、社員を第一に考える』という精神は、わたしは変えてはいけないと思う。あとは世の中に応じて変わっていくべきだし、それで変われなかったら潰れるだけです」
潰れるだけ、か……本当にはっきりとものを言う御仁である。ゼネコンの社長なのに。でも、その言い切りっぷりがもはや小気味よい。聞けば、悩める新卒内々定者たちと10対1で質問に答える懇談会をおこなっているらしいのだが、きっとぶっちゃけた話をしてその場を沸かせ、ゼネコンマンのスケールの大きさを見せつけているのだろう。
「そういえば日曜朝の某番組、ゼネコンとして最初に出るつもりやったのに先越されましたわ。しゃあないな、もう二番煎じはおもしろくないから、次はまた違う番組ねらう。常になにか発信しなければならない体質なんです。大阪では“いっちょかみ”っていうんですけれど(笑)」
……満面のスマイルでここまで包み隠さず語られたら、まったくもう、かないませんわ!