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建設人事のお悩みに圧倒的熱量で寄りそうメディア

乘京正弘社長は飛島建設を「ダム建設の匠集団」から「社会に開かれたダイバーシティ建設企業」へと跳躍させる【前編】

編集部 2021年07月15日

インタビュー終了後。乘京正弘(のりきょう・まさひろ)氏は、そばに置かれていた想定問答の用紙をチラッと見て「これ、ほとんど見なかったわ」と言いながらハハハと笑った。同席した広報担当者も筆者に「あれが社長のいつもの感じです」と目配せする。

どんな相手でも本音で話し、想いを率直に伝える。乘京氏のそんなパーソナリティが垣間見えるひとコマだった。さて、そんな彼はゼネコン・飛島建設の社長として、建設技術者の匠のワザの継承のためにどんな舵取りをしているのだろうか?

記事初出:『建設の匠』2019年9月18日
写真:髙橋 学(アニマート)

 

ダムのことなんて、なにも知らなかった

「学生時代はたいして勉強もしてなかったんですが、担当教授が『おまえには公務員は似合わないし、大きな会社も似合わん。飛島ぐらいがちょうどええぞ』と。……これ、自分の口で言っているからいいんです(笑)」

大阪で育ち、京都での学生時代はフットボールプレイヤーとして活躍していた乘京氏がなぜ、福井にルーツを持つ飛島建設に入社を? という質問に対しての答えだ。のっけからこんな調子である。

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実は彼にこの進路を進めた教授も乘京氏の父も、福井の出身だ。当時の福井において、1883年創設の飛島建設は老舗であり屈指の大企業。当然、まわりの人は大喜びである。「男らしい大きな仕事をやれ」とつねづね言っていた父はなおのこと力強く応援してくれたそうだ。

しかし、当の本人はというと「ゼネコンがどんなことをしているのかもよく知らなかった」。そんな真っ白な状態で赴任した最初の勤務先は、雪で真っ白な寒河江ダム(山形県)の建設現場である。

「駅から30、40分ぐらいクルマで山の中に入っていって、そのときにようやく分かったんです。『これはずいぶん遠いところに来たな……』と(笑)」

現在でも国内最大規模のロックフィルダムである寒河江ダム。当時も建設中のダムとしては日本で十指に入るような規模だった。とにかくたくさんの人が働いており、そこに新入社員の乘京氏が30数人のうちのひとりとして配属された。社員は最盛期には約90人まで増員されたという。

「恥ずかしい話なんだけれど、ダムといえばコンクリートでつくるものだと思っていた。土を積み上げてつくると思っていなかったので、『土で大丈夫なんかいな?』と。本当にド素人もいいところでした。

いろいろな人がものすごく広いエリアで働いている現場で、わたしはとにかくなにも分かりませんから、与えられたことを地道にやっていくだけ。自分の担当する場所でちょっとずつ仕事を覚えるしかない。そこからはじまって、少し余裕ができたら『よそでなにをやっているか、時間があったらちょっと見てこい』と指示を受けて、それで他の工程を見て『ここではこういうことをやっているんやな』と徐々に勉強して」

当時はまだ、全国でダムがどんどん増えている時代だ。飛島建設でも10~20か所近く建設現場を抱えていたため、ダム建設の経験者は連続してダムを担当することになる。乘京氏もまた、例外ではなかった。山形から兵庫へ、兵庫から京都へ……。

「ロックフィルダムの次はコンクリートダムを2回続けて担当しました。でも、2つともコンクリートの打設方法が違いましたね。だいたいの土木構造物は量産型ではないんです。特にダムは最終的に水をためるという目的は一緒ですが、内容はぜんぜん違う。材料が近くにあるか否か、岩盤が強いか弱いか、それぞれ土地によって条件が違うので、そこでできるダムもまた違うものになる」

同じに見えるダムだって、一つひとつ違う。多様性に満ちている。そんなダム建設の醍醐味とは?

ダム建設でおもしろいのは「最初と最後」

建設スタートのときと、建設工事が終わって水を溜めだすときが一番おもしろいんです。そこにダムをつくるには、そこにある材料を生かして、どのかたちが最適か、どんなコンクリートの配合がいいか、たとえばロックフィルなら、その土地で取れる石などで試験をして、最適なかたちを採用していく。その材料でもって、試験的に水をためる。そのときがおもしろいんです。

『これならできる』と判断できたら、あとは粛々と施工していくだけ。あとはどんなダムでもみんな一緒です。コンクリート打設してるときやロックフィルで土を盛っているときは作業する人こそたくさんいるけれど、作業自体は経験にはならないし、なによりおもしろくない(笑)

聞き手のほうがひやひやするぐらい正直に語ってくれる乘京氏。ならばこちらも、と率直な質問をぶつけてみた。国内のダム建設自体は減っている。飛島建設も金出地ダム(兵庫県)を最後にダム建設の計画はない。ダム建設における「匠の技」は伝承できるのか? と――。

「社内にダム専門委員会やトンネル専門委員会、シールド専門委員会などの社内委員会があるんです。そこで当社がフル稼働している現場に連れていって見せたり勉強会をしたりという活動を、もうだいぶ前からしています。そこで技術が伝えられています。

あと、ダムの世界は実は会社ごとにきっちり分かれているわけではなくて、“ダム屋”のグループのようなものがあるんです。国土交通省のような発注者も含めて、みんなで“ダム屋さん”。だから分からないことがあったら『似ているあのダムを施工したのは……?』とダム工事総括管理技術者会の名簿などで調べて、聞いちゃう

ダム屋さん同士で横断的に知恵を共有している? ええ、あの、各ゼネコンの技術には守秘義務があるのでは……と聞き直すと、乘京氏はそれを笑い飛ばした。

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そんなもの平気。隠したりせずにどんどん出します。教えられる部分は、口頭で説明したり、場合によっては現場を見せてもらったり。発注者がよそのダムをやっているときに『ちょっと〇〇で困っているので、一回見に来て』と言われたこともあるし、逆に『教えてくれ』と頼んだら来てくれる。

なぜならダムは、国家規模の大きなプロジェクトなんですから。技術やノウハウをちまちま隠すのなら、それはむしろ出すのが恥ずかしい技術しか持っていないということですよ」

なんというか、豪快である。ダム屋としての自分たちの技術やネットワークに誇りを持っているのだなとこの時点で確信できた。さすがは「ダム建設にこだわりのある建設会社のトップといえば……」と土木写真家・西山芳一氏ご推薦の人物である。

では、さらに突っ込んでみる。キモはこれからの建設業の担い手についてだ。

「M&A」ではなく「パートナーシップ締結」

乘京氏の表情はスッと真剣なものになって、人材論を語り出した。

「建設業界は高齢化と同時に、どんどん若い人が入ってきづらくなっている。この中で技を伝承するのはものすごく大切なことですが、ゼネコン社員としての技と、建設現場の最前線で働いている方の技は、ちょっと違うんですよね」

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「たとえばわれわれゼネコン社員は、ハード面ではなくてソフト面。それは発注者や地元の人との交渉において、ダム建設の最初の試験結果から『この方法がベストなんですよ』と技術者のプライドをかけて説得するのが“技”。それは日頃の少ない人数でもOJTで伝承できると思う。

一方で、現場最前線の方々の技の伝承は、現実的になかなか難しくなっています。でも、そういった方々を支えている会社をわれわれがバックアップすればいい。たとえば潜水工事や水質保全事業を営んできたけれど『事業承継が難しい』と悩んでいたノダックという会社を、うちがいま支えつつ、そこの若い人たちと一緒に仕事をしている。そんな援助の仕方もあると考えています」

それは、飛島建設が近年力を入れているM&Aの話ですね――と言うと「その表現(=M&A)はちょっとキツイので、わたしは『パートナーシップを結ぶ』という言い方にしている」とやんわり訂正された。「いままでのような建築・土木領域だけじゃなく、けれどもまったく飛び地でもなく、それらを合わせながら事業を広げているところ」だとか。

M&Aで事業拡大を進める乘京氏が重視するのは、ダイバーシティ(多様性)だ。ダムやトンネルなどの土木工事を得意とし、近年では「防災のトビシマ」と専門性をPRポイントにしてきた飛島建設だが、ゼネコン(General Contractor=総合建設業)という言葉の本来の意味に立ち返ろうとしているのか。あるいは、それも超越した企業体か――。

「これまでのゼネコンのように『学校で〇〇を専門的に学んできた人』ばかりを求めるのではなく、入ってきてくれた人の一番得意なところを伸ばしていけばいいと思うんです。たとえばICT技術についても、専門的な部分は外注するとか割り切ったらいいだけの話。これからもっと社会が多様化してくる中では、いろいろな人が来てくれるのが一番いいと思う。得意な分野を任せつつ、『ほかのことをやりたい』と言われれば、そちらも手伝ってもらえるようにする。あんまり決めつけるとおもしろくないですよ。若い人には多様性や柔軟性を求めたい

『こういう一流の人間になりなさい』と型を押し付けるのではなくて、『自分の個性を活かして自分自身で膨らんでいって、一流になる』ほうが大切だと思う。そして一人ひとりが一流になったら一番いいんです」

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そんなダイバーシティ推進、お題目として掲げたはいいが、残念ながら実態が伴っていない企業もある。あるいは社員の意識が変わらないままの現場もある。どうしたら本質的に普及すると考えているのか。

トップがあきらめずに言い続けることでしょう。現場に行って訴え続ける。そうでないと変わらない。飛島の場合は社長が一番変わり者かも分からんですけれど(笑)、だいぶいいほうに回っていると思います。特に女性については、自分たちが新入社員のころはたしかに『女性はトンネルの中に入ったらいかん』と排除していたんですよ。理由は分からないけれど。でもいまやその意識はない。今年度は新卒のおよそ20%が女性ですが、彼女たちは能力も高いし頭もいい

少なくとも自分は、女性だろうがLGBTだろうがなんの関係もないんです。われわれはチームがメンバーそれぞれの個性を活かしながら、みなさんに貢献できるようないいものをつくって、喜んでもらうのが最終目標ですから」

飛島建設がゼネコン界随一の多様性に富む企業となる日も、そう遠くはなさそうだ。

「ただ……」と話し続ける乘京氏。彼が懸念することとは?

後編へつづく

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