さまざまな業界で進むDX(デジタルトランスフォーメーション)。われわれ建設業界はDX推進が必要不可欠な業界であり、また一部で他業界よりそれが進んでいると言われていますが、全体で見れば、まだまだ推進途上です。
とはいえ、DXは建設業界が抱える人材不足などの課題を解決する方法として重要視されています。こちらは「DX推進上の課題」やその解決策について、ひと通り理解するための解説記事です。
建設業界にDXが必要不可欠なのは、疑いようのない事実です。それはスウェーデンのエリック・ストルターマン氏が提唱する概念「進化しつづけるデジタル技術が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」にしたがえば、人材不足という大きな課題に苦しんできた建設業界こそが、デジタル技術によって救われるべきだからです。
実際に総務省が公表している「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)7月分結果」によれば、建設業における2011年の就業者数は約502万人だったのが、2021年7月では約469万人と激減しています。このデータ上では、約10年間で就業者数が約33万人減少していることになります。
建設業界が人材不足に陥っている主な原因は、「3K」とよばれる過酷な労働環境。これを解消するためには、DXの推進で、業務効率化や安全性の向上を図る必要があります。具体的にはBIM/CIM活用によるフロントローディングやコンカレントエンジニアリング、AIを搭載した建設機械活用による自動化施工などが挙げられます。
このように現在の建設業が抱える課題解決が見込めることから、国土交通省は全力でDX推進を目指しているのです。
さて、日本で、そして建設業界でDXは進んでいるのか。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が2021年10月に公表した「DX白書2021」によれば、日本でDXに取り組んでいる企業の割合が約56パーセントに対して米国では約79パーセント。その差は歴然です。
われらが建設業はどうか。「日本の建設DXは他産業に比べれば進んでいる」という調査結果もありますが、それは一部の大手企業が大規模な投資をしてリードしているから。中小零細企業が大部分を占める建設業界全体で見れば、建設DXの取り組みはまだまだ途上段階です。
実際のところ、大手企業の中でも、DXの取り組みに果敢にチャレンジした上場企業を認定する「DX銘柄2021」「DX注目企業」の計48社(経済産業省公表)のうち、建設業は「清水建設」だけなのです。
これらから、日本全体でDXはまだまだ普及しておらず、その中でも建設業界では普及しているとはいいがたい状況が見て取れます。
DX推進における課題はおもに次の3つです。
企業における経営戦略やビジョンの不透明・不確実さは、DXが普及しない理由のひとつです。「DXを推進して何をしたいのか、具体的にどういった効果が得たいのか、企業としてどう変わりたいのか」が明らかになっていないと、DXの歩みはグッと遅くなります。
また、先ほどのIPAの資料によると、「DXの推進にあたっては、経営層・IT部門・業務部門などの関係者が対話を通じて共通理解を形成し、ビジネス変革に向けたコンセプトを共有した上で、推進施策に取り組むことが重要」だとされています。
しかしその共通理解の形成が、日本では「十分にできている」「まあまあできている」を合わせても4割以下。米国の企業はそれが実に全体の8割以上です。
建設業で言えば、ドローン技術を活用したインフラの維持管理はすでに普及しています。導入すれば得られる作業効率向上の効果は、すでに具体的なデータが示されています。
いっぽうで、パワーアシストスーツを活用した現場での建設作業については、2021年に実証実験がはじまったばかりの技術なため、具体的なデータが提示できていません。導入してもどういった効果が得られるかがわからなければ、企業は導入をためらいます。
新技術を導入して得られる効果が明らかになっていなければ、企業はそれをベースにした経営戦略を組み立てられません。建設業はその投資規模や額が大きいため、積極的にDXに取り組めないという一面もあるでしょう。
企業がDXを推進するためには、さまざまな費用がかかります。その予算の確保が難しいことも、DX推進が進んでいない理由のひとつです。
たとえば、DX推進人材を確保するための「人件費」、DX推進人材に育てるための「教育費」、さらにデジタル技術を研究・開発するための「研究開発費」、あるいはツールを導入するための「初期導入費」「保守費」が必要になります。
大手ゼネコンは復興需要や東京オリンピック/パラリンピック特需で得た利益を原資に、研究開発費として投資していると言われていますが、大手ゼネコン以外にその余裕はありません。すると予算不足でDX推進になかなか取り組めない企業も出てきます。限りある予算内で最大限の効果を挙げるようなDX推進が重要です。
建設業界でDXを進めていくための最大の課題が、DX推進人材の不足と言えるでしょう。
そもそも、どの業界でもDX推進人材を必要としているため、企業が躍起になって奪い合っている側面もあります。DX推進人材を採用するためのコストは高くなっており、人材確保が難しくなっている状況は否めません。
仮に企業が「わが社もDX推進室を立ち上げて取り組むぞ!」と前向きなマインドであっても、それを取り組む人材がそろわず、すぐに取り組めない状況に陥っています。「DX白書2021」によれば、日本企業では「量」の不足(「大幅に不足している」と「やや不足している」を足した割合)と回答している割合が76パーセント(米国企業は43.1パーセント)で、「質」についても「過不足はない」と回答したのはわずか14.8パーセントにすぎません。
2021年の日本では、DX推進人材の量・質ともに足りていないのです。
最後に挙げたDX推進人材の不足に着目してみましょう。この課題を解決する方法としては、「RPAの活用」「DX推進人材の育成」が挙げられます。
DX推進人材に限らず、今の日本は人材不足です。では人材がいなければ、「いっそいなくても回るように業務を効率化してしまえばいい」と発想を変えてしまうのです。
職場内を見回してみれば、人間がやらなくてもよいような定型業務は案外あるもの。それを24時間365日稼働できるようにして、さらにミスもなくす仕組み、それがRPA(Robotic Process Automation)です。
RPAが定型業務をおこなってくれることで、これまで手付かずだった業務への対応や人がなすべき付加価値の高い業務への人員シフトが可能となります。くわしくはこちらをご覧ください。
「リスキリング」という言葉を最近よく耳にしませんか? リスキリング(Reskilling)とは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」です。
建設業にて分かりやすい具体例を挙げれば、CADオペレーターをBIM/CIMオペレーターに育成することでしょう。今後BIM/CIMが普及拡大することを考えれば、リスキリングは必須です。
とはいえ、「DX白書2021」では「日本企業では、企業として方針を明確に持っている企業が24パーセントなのに対して『実施していないし検討もしていない』が46.9パーセントであった。学び直しの方針の有無の差が大きい」と手厳しい指摘をしています。
なぜ、「実施していないし検討もしていない」のか。言わずもがな、学び直しにはコストも手間もかかります。人材不足にあえいでいる企業にはその余裕がないからです。
ちなみにヒューマンリソシアでは、CADオペレーターからBIM/CIMオペレーターへの育成部分までを担って派遣する「育成型派遣」をおこなっています。既存CAD人材のリスキリングの重要性を理解しつつ、そこまで手が回らない……そんな向きには耳よりな話となるかもしれません。