本レポートのポイント
・厳しい人手不足が続く建設技術者について、2030年までの人材需給予測を独自試算
・2030年には、最大で建設技術者が6万人不足すると予測
・今後の人材不足解消のため、新卒を中心とした若手人材の獲得戦略が重要 ホワイトペーパーダウンロード
2021年度の建設投資額はコロナ禍でも堅調に推移
2020年から2021年において新型コロナウイルス感染症拡大が日本経済に与えた打撃は大きく、建設技術者の需給予測にも大きな影響を与えると考えられます。
需給予測のベースとなる建設投資額について、国土交通省の「令和3年度建設投資見通し」でみると、2020年度は実質値で前年比2.4%の減少となりましたが、2021年度は前年比3.5%の増加に転じると予測されています。2021年度についてはコロナ禍の影響を比較的受けることなく堅調に推移していると思われます。また、厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、2021年の建設技術者の有効求人数はすべての月で前年同月を上回り、2019年に匹敵するレベルとなっており、依然として厳しい人手不足の状況が続いています。
<建設技術者数の試算>
緩やかな増加傾向が続き2030年には
52.2万人になると試算
建設技術者数の将来シミュレーションとして、2015年の国勢調査における建設技術者数をベースに試算しました。建設技術者数について「新卒で建設技術職に就職」と「他職種から建設技術職に転職」を増加する要因として、「他職種へ転職」と「定年による離職」を減少する要因として、建設HR独自の考え方で試算しました(図表①)。
※「建設技術者」は「建築技術者」と「土木・測量技術者」の合計
【図表① 建設技術者数の増減要因シミュレーションの考え方】
|
|
試算の考え方 |
増 加 要 因 |
新卒で就職 |
2016年から2021年までは、文部科学省「学校基本調査」から実績値を使用。2022年以降は、生産年齢人口の減少率※1と新卒獲得競争の激化による減少率※2を2021年実績に乗じて算出 ※1:建設HRが独自に算定した推計値 ※2:建設HRが独自に算出した想定値 |
他職種から転職 |
雇用動向調査、労働力調査から算出した専門的・技術的職業の転職流入率※を参考に、他職種からの流入数を試算 ※転職流入率=他職種からの転職入職者数÷就業者数 |
減 少 要 因 |
他職種へ転職 |
雇用動向調査、労働力調査から算出した専門的・技術的職業の転職流出率※を参考に、他職種からの流入数を試算 ※転職流出率=他職種への転職離職者数÷就業者数 |
定年による離職 |
70歳雇用に向けて企業に努力義務が課されるようになる高年齢者雇用安定法が2021年4月に施行されたことを踏まえ、厚生労働者の令和2年「高齢者の雇用状況」等を参考に、各年齢(60歳、65歳、70歳、75歳)における定年退職率を仮定して算出 |
試算の結果、建設技術者数は2021年以降、緩やかな増加傾向が続き、2030年には521,657人(2015年比10%増)になる予測となりました(図表②)。昨年発信した「未来予測(2021年度版)」の予測値よりも2021年の新卒入職者が多かったため将来推計値は上昇しています。
【図表② 建設技術者数の試算結果】
出典:下記資料を参考に建設HRにて試算
総務省「国勢調査」 、文部科学省「学校基本調査」、厚生労働省「雇用動向調査」、総務省「労働力調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、厚生労働省「高年齢者の雇用状況」
<建設技術者の需要数の試算>
ベースライン、成長実現、ゼロ成長の
3つのシナリオについて試算
建設技術者の需要数は、建設投資額に比例して増減すると想定して、「A.ベースライン成長シナリオ」「B.成長実現シナリオ」「C.ゼロ成長シナリオ」の3パターンについて試算しました。3つのシナリオともに2021年までの建設投資額は、国土交通省の「2021年建設投資見通し」をベースに試算しています。
2022年以降の建設投資額は、内閣府「中長期の経済財政に関する試算(2021年7月 21 日 経済財政諮問会議提出)と野村総研「住宅着工戸数の将来予測(2021年6月8日)」を使用し、ベースラインケースおよび成長実現ケースの経済成長率、消費者物価上昇率から、建設HRが独自に試算しました(図表③)。
【図表③ 建設技術者の将来需要試算の前提】
A.ベースライン成長シナリオ |
内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」におけるベースラインケースの経済成長率、消費者物価上昇率をベースに建設投資の増減を試算。その建設投資推計額をベースに建設技術者需要数を試算 |
B.成長実現シナリオ |
内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」における成長実現ケースの経済成長率、消費者物価上昇率をベースに建設投資の増減を試算。その建設投資推計額をベースに建設技術者需要数を試算 |
C.ゼロ成長シナリオ |
経済成長率、消費者物価上昇率ともにゼロ成長で推移すると想定して建設投資の増減を試算。その建設投資推計額をベースに建設技術者需要数を試算 |
2030年における建設技術者の需要数は
ベースラインシナリオで55.4万人
2030年の建設技術者の需要数はベースライン成長シナリオで553,501人と、2021年の550,713人から微増にとどまっていますが、成長実現シナリオでは需要数が581,690人に増加しました。
一方、ゼロ成長シナリオでは516,624人に減少すると試算されました(図表④)。
【図表④ 建設技術者需要数の試算結果】
出典:下記資料を参考に建設HRにて試算
国土交通省「令和3年度 建設投資見通し」、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(令和3年7月21日経済財政諮問会議提出)、野村総研「2040年の住宅市場と課題」
3つのシナリオにおける
建設技術者の需給ギャップの推移
建設技術者数と建設技術者の需要数の試算結果から各シナリオ別に需給ギャップの推移を分析しました。
A.ベースライン成長シナリオ
需給ギャップは縮小し、不足数は59,629人から31,844人に減少
内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」におけるベースラインケースで経済成長すると想定して、建設投資の将来予測をおこない需給ギャップを試算しました。
ベースラインシナリオにおける建設技術者の需給ギャップは、2021年の59,629人の不足から徐々に縮小し、2030年には31,844人の不足と試算されました(図表⑤)。
【図表⑤ ベースライン成長シナリオにおける需給ギャップの試算】
B.成長実現シナリオ
需給ギャップはやや拡大し、不足数は59,629人から60,033人に増加
内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」における成長実現ケースで経済成長すると想定して、建設投資の将来予測をおこない需給ギャップを試算しました。
成長実現シナリオにおける建設技術者の需給ギャップは、2021年の59,629人の不足から拡大傾向で推移して、2030年の不足数は60,033人に増加すると試算されました(図表⑥)。
【図表⑥ 成長実現シナリオにおける需給ギャップの試算】
C.ゼロ成長シナリオ
2030年に建設技術者が5,033人過剰となる
経済がゼロ成長であると想定して、建設投資の将来予測をおこない需給ギャップを試算しました。
ゼロ成長シナリオにおける建設技術者の需給ギャップは、2021年の59,629人の不足から大幅に縮小していき、2030年には5,033人の過剰に転じると試算されました(図表⑦)。
【図表⑦ ゼロ成長シナリオにおける需給ギャップの試算】
出典:下記資料を参考に建設HRにて試算
総務省「国勢調査」「労働力調査」、文部科学省「学校基本調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」「雇用動向調査」 「高年齢者の雇用状況」 、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、国土交通省「令和3年度 建設投資見通し」、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」、野村総研「2040年の住宅市場と課題」
本レポートの考察
厳しい人手不足が続く建設業における人材戦略策定の一助になることを目的として、建設技術者の需給ギャップの2030年までの動向の試算を実施しました。
試算にあたり「ベースライン成長シナリオ」「成長実現シナリオ」「ゼロ成長シナリオ」の3つのシナリオを想定し、それぞれの建設技術者の必要数を試算しています。その結果、建設技術者の2030年における需給ギャップは、ベースライン成長シナリオで32,000人の不足、成長実現シナリオでは不足数は60,000人にまで拡大すると試算されました。
ゼロ成長シナリオでは5,000人過剰になると試算されましたが、今後の人材戦略の構築において、基本的に建設技術者の不足は続くことを前提として検討することが重要だと考えられます。
具体的には、今回の試算で、最も大きな人材供給源となっているのは大学等の新卒人材であることが分かったので、新卒を中心とした若手人材の獲得戦略の重要度がさらに増すと考えられます。
本調査結果をまとめたホワイトペーパーのダウンロードはこちら