本レポートのポイント
・2021年の建設技術者の人材需要は、特需に沸いた東京オリンピックを控えた2019年を上回る
・一方、建設技術職の求職者数は2021年5月以降減少傾向に
・有効求人倍率は高まる傾向が鮮明となり、2022年も人材が逼迫すると予測 ホワイトペーパーダウンロード
厚生労働省「一般職業紹介状況」の最新データとして公表されている2021年10月までの建設技術者(建築・土木・測量技術者)の有効求人数について、過去3年間の推移を比較すると、2021年は、現在公表されている10カ月すべてで2020年を上回りました。また、2019年と比較しても、1月と7月の2カ月以外、求人数が上回りました(図表①)。
【図表① 建設技術者の有効求人数の月別推移】
各年の平均有効求人数について、過去3年間を比較すると、2021年は58,705人で、2020年(同54,265人)を8.2%、2019年の(同58,373人)を0.6%上回りました※。このことから、2021年の建設技術者の人材需要は、東京オリンピックに向けて工事量がピークに達していた2019年に匹敵する水準となりました。このことから、2021年の建設技術者の人材需要は、東京オリンピックに向けて工事量がピークに達していた2019年に匹敵する水準となっており、新型コロナウイルスにより3回にわたって発出された緊急事態宣言の影響はあまり大きくないと思われます(図表②)。
※各年の有効求人数を比較するため、平均有効求人数を算出しています。平均有効求人数は、2021年の「一般職業紹介状況」の最新データが10月まで公表されていることに合わせて、各年の1月から10月までの有効求人数の累計から算出しています
【図表② 建設技術者の平均有効求人数の比較】
建設技術者の有効求職者数について、過去3年間を月別に比較すると、2021年の有効求職者数は、10カ月すべての月で2019年を上回りました。増加傾向が続いていた有効求職者数も2021年5月以降は減少傾向に転じ、2021年8月以降は2020年を下回っています(図表③)。今後、有効求職者数の減少傾向が続くことにより、人材供給が逼迫することが危惧されます。
【図表③ 建設技術者の有効求職者数の月別推移】
各各年の平均求職者数について、過去3年間を比較すると、2021年は9,767人で、2020年(同9,217人)を6.0%、2019年(同8,757人)を11.5%上回りました、このことから求職者数は増加傾向が続いていることが分かります(図表④)。2021年は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が3回繰り返して発令されたことで、飲食業や観光業等を中心に雇用状況が悪化したことも、求職者数が増加した要因のひとつではないかと考えられます。
【図表④ 建設技術者の平均有効求職者数の比較】
建設技術者の有効求人倍率について、過去3年間の推移を比較すると、2021年の有効求人倍率は、2019年1月から2020年3月まで、すべての月で下回りました。しかし、2021年5月以降から前年同月の有効求人倍率を上回るようになり、人材需給が徐々に逼迫しています(図表⑤)。
【図表⑤ 建設技術者の有効求人倍率の月別推移】
各年の平均有効求人倍率について、過去3年間を比較すると、2021年は6.01倍で、2020年(同5.90倍)を0.12ポイント上回るも、2019年(同6.55倍)は0.54ポイント下回りました。人材需給の逼迫度は2020年を若干上回るが、2019年ほどではない水準である状況が見えます(図表⑥)。
【図表⑥ 建設技術者の平均有効求人倍率の比較】
建設技能工(建設・採掘の職業)の有効求人数について、過去3年間の推移を月別に比較すると、2021年は現在公表されている10カ月すべてで2020年、2019年を上回りました(図表⑦)。
【図表⑦ 建設技能工の有効求人数の月別推移】
各年の平均有効求人数について、過去3年間を比較すると、2021年は117,482人で、2020年(106,241人)を10.6%、2019年(110,450人)を6.4%上回りました。2021年の建設技能工の人材需要は、建設技術者以上に高まったことが分かります(図表⑧)。
【図表⑧ 建設技能工の平均有効求人数の比較】
建設技能工の有効求職者数について過去3年間の推移を月別に比較すると、2021年は現在公表されている10カ月すべての月で2020年、2019年を上回りましたが、4月をピークとしてやや減少傾向になっています(図表⑨)。
【図表⑨ 建設技能工の有効求職者数の月別推移】
各年の平均有効求職者数について、過去3年間を比較すると、2021年は21,922人で、2020年(19,904人)を10.1%、19年(19,641人)を11.6%上回りました。このことから過去3年間、有効求職者数は増加傾向が続いていることが分かります(図表⑩)。増加傾向の背景として、2021年は新型コロナウィルスによる緊急事態宣言による飲食業、観光業等を中心とした雇用状況の悪化があるのではないかと推察されます。
【図表⑩ 建設技能工の平均有効求職者数の比較】
建設技能工の有効求人倍率について過去3年間の推移を月別に比較すると、2021年3月以降は現在公表されているすべての月で2019年を下回っていますが、2020年の比較では拮抗している月が多くなっている状況がみえます(図表⑪)。2021年2月から減少傾向であった有効求人倍率は上昇傾向に転じるなど、建設技能工の人材需給も徐々に逼迫化していくことが推察されます。
【図表⑪ 建設技能工の有効求人倍率の月別推移】
各年の平均有効求人倍率について過去3年間を比較すると、2021年は5.36倍で、2020年(5.34倍)を0.02ポイント上回るも、2019年(5.51倍)との比較では0.15ポイント下回りました。2021年の人材需給の逼迫度は、2020年を若干上回るが、2019年ほどではない状況になっています(図表⑫)。
【図表⑫ 建設技能工の平均有効求人倍率の比較】
2021年の建設技術者の人材需要は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が3回も発出されたにもかかわらず、東京オリンピックに向けた建設工事がピークを迎えた2019年に匹敵する高水準で推移しました。一方求職者においては、増加傾向で推移しましたが、2021年5月以降は一転、減少傾向に転じています。その結果、2021年の建設業の人材需給は2019年ほど逼迫するには至りませんでしたが、2020年より厳しい状況となりました。
次に、2022年の動向について、厚生労働省の労働経済動向調査による労働者の過不足判断DI(Diffusion Index:不足と回答した事業所の割合から過剰と回答した事業所の割合を差し引いた値)から考察すると、建設技術者の過不足判断DIは、2020年8月の44ポイントから上昇傾向が続き、直近の2021年11月調査では63ポイントまで上昇して、2019年11月と同じ水準となっています(図表⑦)。このことから建設技術者の不足感は急速に高まっていることがわかります。
建設技能工について、2021年11月調査では、8月の59ポイントから54ポイントに低下しており、建設技術者ほど明確な上昇傾向にはなっていませんが、依然として高水準になっています。
この調査結果を踏まえると、2022年についても、建設技術者および建設技能工に対する人材需要は高まり続けることが推測されることに加え、コロナ禍の収束に伴い他産業の採用意欲が高まることで、2022年の建設技術者および建設技能工の人材需給は、さらに逼迫するのではないかと推測されます。
【図表⑬ 建設技術者と建設技能工の労働者過不足判断DIの推移】