人手不足の状況にある建設技能工の需給動向について、統計データを使って分析をまとめました。
建設現場を支える建設技能工の人手不足が深刻な状況にあります。足元の需給状況をみると、4月の建設・採掘の職業の有効求人倍率は5.10倍と、建築・土木・測量技術者の5.49倍と並んで高い水準になっています。
本件のポイント
・現状は、建設市場の拡大に建設技能工数が追いついていない
・2020年の建設・採掘の職業の有効求人倍率はやや低下するも依然として5.40倍と高水準
・求職者数の減少傾向を改善するには、ICTやAI等を活用した建設現場の労働環境整備の推進と、建設技能工という職業の魅力を高めていくことが重要 ホワイトペーパーダウンロード
拡大する建設市場に建設技能工数が追いつかない
建設技能工数と建設工事出来高の推移を比較してみると、建設工事出来高は2000年の65兆2千億円から2011年には42兆1千億円(対2000年比64.5%)に減少しました。それに伴って建設技能工数も2000年の440万人から2011年には315万人(同71.6%)に減少しました(図表①)。その後、建設工事出来高は増加に転じ、2019年には53兆円(対2011年比126.1%)にまで増加しましたが、建設技能工数は2019年においても324万人(同102.9%)にとどまっており、建設市場の拡大に建設技能工数が追いついていないことがわかります。
【図表① 建設技能工数と建設工事出来高の推移】総務省「労働力調査」、国土交通省「建設総合統計」より作成
※建設技能工数は建設業における建設・採掘従事者+輸送・機械運転従事者+生産工程従事者で算出
2020年の建設・採掘の職業の有効求人倍率は
やや低下するも依然として5.40倍と高水準
建設・採掘の職業の有効求人倍率の推移をみると、2013年の2.46倍から上昇傾向が続き2019年には5.61倍にまで上昇しています(図表②)。これは保安の職業の7.79倍、建築・土木・測量技術者の6.69倍に次いで高い倍率であり、厳しい人手不足の状況であることがわかります。2020年については東京オリンピック・パラリンピック需要等が一段落して市場が端境期を迎えたことに加えて、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、有効求人倍率はやや低下して5.40倍となりましたが依然として高水準にあります。
【図表② 建設・採掘の職業の有効求人倍率の推移】出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
厳しい人手不足の要因のひとつは
求職者数の長期的な減少に歯止めがかからないこと
建設・採掘の職業の新規求人数と新規求職者数の推移をみると、新規求人数は2013年の31,059人から増加傾向が続き2019年には37,321人(対2013年比120.2%)に増加しているが、新規求職者数は2013年の9,257人から減少傾向が続き2019年には5,072人(対2013年比54.8%)にまで減少しています。建設市場の拡大を背景に新規求人数が増加していることに加えて、新規求職者数の長期的な減少傾向に歯止めがかからないことが厳しい人手不足の大きな要因のひとつだと考えられます。(図表③)。
【図表③ 建設技能工の新規求人数と新規求職者数の推移】出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
建設躯体工事の職業と土木の職業で
特に人手不足が厳しい
次に建設・採掘の職業を、建設躯体工事の職業、建設の職業、電気工事の職業、土木の職業の4つに細分化して有効求人倍率の推移をみると、建設躯体工事の職業が最も高く2019年には11.47倍に達しています(図表④)。次いで土木の職業が同5.55倍になっており、この2つの職業で人手不足が特に厳しい状況であることがわかります。2020年については建設躯体工事の職業の有効求人倍率は9.4倍に低下していますが依然として高水準です。一方、土木の職業の有効求人倍率は2020年も上昇して5.97倍となっていますが、その背景には2020年は民間建築工事の出来高が前年比8.5%減少したのに対して公共土木工事の出来高が同6.8%増加したことがあると考えられます(国土交通省の建設総合統計より)。
【図表④ 建設技能工の職業種類別の有効求人倍率の推移】出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
※建設躯体の職業:建設躯体工事における型枠の組立作業、とび(鳶)の作業、鉄筋の組立作業をいう
※建設の職業:大工・ブロック積み・タイル張り・屋根ふ(葺)き・壁塗り・畳の仕立て・配管・内装・ 防水の作業など*電気工事の職業:送電線・配電線・通信線の架設・保守の作業、電気通信設備の据え付け・保守の作業、電 灯・電気照明設備などの配線・保守の作業、電気機械器具の据え付け・保守などの作業をいう
※土木の職業:建設現場・土木工事現場における土砂の掘削などの作業、道路舗装の作業、鉄道線路工事 の作業、ダム・トンネルの建設工事における掘削の作業をいう
<考察>
本レポートのまとめ
建設技能工の就業者数は建設市場の拡大に追いついておらず、建設躯体の職業と土木の職業では特に厳しい人手不足の状況になっています。その大きな要因のひとつとして、求職者数の減少傾向が長期的に続いており、構造的に建設技能工の需給バランスが崩れていることがあると考えられます。この背景には、少子高齢化が進展する中で生産年齢人口の減少が続いていることのほかに、建設技能工の職業としての魅力が不足しているということもあると考えられます。
今後、ICTやAI等を活用した建設現場の効率化や安全性の向上を図る等で労働環境の整備を推進すること、建設技能工として働く人が持つ各個人の能力を可視化して、能力の向上を的確に処遇に反映させる制度の導入を進めること等で、建設技能工という職業の魅力を高めていくことが重要になると考えられます。
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