本レポートのポイント
・経済が順調に成長、低成長、ゼロ成長の3つのパターンについて、建設技術者の将来需要数を予測
・どのパターンであっても2025年、2030年いずれも建設技術者は不足
・経済が順調に成長した場合、2030年に94,157人の建設技術者が不足する可能性も ホワイトペーパーダウンロード
足元の雇用環境を踏まえて
2030年までの建設技術者の需給動向を予測
東京オリンピック・パラリンピックの建設需要もピークを迎え、建設投資は2019年度についても約56兆円(実質値)、対前年伸び率2.6%と高水準が続いています(※1)。拡大する建設投資を背景に建設技術者への人材需要も高まり続け、新卒で建設技術者として就職する人は2018年では2万1,000人に達し、対前年伸び率5.9%に増加(※2)、ハローワークにおける有効求人倍率は2019年11月に7.34倍(※3)と高止まりしています。
このような足元の建設技術者を取り巻く雇用環境を踏まえて、ヒューマンタッチ総研は、建設技術者の2030年までの需給動向について未来予測を行い、足元の潜在成長率並みの低成長率で推移した場合の【A.ベースライン成長シナリオ】、政策効果が発現し高成長を実現した場合の【B.成長実現シナリオ】、物価上昇率が0%前後で推移する【C.ゼロ成長シナリオ】の3つのシナリオにおける人材需給ギャップを試算しました。
※1 国土交通省「令和元年度(2019年度)建設投資見通し」より
※2 文部科学省「学校基本調査」より
※3 厚生労働省「一般職業紹介状況」より
<建設技術者数の試算結果>
緩やかな増加傾向が続くが2026年の49万5千人をピークに
減少に転じ、2030年には49万2千人になると試算
建設技術者数の将来シミュレーションにおいては、2015年の国勢調査における建設技術者数をベースとして、「新卒の建設技術職入職」と「他職種からの入職」を増加要因、「他職種への転職」と「定年による離職」を減少要因として下記のような考え方で試算を行いました(図表①)。
【図表① 建設技術者数の増減要因シミュレーションの考え方】
増減要因 |
試算の考え方 |
増減数 |
新卒の建設技術職入職 |
文部科学省「学校基本調査」により、2016年から2018年は実績値を使い、その後は生産年齢人口の減少や新卒獲得競争の激化により減少傾向で推移と想定 |
+25.4万人 |
他業種からの入職 |
2020年までは専門的・技術的職業平均を若干上回る流入率で推移し、2021年以降は生産年齢人口減少に伴う人材獲得競争が激化し流入率は低下すると想定 ※転職入職率=転職入職者数÷就業者数 (雇用動向調査、労働力調査の専門的・技術的職業のデータから試算) |
+13.1万人 |
他業種への転職 |
2020年までは専門的・技術的職業の平均レベルで推移し、2021年以降は若年層の増加に伴い流出率が高まると想定 ※転職流出率=転職離職者数/就業者数 (雇用動向調査、労働力調査の専門的・技術的職業のデータから試算) |
▲15.6万人 |
定年による離職 |
70歳定年への流れを受けて65歳で退職する人の比率は徐々に減少すると想定 ※厚生労働省「令和元年『高年齢者の雇用状況』」等より退職率を設定 |
▲21.2万人 |
その結果、建設技術者数は2020年以降も緩やかな増加傾向が続いた後、2026年の約49万5千人をピークに減少に転じ、2030年には約49万2千人になると試算されました(図表②)。大学、高等専門学校、専門学校等からの新卒入職者が大幅に増加しており、新卒での建設技術職への入職者数が定年による離職者を上回ると想定されます。
【図表② 建設技術者数の試算結果】
出典:総務省「国勢調査」 、文部科学省「学校基本調査」、厚生労働省「雇用動向調査」、総務省「労働力調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、厚生労働省「高年齢者の雇用状況」等を参考にヒューマンリソシア総研にて試算
建設技術者の需給ギャップの試算
下記の3つのパターン(図表③)について建設技術者の将来需要数を試算して、建設技術者数の試算結果と合わせて人材需給ギャップを示しました。
【図表③ 建設技術者の将来需要試算の前提】
シナリオ |
試算の前提 |
A.ベースライン成長シナリオ |
内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2020年7月)におけるベースラインケースの経済成長率、消費者物価上昇率をベースに建設投資の増減を試算 |
B.成長実現シナリオ |
内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2020年7月)における成長実現ケースの経済成長率、消費者物価上昇率をベースに建設投資の増減を試算 |
C.ゼロ成長シナリオ |
経済成長率、消費者物価上昇率ともにゼロ成長で推移すると想定して建設投資の増減を試算 |
A.ベースライン成長シナリオ
足元の潜在成長率並みの成長率の場合
建設技術者の不足数は60,304人に拡大
内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」におけるベースラインケースで経済成長すると想定して建設投資の将来予測を行い、人材需給ギャップを試算しました。その結果、2015年には49,370人であった建設技術者の不足数は、2025年は57,633人、2030年には60,304人にまで拡大する試算となり、ベースラインの経済成長においては建設技術者不足が今後も厳しくなると思われます(図表④)。
【図表④ ベースライン成長シナリオにおける人材需給ギャップの試算】
B.成長実現シナリオ
日本経済が順調に成長した場合は
2030年に不足数が94,157人にまで拡大
内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」における成長実現ケースで日本経済が推移すると想定して建設投資の将来予測を行い、人材需給ギャップを試算しました。その結果、2015年には49,370人であった建設技術者の不足数は2025年で71,073人、2030年には94,157人にまで拡大すると試算となり、日本経済が順調に成長した場合には、建設技術者の不足はさらに厳しくなると考えられます(図表⑤)。
【図表⑤ 成長実現シナリオにおける人材需給ギャップの試算】
C.ゼロ成長シナリオ
ゼロ成長シナリオであっても2025年には46,020人
2030年には26,680人の建設技術者が不足
2021年以降、経済成長率、消費者物価上昇率ともにゼロ成長で推移すると想定して建設投資の将来予測を行い、人材需給ギャップを試算しました。その結果、2015年には49,370人であった建設技術者の不足数は、2025年は46,020人、2030年には26,680人になるという試算結果となりました(図表⑥)。ゼロ成長シナリオであっても不足数は若干減少するものの、建設技術者の人手不足は続くと考えられます。
【図表⑥ ゼロ成長シナリオにおける人材需給ギャップの試算】
本レポートの考察
2018年から2019年にかけて建設投資の増加を背景に建設技術者への需要が高止まりしていること等を踏まえて、今回の未来予測を行った結果、建設技術者数は2026年までは増加傾向が続く一方、それ以上に建設技術者の需要が増加して、人材不足は2030年まで続くという試算結果になりました。比較的低い経済成長を前提としたベースラインシナリオにおいても2025年は57,633人、2030年には60,304人に不足数が拡大、経済がゼロ成長であっても2025年は46,020人、2030年には26,680人の建設技術者が不足するという結果を見ると、今後についても建設技術者の確保が重要な経営課題であると考えられます。
また、このような人手不足が続くことを考えると、人材確保への努力と同時にICTやAIの活用、i-Constructionへの対応等を積極的に進めて生産性向上を図ることもますます重要になりそうです。
本調査結果をまとめたホワイトペーパーのダウンロードはこちら