本件のポイント
・建設関連の6業種別主要上場企業各10社の従業員数および1人当たり売上高の推移をまとめた
・6業種すべてで従業員数は大幅に増加
・管工事業、住宅建設業、電気設備工事業、ゼネコンの4業種では1人当たり売上高が増加
<全体概況>
全6業種で従業員数は大幅に増加、
4年間で47,750人の雇用が生まれる
各社の2019年3月期の有価証券報告書を見ると、建設投資の拡大を背景として、6業種すべてで2015年に比べて従業員数が増加しています。増加率が最も高いのは電気設備業の24.0%で、次いで土木工事業の18.4%、住宅建設業の16.7%、管工事業の11.3%、ゼネコンの10.7%の順となり、プラントエンジニアリング業を除く5業種で2ケタの伸び率となっています(図表①)。6業種の各主要10社の従業員数を合計すると、15年3月期の318,222人から19年3月期には365,972人へと増加しており、4年間で47,750人の新たな雇用が生まれたことになります。
【図表① 各業種主要10社合計の従業員数の推移】
各社の有価証券報告書より作成
一方、労働生産性を示す主要指標である従業員1人当たり売上高の推移を見ると、ゼネコン、電気設備工事業、管工事業、住宅建設業の4業種で、15年に比べて増加しています(図表②)。最も増加率が高いのは管工事業で、15年3月期の5,780万円から19年3月期には6,490万円へと伸長し、2015年比で12.3%増加しています。次いで、住宅建設業が8.5%増、電気設備工事業が4.0%増、ゼネコンが2.6%増と続いています。一方、土木工事業は5.9%減、プラントエンジニアリング業は8.7%減と減少しており、労働生産性の低下が危惧されます。
【図表② 各業種主要10社合計の1人当たり売上高の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
以下、業種別に主要10社の推移を見ていきます。
<ゼネコン>
主要10社すべてで従業員数が増加、
1人当たり売上高は10社中8社で増加
ゼネコン主要10社はすべての企業で従業員数が増加しています(図表③)。最も増加率が高いのは長谷工コーポレーションで、15年3月期の5,379人から19年3月期には6,974人へと29.7%増加しています。次いで、鹿島建設が18.9%増、五洋建設が12.5%増と2ケタの増加率となっています。
【図表③ ゼネコン主要10社の従業員数の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
従業員1人当たり売上高は、10社中8社で増加しています(図表④)。最も増加率が高いのは戸田建設の21.0%増で、次いで、前田建設工業が12.6%増、五洋建設が8.3%増、清水建設が6.5%増などと続いています。一方、従業員数の増加率が最も高い長谷工コーポレーションは、15.1%減となっています。
【図表④ ゼネコン主要10社の1人当たり売上高の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
<土木工事業>
従業員数は主要10社すべてで増加も
1人当たり売上高は半分超が減少
土木工事業主要10社も、すべての企業で従業員数が増加しています(図表⑤)。最も増加率が高いのは道路舗装業界トップのNIPPOで、15年3月期の3,795人から19年3月期には6,087人へと60.4%増加しています。次いで、ピーエス三菱が13.7%増、世紀東急工業が9.9%増などとなっています。
【図表⑤ 土木工事業主要10社の従業員数の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
一方、10社中6社で従業員1人当たり売上高が減少しています(図表⑥)。減少率が最も高いのは東亜道路工業の15.2%減で、以下は、NIPPOが15.0%減、ピーエス三菱が8.5%減、日本道路が8.3%減、前田道路が8.2%減などとなり、道路舗装大手企業を中心に労働生産性が低下していることが危惧されます。
【図表⑥ 土木工事業主要10社の1人当たり売上高の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
<電気設備工事業>
従業員数は10社中9社で増加
1人当たり売上高は10社中8社で増加
電気設備工事業主要10社のうち、9社で従業員数が増加しています(図表⑦)。増加率が際立って高いのは、同業他社を経営統合したことで大幅な増加となったコムシスホールディングス(68.2%増)と協和エクシオ(64.6%増)の2社となっています。次いで、日本電設工業が16.1%増、きんでんが13.6%増、九電工が10.9%増と、それぞれ2ケタの増加率になっています。
【図表⑦ 電気設備工事業主要10社の従業員数の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
10社中8社で、従業員1人当たり売上高が増加しています(図表⑧)。最も増加率が高いのは関電工の17.6%増となっています。次いで、九電工が16.6%増、住友電設が9.4%増と続いています。一方、経営統合の影響で従業員数が大幅に増加したコムシスホールディングスは1.4%増、協和エクシオは1.2%減となり、伸び悩んでいます。
【図表⑧ 電気設備工事業主要10社の1人当たり売上高の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
<管工事業>
従業員数、1人当たり売上高
いずれも10社中9社で増加
管工事業主要10社のうち、9社で従業員数が増加しています(図表⑨)。最も増加率が高いのは高砂熱学工業で、15年3月期の4,471人から19年3月期には5,912人へと、32.2%増加しています。次いで、新日本空調が17.5%増、ヤマトが15.6%増と2ケタの増加率になっています。
【図表⑨ 管工事業主要10社の従業員数の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
従業員1人当たり売上高も、10社中9社で増加しています(図表⑩)。最も増加率が高いのは大気社の23.9%増となっています。次いで、ダイダンが22.4%増、朝日工業社が21.3%増と、2割超の大幅な増加率となっています。
【図表⑩ 管工事業主要10社の1人当たり売上高の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
<プラントエンジニアリング業>
10社中7社で従業員数は増加するも
増加率は6業種の中で最も低い
プラントエンジニアリング業主要10社のうち、7社で従業員数が増加しています(図表⑪)。最も増加率が高いのは栗田工業で、15年3月期の5,222人から19年3月期には6,613人へと、26.6%増加しています。次いで、メタウォーターが14.8%増、太平電業が14.1%増、タクマが10.8%増と2ケタの増加率となっています。一方、千代田化工は14.0%減、東洋エンジニアリングは10.4%減と、1割を超える減少率となっています。
【図表⑪ プラントエンジニアリング業主要10社の従業員数の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
従業員1人当たり売上高も10社中7社で増加しています(図表⑫)。最も増加率が高いのは新興プランテックの15.5%増となっています。次いで、太平電業が15.4%増、富士古河E&Cが15.0%増、東洋エンジニアリングが12.4%増と2ケタの増加率となっています。一方、業界トップの日揮は25.9%減、2位の千代田化工建設は11.9%減となっています。
【図表⑫ プラントエンジニアリング業主要10社の1人当たり売上高の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
<住宅建設業>
10社中7社で従業員数は増加するも
増加率は6業種の中で最も低い
住宅建設業主要10社のうち、8社で従業員数は増加しています(図表⑬)。最も増加率が高いのは飯田グループホールディングスで、15年3月期の6,129人から19年3月期には8,561人へと、39.7%増加しています。次いで、アールシーコアが32.3%増、フジ住宅が31.8%増と、3割を超える大幅な増加率となっています。
【図表⑬ 住宅建設業主要10社の従業員数の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
従業員1人当たり売上高は、10社中7社で増加しています(図表⑭)。最も増加率が高いのはフジ住宅の25.2%増となっています。次いで、住友林業が18.9%増、細田工務店が16.7%増、大和ハウス工業が16.4%増と2ケタの増加率となっています。 一方、従業員数の増加率が最も高い飯田グループホールディングスは20.7%減となっています。
【図表⑭ 住宅建設業主要10社の1人当たり売上高の推移】
出所:各社の有価証券報告書より作成
本レポートのまとめ
主要建設業60社の従業員数の推移を見ると、直近の4年間において60社中53社で増加し、47,750人の新たな雇用が生まれています。これは、増加する建設投資を背景に、建設業各社が人材の量的確保を目指して、採用活動を積極的に進めた結果だと考えられます。
また、従業員1人当たり売上高の推移を見ると、管工事業、住宅建設業、電気設備工事業、ゼネコンの4業種では増加しており、生産性が向上していると見られます。一方、土木工事業とプラントエンジニアリング業の2業種では、1人当たり売上高が減少しており、生産性の低下が危惧されます。特に、従業員数が大幅に増加した企業で、従業員の増加率ほど売上高が伸びていない例も散見されます。
こうした状況を踏まえ、来年の東京オリンピック・パラリンピックの特需が終わることも見据えると、今後は、採用戦略の重点を量から質へ転換する企業が出てくると考えられます。