本レポートは、建設業に特化して人材関連の様々な情報、最新の雇用関連データを月に1回のペースで発信しています。今回は2022年度政府予算案の中から、建設市場に大きな影響を与える国土交通省の公共事業関係予算の動向についてまとめました。
その結果、2022年度の公共事業関係費は、当初予算に補正予算を加えた合計額は減少しましたが、防災・減災および老朽化した社会インフラ対策関連については概算要求の要求額を超える予算が確保されており、国土強靭化が重要課題となっています。
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今月のトピックス
2022年度当初予算の公共事業関係費は、ほぼ前年度並みの5兆2,480億円
2022年度の一般会計当初予算における国土交通省の公共事業関係費は、前年比とほぼ同額の5兆2,480億円(前年度比0.04%増)が確保されました。2014年度以降、公共事業関係費は5兆1,700億円以上が維持されており、ほぼ同額が確保されています(図表①)。
【図表① 一般会計当初予算における国土交通省の公共事業関係費の推移】出典:国土交通省「予算決定概要」(各年度版)より作成
前年度補正予算を加えた実質的公共事業関係費は
前年度比5%減の6兆8,186億円
公共事業関係費の当初予算はほぼ横ばいで確保されていますが、緊急事態に対応するために新たに追加される補正予算については、2020年度の1兆9,342億円から2021年度は1兆5,706億円に減少しています。そのため2022年度の当初予算に2021年度の補正予算を加えた公共事業関係費の合計額は、2021年度よりも減少しています(図表②)。
【図表② 当初予算に前年度補正予算を加えた公共事業関係費の比較】出典:国土交通省「予算決定概要」(各年度版)より作成
防災・減災および老朽化した社会インフラ対策は、要求額を超える予算を確保
公共事業関係費が実質的に減少している状況ですが、防災・減災および老朽化した社会インフラ対策は国にとっての喫緊の重要課題であるという認識に変わりはなく、コロナ対策で財政が逼迫する中でも、補正予算を含めた予算概算要求額を上回る予算額が確保されています。具体的な予算項目をみると、『あらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」の本格的展開の推進』は補正予算を含めて7,243億円(要求額比1.34倍)、『南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策等の推進』に2,531億円(同1.25倍)、『災害時における人流・物流の確保』に6,869億円(同1.19倍)、『インフラ老朽化対策等による持続可能なインフラメンテナンスの実現』に8,308億円(同1.00倍)、『地域における総合的な防災・減災対策、老朽化対策等に対する集中的支援』に1兆1,889億円(同1.16倍)と、それぞれ要求額を超える予算が確保されています(図表③)。
【図表③ 防災・減災、国土強靱化に関する主な予算項目と予算額】
予算項目 | 予算額 (2022年度当初予算+補正予算) |
要求額 | 合計額の 要求額比 |
あらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」の本格的展開の推進 | 7,243億円 (5,204億円+2,038億円) |
5,401億円 | 1.34倍 |
南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策等の推進 | 2,531億円 (1,732億円+800億円) |
2,028億円 | 1.25倍 |
災害時における人流・物流の確保 | 6,869億円 (4,682億円+2,187億円) |
5,771億円 | 1.19倍 |
インフラ老朽化対策等による持続可能なインフラメンテナンスの実現 | 8,308億円 (7,204億円+1,104億円) |
8,350億円 | 1.00倍 |
地域における総合的な防災・減災対策、老朽化対策等に対する集中的支援(防災/安全交付金) | 1兆1,889億円 (8,156億円+3,733億円) |
1兆291億円 | 1.16倍 |
出典:国土交通省「2022年度予算決定概要」より作成
カーボンニュートラルの実現やDX推進のための予算も確保
注目される予算項目として、「2050 年カーボンニュートラル等グリーン社会の実現に向けた施策の展開」の『ZEH・ZEB の普及や木材活用、ストックの省エネ化など住宅・建築物の省エネ対策等の強化』に1,691億円(要求額比1.22倍)が確保されています。このことにより、LCCM(Life Cycle Carbon Minus)住宅、ZEH(Net Zero Energy House)、ZEB(Net Zero Energy Building)、長期優良住宅等の整備への支援、既存ストックの省エネ改修への支援強化を図ります。
また、ポストコロナの新たな経済社会の実現に向けて、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速を図るために、166億円(要求額比2.37倍)の予算が確保されています。公共工事におけるBIM/CIM活用への転換を目指した活用拡大や施設情報や維持管理情報のデジタル化による下水道管理の高度化・効率化等が推進される模様です。
【図表④ 注目される予算項目と予算額】
予算項目 | 予算額 (2022年度当初予算+補正予算) |
要求額 | 合計額の 要求額比 |
ZEH・ZEBの普及や木材活用、ストックの省エネ化など住宅・建築物の省エネ対策等の強化 | 1,691億円 (1,113億円+577億円) |
1,384億円 | 1.22倍 |
デジタルトランスフォーメーションの推進 | 166億円 (51億円+114億円) |
70億円 | 2.37倍 |
出典:国土交通省「2022年度予算決定概要」より作成
2022年度の実質的な公共事業関係費は5%の減少となりましたが、その中でも、防災・減災および老朽化した社会インフラ対策などの国土強靭化計画関連については、要求額を超える予算が確保されました。気候変動による豪雨の激甚化・頻発化、切迫する巨大地震への備えが急務であることなどを背景に、国土強靭化計画の推進は喫緊の重要課題であるとして、今後コロナ対策で財政が逼迫する中でも、一定の予算規模は引き続き確保されるものと考えられます。一方、国土交通省の公共事業関係費は補正予算に頼って必要な予算額を賄っている状態が続いています。今後の予算を決定するにあたって、財政の逼迫化がさらに厳しくなることが予想される中、本当に必要な公共事業かより細かく精査する動きが高まってくるのではないかと考えられます。
2021年12月の建設業界の最新雇用関連データ
(1)建設業の就業者数・雇用者数・新規求人数
建設業の就業者数は462万人(前年同月比93.0%)、雇用者数は385万人(同93.2%)で、前年同月比でともに8カ月連続減少となっています。
<建設業の就業者数と雇用者数の推移>出典:総務省「労働力調査」より作成
公共職業安定所(ハローワーク)における建設業の新規求人数は76,931人(同106.8%)と前年同月比で13カ月連続増加しました。
<建設業の新規求人数の推移(新規学卒者とパートを除く)>出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
(2)建設技術職の雇用動向
ハローワークにおける建築・土木・測量技術者(常用・除くパート)の有効求人倍率は、8カ月連続で上昇し、前年同月を0.44ポイント上回る6.70倍になりました。
労働需給の先行指標となる新規求人倍率は前年同月を1.04ポイント上回る12.71倍と大幅な上昇となり、12カ月連続上昇しました。
有効求人数は前年同月比107.6%となり12カ月連続で前年同月を上回りました。新規求人数も同107.9%と12カ月連続で増加しており、建設技術者の需要は増加傾向が続いています。
充足率は前年同月より0.72ポイント低下して2.50%となり、ハローワークで建設技術者を採用することはさらに困難となっています。
*充足率=(就職件数/新規求人数)×100(%)
<建築・土木・測量技術者の雇用関連指標の推移(常用・除くパート)>
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
(3)建設技能工の雇用動向
ハローワークにおける建設・採掘の職業(常用・除くパート)の有効求人倍率は、前年同月と同じの5.76倍となりました。
労働需給の先行指標となる新規求人倍率は上昇に転じて、前年同月を0.29ポイント上回る9.82倍となっており、来月は再び有効求人倍率が上昇に転じることが推測されます。
有効求人数は前年同月比104.5%となり、16カ月連続で前年同月を上回りました。新規求人数も同103.8%と16カ月連続で前年同月を上回っており、建設技能工への求人意欲は上昇傾向が続いています。
新規求職者数は前年同月比100.7%となり、2カ月連続で増加しました。
充足率は前年同月より1.12ポイント低下して4.44%となり、ハローワークで建設技能工を採用することはさらに困難な状況になっています。
*充足率=(就職件数/新規求人数)×100(%)
<建設・採掘の職業の雇用関連指標の推移(常用・除くパート)>
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
2021年12月の雇用関連データのまとめ
(1)主要な雇用環境指標の推移
就業者数は前年同期比で4カ月連続減少
就業者数は6,659万人(前年同月比7万人減)と4カ月連続で減少しました。雇用者数は5,984万人で前年同月と同じとなりました。就業率は60.4%となり3カ月連続で前年同月を下回りました。
完全失業者数は前年同期比で5カ月連続減少
完全失業率(季節調整値)は前月より0.1ポイント低下して2.7%、完全失業者数は6カ月連続で減少して前年同月比23万人減の171万人となりました。
【主要雇用環境指標の推移】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
最も減少率が高いのは建設業で前年同月比7.0%減
産業別に就業者数を見ると、最も増加率が高いのは不動産業・物品賃貸業の前年同月比6.6%増であり、次いで情報通信業の同6.2%増となっています。一方、最も減少率が高いのは建設業であり同7.0%減となっています。また、コロナの感染拡大が小休止となったこともあり宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業の減少幅が縮小しています。
【主要産業別の就業者数・雇用者数】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
非正規の職員・従業員数が5カ月ぶりに増加に転じる
雇用者数を正規、非正規別に見ると、正規の職員・従業員数は3,544万人(前年同月比10万人増)となり増加に転じました。非正規の職員・従業員数は5カ月ぶりに増加に転じ、同4万人増の2,097万人となりました。
【雇用形態別雇用者数の推移】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
完全失業率が最も改善したのは25歳から34歳の男性
男女別に完全失業率を見ると、男性は0.1ポイント、女性は0.2ポイント前月よりも改善しています。最も改善したのは25歳から34歳の男性で前月よりも0.8ポイント改善して3.0%となっています。完全失業者数の前年同月比をみると、男性が13万人減、女性が10万人減となり男女ともに減少しています。
【年齢階級別・男女別完全失業者数・完全失業率】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
勤め先や事業の都合による離職が前年同月比で5カ月連続で減少、自発的な離職も減少に転じる
完全失業者数を求職理由別に見ると、勤め先や事業の都合による離職が前年同月比9万人減の31万人と5カ月連続で減少しました。また、自発的な離職者についても前年同月よりも6万人減少して65万人となりました。
【求職理由別完全失業者数の推移】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
(2)全体の有効求人倍率・新規求人倍率・正社員求人倍率の推移
ハローワークにおける有効求人倍率(季節調整値)は前月より0.01ポイント上昇して1.16倍となりました。労働需給の先行指標である新規求人倍率は前月より0.17ポイント上昇して2.30倍になっており、来月はさらに有効求人倍率が上昇することが推測されます。正社員の有効求人倍率は4カ月連続で低下し、前月より0.01ポイント低い0.86倍となりました。
【ハローワークにおける有効求人倍率(パートタイムを含む/季節調整値)の推移】
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
(3)職業別有効求人倍率の推移
ハローワークにおける専門的・技術的職業の有効求人倍率は前年同月を0.18ポイント上回って1.96倍となり、6カ月連続で上昇しました。
有効求人倍率が最も上昇したのは前月に続いて生産工程の職業で前年同月を0.66ポイント上回って1.92倍となりました。9カ月連続の上昇となります。次いで建設・土木・測量技術者が同0.44ポイント上回って6.70倍となりました。
最も有効求人倍率が高いのは建築・土木・測量技術者の6.70倍、次いで建設・採掘の職業の5.76倍となっており、建設業関連専門職の人手不足が深刻な状況が続いています。
【ハローワークにおける職業別有効求人倍率(パート除く)の推移】
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成