本レポートは、建設業に特化して人材関連の様々な情報、最新の雇用関連データを月に1回のペースで発信しています。今月は、総務省の労働力調査の最新データから、建設業における労働時間の実態を分析しました。
今月のトピックス
働き方改革により長時間労働の是正が進められていますが、その中で建設業での労働時間の現状はどのようになっているのでしょうか。今回は、総務省の「労働力調査」の最新データから建設業における労働時間の実態を分析します。この調査は世帯を対象とし就業者自身が回答するため、事業所への調査では表れにくい「サービス残業」なども反映されるものと考えられます。
建設業の年間平均就業時間は3年連続で減少
総務省の労働力調査によると、建設業の年間平均就業時間は2017年の2,130時間から3年連続で減少し、2020年には2,032.2時間となりました(図表①)。製造業、情報通信業、全産業平均、いずれについても3年連続で減少しており、働き方改革による長時間労働の是正が進んでいることに加えて、2020年はコロナ禍で企業活動が停滞した影響、労働時間は全体的に短縮されたと推察されます。
【図表① 産業別の平均年間就業時間の推移】出典:総務省「労働力調査」より作成
建設業での労働時間の短縮は、製造業や情報通信業と比べて進んでいない
2020年の年間平均就業時間について、2017年比の増減をみると、建設業は98時間の減少ですが、製造業は139時間の減少、情報通信業は140時間の減少、全産業平均で116時間の減少となりました。つまり、建設業では、労働時間の短縮が製造業や情報通信業と比べると進んでいないことがわかります(図表②)。その結果として、建設業と製造業の年間平均就業時間の差は2017年の66時間から2020年には107時間に拡大しました(図表①参照)。2024年4月には、時間外労働の罰則付き上限規制が建設業でも適用されます。今後に向けて、ICTを活用した業務の効率化やテレワークの活用等で更なる労働時間の削減を進めることができるかが、建設業にとっての大きな課題になると考えられます。
【図表② 2017年比の年間平均就業時間の減少幅】出典:総務省「労働力調査」より作成
2021年7月の建設業界の最新雇用関連データ
(1)建設業の就業者数・雇用者数・新規求人数
建設業の就業者数は469万人(前年同月比98.7%)、雇用者数は378万人(同98.2%)で、ともに3カ月連続で減少しました。
<建設業の就業者数と雇用者数の推移>出典:総務省「労働力調査」より作成
公共職業安定所(ハローワーク)における新規求人数は72,636人(同105.1%)と8カ月連続で増加しました。
<建設業の新規求人数の推移(新規学卒者とパートを除く)>出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
(2)建設技術職の雇用動向
ハローワークにおける建築・土木・測量技術者(常用・除くパート)の有効求人倍率は前年同月を0.38ポイント上回る6.15倍になり、3カ月連続で上昇しました。
労働需給の先行指標となる新規求人倍率は、前年同月を1.64ポイント上回って9.80倍になり、7カ月連続で前年同月を上回りました。建設技術者の需給状況はさらに厳しくなると考えられます。
有効求人数は前年同月比107.1%となり、7カ月連続で増加しました。新規求人数も同106.3%と7カ月連続で増加しており、建設技術者の需要は増加傾向が鮮明となっています。
充足率は前年同月より0.31ポイント低下の3.35%となり、ハローワークで建設技術者を採用することは困難な状況が続いています。
*充足率=(就職件数/新規求人数)×100(%)
<建築・土木・測量技術者の雇用関連指標の推移(常用・除くパート)>
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
<建築・土木・測量技術者の雇用関連指標の前年同月比(常用・除くパート)>出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
(3)建設技能工の雇用動向
ハローワークにおける建設・採掘の職業(常用・除くパート)の有効求人倍率は、前年同月を0.05ポイント上回る5.42倍となり、3カ月連続で上昇しました。
労働需給の先行指標となる新規求人倍率は、前年同月を0.02ポイント下回る7.55倍と、僅かながら低下に転じました。
有効求人数は前年同月比106.4%となり、11カ月連続で前年同月を上回りました。新規求人数も同104.7%と11カ月連続で前年同月を上回り、企業の求人意欲は上昇傾向が続いています。
充足率は前年同月より1.18ポイント低下の5.85%となり、ハローワークで建設技能工を採用することは困難な状況が続いています。
*充足率=(就職件数/新規求人数)×100(%)
<建設・採掘の職業の雇用関連指標の推移(常用・除くパート)>
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
<建設・採掘の職業の雇用関連指標の前年同月比(常用・除くパート)>出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
2021年7月の雇用関連データのまとめ
(1)主要な雇用環境指標の推移
就業者数は6,711万人(前年同月比56万人増)、雇用者数は5,992万人(同50万人増)となり、ともに4カ月連続で増加しました。就業率は60.8%で同じく4カ月連続で前年同月を上回りました。
完全失業率(季節調整値)は前月より0.1ポイント改善して2.8%となり、完全失業者数は18カ月ぶりに減少に転じて、前年同月比6万人減の191万人となりました。
【主要雇用環境指標の推移】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
最も就業者数の増加率が高かったのは学術研究、専門・技術サービス業
産業別に就業者数を見ると、最も増加率が高いのは学術研究専門・技術サービス業であり、前年同月増減率9.7%増で23万人の増加となりました。一方、減少したのは建設業(1.3%減)、製造業(0.5%減)、生活関連サービス業(2.2%減)、教育・学習支援業(5.3%減)でした。
【主要産業別の就業者数・雇用者数】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
正規、非正規ともに雇用者数は増加
雇用者数を正規、非正規別に見ると、正規の職員・従業員数は3,594万人(前年同月比16万人増)となり、14カ月連続で増加しました。非正規の職員・従業員数は2,062万人(同19万人増)となり、4カ月連続で増加しました。
【雇用形態別雇用者数の推移】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
女性の完全失業者が前年同月よりも8万人減少
男女別に完全失業率を見ると、男性は前月と同じで3.1%でしたが、女性は0.3ポイント改善して2.4%になりました。完全失業者数は男性が前年同月よりも3万人増加しましたが、女性は8万人減少しています。年齢層別に完全失業率を見ると、35歳から44歳が前月と同じでしたが、それ以外はすべての年齢層で前月よりも改善しています。
【年齢階級別・男女別完全失業者数・完全失業率】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
自発的な離職による完全失業者は前年同月よりも3万人減少
完全失業者数を求職理由別に見ると、勤め先や事業の都合による離職が前年同月比1万人増の39万人と増加に転じました。一方、自発的な離職者は4か月ぶりに減少に転じ、前年同月よりも3万人少ない71万人となりました。
【求職理由別完全失業者数の推移】
出典:総務省統計局「労働力調査」より作成
(2)全体の有効求人倍率・新規求人倍率・正社員求人倍率の推移
有効求人倍率は0.02ポイント上昇して1.15倍
ハローワークにおける有効求人倍率(季節調整値)は前月より0.02ポイント上昇して1.15倍でした。労働需給の先行指標である新規求人倍率は前月より0.10ポイント低下して1.98倍になりました。正社員の有効求人倍率は前月と同じく0.94倍でした。
【ハローワークにおける有効求人倍率(パートタイムを含む/季節調整値)の推移】
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
(3)職業別有効求人倍率の推移
ハローワークにおける専門的・技術的職業の有効求人倍率は前年同月を0.07ポイント上回って1.75倍となり、25カ月ぶりに上昇に転じました。
有効求人倍率が最も上昇したのは生産工程の職業で前年同月を0.50ポイント上回って1.64倍となり、次いで医療技術者が同0.45ポイント上回って2.79倍、建設・土木・測量技術者が同0.38ポイント上回って6.15倍となりました。
最も有効求人倍率が高いのは建築・土木・測量技術者の6.15倍、次いで建設・採掘の職業の5.42倍となっており、建設業関連の専門職の人手不足が依然として最も深刻となっています。
【ハローワークにおける職業別有効求人倍率(パート除く)の推移】
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成
【職業別有効求人倍率(パート除く)の対前年同月比】
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」より作成