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【建設×Twitter】建機レンタル業・新光重機の「中の人」に訊く企業公式SNSアカウントのバズらせかた

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の日本での利用者は7,523万人、普及率75%だとか(2018年ICT総研調べ)。いわゆる現役世代に限っていえば、ほとんどの人が使用しているのではないだろうか。

SNSは個人だけのものではなく、企業がPRやマーケティングの目的で使っているのは周知の事実。 特に拡散性の高いTwitterで、シャープ(@SHARP_JPやタニタ(@TANITAofficial)など、大企業ながら多くのフォロワーを抱え、社会的に影響を与える企業公式アカウントもある。企業公式とは思えぬほどのはっちゃけた発言やフォロワーとの絡みぶりには、「中の人も大変ねえ」と言いたくなる。

さて、われらが建設業界はどうか。大手公式では清水建設(@Shimizu_now)があるが、そのはっちゃけ具合はというと……おや誰かきたようだ(自主規制)。いや、開設しているだけまだいい。公式アカウントを開設している企業自体が少ない。そんな姿勢によって、建設業界は他業界に比べ保守的かつ閉鎖的に映ってしまうのではないか⁉

すこしさみしく思っていた筆者は、あるときに奮闘している企業公式アカウントを見つけた。それが6,200フォロワーを誇る(2019年8月/取材当時)千葉の重機レンタル企業・新光重機株式会社【公式】(@shinkojuki)だ!

社員大会でこのセンス。しかもそれをツイートするとは……やばい。企画した中の人はどんな人だろう。千葉市の本社を直撃してみた。

「はじめまして、こんにちは」と部屋に入ってきた人物こそ……

全世界初公開! 新光重機の中の人だ!!

「中の人」は期待どおりの「中の人」感にあふれていた(『中の人』という性質上、名前や立場は公開NGとのこと)。さっそく話をうかがってみよう。

記事初出:『建設の匠』2019年09月10日

当初のフォロワーは10人だった

――新光重機さんはかなりチャレンジングなことをいつもつぶやきながら、フォロワー数6,000人超えと着実に増やしているので、SNS活用術をぜひ業界に向かってレクチャーしていただきたいなと思いまして。

新光 よろしくお願いします。そんな大それたことは言えないですけれど。まだ迷走中なので。

――Twitterをはじめられたのは、いつごろですか?

新光 2018年1月です。当社の設立記念日が1月5日なので、それに合わせて軽いノリでアカウントをつくりました。そのあとは月に一回程度、ちょっとつぶやくぐらいだったんですけれど。

個人的にコピーライティングの勉強をしていた時期があって、そこで企業広報としてSNSを活用する話が出てきて、「なんかちょっとやってみようかな」と。すると2018年10月ぐらいからフォロワー数が増えてきて……。

――ちなみに1月からはじめて、10月までのフォロワーはどれぐらいだったんですか。

新光 10とか20です(笑)。

――……すくなっ! そこからいまや6,000超え。ずいぶん激増しましたね。

新光 そうですね。とりあえず重機の写真を撮って載せたり、「重機」関連のワードを調べて、重機についてつぶやいている人に「いいね」するなどして絡んでいきました。

――Twitterのために、レンタル重機をわざわざ動かして並べて撮っているんですか?

新光 そのために動かしたり撮ったりしているのもあるんですけれど、実はTwitterをはじめる前から、きれいに並べて写真を撮って「面白いね」「きっとなんかで使えるよね」って社内でやっていたんですよ。

――どこに公開するでもなく、ですか? イイ社風……! ちなみに中の人はおひとりで……。

新光 いまはひとりでやっています。重機を動かしたりとか「ちょっとこれ持ってみて」とかいろいろ手伝ってもらってはいます。のちのち、担当者を増やしたりするかもしれませんが、いまはフォロワーさんを増やしていく段階かなというところもあって、ひとりで。

――「企業公式」は中の人のキャラの出し方が難しいと思うんですが、「あー、BUMP  OF CHICKEN好きだな」「ははーん、『AKIRA』読んでいたな」とか、世代のニオイが出るじゃないですか。あれはあえて?

新光 うーん、つぶやくことがないっていうのもあるんですけれど(笑)。ちょっと人間味もあった方がいいのかなと思うところがあったので、「好きなものをつぶやいていくと、人間味が出てくるかな」と。

このビジュアルで「人間味」だと……?

――「おはようございます」的な日々のつぶやきと重機についてのつぶやき、あとは本業に関係ないつぶやき。どのあたりが反応いいという感触なのですか。

新光 やっぱり反応がいいのは重機関係ですね。フォロワーさんは重機が好きな方が多いので。重機やミニチュア重機の写真の反応はいい。

――ある意味で思惑通り。

新光 まあ、そうですね。やりはじめた趣旨は、当社自体もそうですが、重機や重機レンタル、さらに建設関係の知名度・認知度やイメージを上げていきたいなと。重機好きな人に対してのアプローチもしつつ、「重機をあまり知らない一般の人にも裾野を広げていかなければ……」と思っています。

単に「重機好き」「ミニチュア好き」という人もいますし、「お子さんが重機好き」というお父さん、お母さんもたくさんいるし。子どものころって重機好きじゃないですか。その気持ちをずっとみんな持ってもらいたいという想いもあって、このアカウントで重機をおもしろおかしく扱っているんです。

だから単に重機の写真を上げるんじゃなくて、たとえばこのあいだも『ラピュタ』のテレビ放映がありましたけれど、その際にユンボで手をつながせてみたり(笑)

 

 

重機と一般の人をつなぐ言葉を考える工夫をしていきたいなと思っています。

――なるほど。フォロワーが増える起爆剤になったツイートは?

新光 やはりプレゼント企画ですかね。2、3か月に1回とか2か月連続など不定期でおこなっています。

 

 

――あれはメーカーさんと新光重機さんで準備をされて?

新光 そうですね。建機メーカーさんもせっかくおもしろいノベルティをつくっているので、「アカウントつくって宣伝したらいいじゃないですか」と話したら、いろいろコンプライアンスとか事情があってアカウントを持てないので、じゃあ一緒にやりましょう、と。こっちが勝手につぶやいている分には、メーカーさんに炎上リスクはない(笑)。

――リスク回避の意味で一方通行的なツイートが多く、フォロワーに絡まないスタンスの企業公式アカウントもあります。新光さんはそのあたりはどうお考えですか。

新光 みなさんに絡むのはすごく楽しいですね。それはいいんですけれど、会社が大きくなると、なかなか難しい部分があるのかなとは感じます。その点、シャープさんとかタニタさんはバランス感覚がすごい。

――つぶやき方については、なにか秘訣はありますか。

新光 つぶやく内容は基本的にはポジティブな内容にしています。そのタイミングでつぶやかなくていいことは寝かせています。下書きして、何度か読み返したりして。「これはつまらないな」「これは人をちょっと傷つける内容が入っているかなあ」と自分のなかで思ったら、つぶやかないで消しちゃうのも結構あるんですけれど。

――それはもはや「つぶやき」の域を超えているのでは……!

新光 そうですね。言い回しって、なかなか難しいですよね。あとは敬語とタメ口のバランスとか。営業をやっていたときも「ずっと敬語だと距離感は縮まらないな」と思ったので、ポップな感じで接するのも、距離感を縮めるにはいいのかなと。そういった経験をどんどん取り入れています。

――目上の人にあえてタメ口で突っ込んでみる、みたいな。社内的にはどんな反応ですか?

新光 勝手にやりはじめたんで……。営業所の女の子とあるとき話していたら、「twitterを見てる」と。「あれ、おもしろいですね。誰がやっているんですか」と言われた。

――ヒーローの世を忍ぶ仮の姿かよ!

身バレはNG!

新光 そこは素直に「あー、ありがとう」(笑)。説明をして「じゃあネタ提供して」って。

――なんですかその交換条件。で、あの女子会の写真ですか。

新光 そうですね。「女子会をやるんだったら、写真を送ってもらえればつぶやくよ」って。

 

――こういう写真は、社内のあたたかい理解と協力がないと出てこないだろうなと思いました。

新光 そうなんです。

 

大切なのは「楽しんでやる」こと

――ブランディングの一環としておこなっていて、たとえば採用やインターンシップにおける反応はありましたか。

新光 実はこのアカウントをはじめたのは、採用などのためのブランディング戦略の一環だったんです。ホームページもそれまであってないようなページだったので、ここ4、5年でリニューアルして、テレビCMも流したりして……その中のひとつとしてのTwitterだったんですけど。

その効果として、「Twitterを見ておもしろそうだなと思って合同企業説明会に来ました」と合同企業説明会のアンケートに書いてあったり、中途採用の面接でも「Twitterを見てきました」と言っている人もいるらしいと。「効果があるんだなあ」と総務担当の人と話していました。

――すばらしい! おひとりでやられていることを考えれば、広告を打つよりコスパは非常に高いですね。

新光 と思います。株主さんにも評価されましたし。

めっちゃよろこんではる

――ただ、費用対効果の話でいうと、中の人さんの労働時間をどれぐらい割いているのかが気になります。さきほども「原稿の推敲をかなりしている」という話でしたけれど、日々通常の業務をこなしながら、頭の片隅でtwitterのネタを考えているみたいな感じですか。

新光 PC画面が2つあるんですが、片方で常時twitterの画面を開いているときもあります(笑)。あと。「これ、ネタになるな」というのはスマホにメモっておいて、あとでちゃんと文章を考えることはありますね。

――『ラピュタ』の話もそうですが、映画がクライマックスになるのは22時半とか23時なので、SNSって夜中に盛り上がったりしますよね。そんな時間に企業公式が稼働しているのは「働き方改革」という文脈でいえばどうなのよという話もなくはないですが。

新光 そうですよねえ。でも22時や23時にフォロワーさんが書いてくれたのに、リプライしたり「いいね」したりしてたら、「もう寝てください」的なリプライが返ってきたりしたこともあります。「ツイ廃(※Twitter廃人。Twitterナシでは生きていけないぐらいハマッている人のこと)なんで勘弁してください。これも楽しみのひとつです」って返しといた(笑)。

――さりげなくツイ廃を公言しとる……。でも楽しんで取り組むのは大事だと思うんですよね。

新光 そうです。はい。

――これを命令されてやっていたら、しんどいだろうなと思います。でも、この業務を誰かに移管するのもまた課題では?

新光 「中の人」も2代目、3代目に移行していっている企業公式もありますよね。だから今後は2名体制でやっていきたいなと思います。ただ、どこまで自分の色を出していくかはすぐには難しい。そこは悩ましい部分ではあります。でも、Twitterをはじめたはいいものの簡単には止められないので。

――フォロワーが5,000人を超えたら、次は1万人を目指すためにどうするか。ツイートの数を増やすのか、もっとサプライズ企画をやるのか、いろいろ考えれば考えるほど、中の人さんの手数が増える。

新光 でも効果が目に見えて少しずつ出ているので、そこは楽しみながら、どんどんやっていこうかなと思っています。

事業拡大の起爆剤になる、かも?

――今後はどうしていきたいですか。

新光 コピーライティングを学んでいたときに、TwitterのようなSNSのことを「自走する広告」と言っていたんです。たしかにコンテンツ次第でみんなが転がしていってくれる。そうなれば大企業も、中小企業も関係ないと思います。今後もそういったかたちで重機の魅力をおもしろく広めていきたいなと。あとは企業コラボもおもしろそうなのでやっていきたい。

――それはたとえばどんな企業と?

新光 前に石川県のチャンピオンカレーさんが企業公式さん向けにプレゼント企画をしたんですが、そこでレトルトカレーをもらったら「それをまた配っていいよ」っておっしゃっていただいたんで、フォロワーさんにもおすそ分けして。

――そんなことが地元・千葉でコラボできたらおもしろいですね。「どの重機が名産の落花生をどれだけの量すくえるかチャレンジ」とか。

新光 あ、それいいですね。おもしろそう。たまに千葉のことをつぶやいたりするんですけど、あまり反応がもらえなくて……。もっと反応してもらえるような内容をつぶやいていかないといけないなあ。

そういえば千葉駅の近くにうちが協賛しているコワーキングスペースがあるんですが、「おしゃれなコワーキングスペースあります」ってつぶやいても、反応は皆無でした(苦笑)。

うなだれる中の人

――たしかに重機好きとコワーキングスペースはつながらないですねえ。じゃあ重機のキャビンの中で仕事ができるようにしたらどうですか? 

新光 いいですね。けっこう重機に乗るのって楽しいんですよ。学生さんのインターンシップや、うちの出資先の方に「重機体験」的にちょっと運転してもらうとみんな目がキラキラしますね。ふだん乗る機会なんてないですから。

――それはイイ話! 企画展「工事中!」でもキャビン搭乗体験ありましたけれど、コワーキングスペースの中に重機キャビンがあって、そこにパソコンを置いてカシャカシャ仕事できれば、ロボットを動かしている気になるし一部男子ウケしそう。

新光 うんうん、キャビンをつくっている知り合いがいるので、そのキャビンだけ持ってくれば……(思案中)。

おもしろいこと大好きでわくわくしちゃっている中の人

――(……この人、本気でやっちゃうかも)。今後企業がSNSを活用するにあたって、どういう心構えでやったらいいですか。アドバイスがあれば。

新光 とりあえず「1日、1ツイートはする」みたいな目標を立てつつ、「できなかったとしても、まあいいか」ぐらいの気持ちで、楽しくやるというところですかね。

あとはフォロワーさんとの絡みが楽しいので、それを楽しむこと。さきほどの「重機の魅力を言葉を介して一般の人に伝える」の一環で、うちのカタログができたとき、「カタログできました」とつぶやいたんです。するとフォロワーさんが「カタログ見るの好きです。図鑑みたいで楽しいですよね」とリプライで書いてくれて。

 

そこで翌日にカタログの中の写真をたくさん撮って「重機図鑑」みたいにツイートしたら、「これほしい!」ってDMがたくさん来ちゃった。

 

――これ、内容を見るとかなりマニアックですよ。

新光 たしかにめちゃくちゃマニアックなんですけれど、「ほしいです」と言われて「何人かいるのかな?」と思って、DMで受け付けたら、1日も経たないうちに準備した分がすぐなくなっちゃった。フォロワーさんがそういうヒントをくれたりするんで助かります。しかも自分たちとしては意外なところにみんな引っかかったりする。

――「ジムニーって重機なの」的反応が、いっぱいありましたね。

新光 「そこなの!?」って思った。みんなジムニー、好きだなあと(笑)。

 

新光 あとは、バズらせようと思ってやってもバズらない。というか、バズらせようと思ったら、だいたいスベっていく。

――Twitterあるあるですね。

新光 だいたいスベる。でもTwitterの場合は、打率よりヒット数が大事なのかなと思うんで、とりあえず打席に立って振る。業務時間内でいいとは思いますが(笑)。

――ネタはどこに転がっているか分からないですからね。いま一番バズっている「ビンゴ大会」のツイートがありますが、あれは戦略的ですか。

新光 毎回、社員大会で看板やフォトスポットをつくっているので、「今回は工事看板風のをつくって」とお願いしました。「Twitterに上げたらおもしろがる人もいるかな」ぐらいの感じでした。

――なるほど。あれは社員向けであり、社外向けだったんですね。

新光 そうです。そういうおもしろそうなことは単純に好き。

――「こういうのつくろう」と相談したら、「えーっ?」という反応が出る社風であれば、なかなか実現も難しい。逆にこういうファンキーなものをつくっちゃう会社だから、あれを見た人は「いい社風だな」と好印象を抱くと思います。

新光 あと、あの工事看板をつくったのは、うちの「MEF(Machine Education First class)」というシールをつくったりする取り組みのおかげなんです。

たとえば重機を10台導入した際、営業所に振り分ける前に本社で取扱説明書を読んで、レンタルの際に重要なポイントをシールにして重機に貼るんです。そのシール印刷をする機械が社内にある。そのオペレーターの社員に「こういうのをつくって」と頼みました。

――印刷屋さんに外注したらお金かかりますもんね。社内のリソースをうまく生かしてますねえ。

新光 そうです。あの機械がなかったら、「つくろう」とはなかなかならない。

――こういうお遊びに真剣に応えてくれるのも含めて「いい会社だなあ」と感じました。

 

ここ10年ぐらいは「くるくる回るキャリアダンプ」とか「スライドアームのユンボ」など特殊な重機を導入している新光重機。ニッチな重機のおかげで、東北や東海地区からも引き合いがあるのだとか。

 

千葉に10か所の拠点を持つものの「これからは事業を全国に広げていきたい」という中の人。きっとその際にTwitterはプラス効果を発揮するのではないだろうか。今後は動画などの新展開にも期待である。

そして取材後、しっかりこんなつぶやきをしてくれる新光重機の中の人なのであった(やさしい)。

 

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