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立命大・建山教授が「i-Constructionは地方中小企業にこそ期待」と語るワケ

さいたま市で行われた建設技術フォーラムにて講演した、立命館大学理工学部環境都市工学科の建山和由教授。i-Construction委員会委員を務めた建山教授は、「動き出したi-Construction~進化する建設技術」と題した技術講演で、標題のように熱弁した。

なぜ大企業ではなく、資金的にも規模的にも不利な中小企業なのか?

その理由や、いかに。

 

“想定外の地震”を想定し対応し続けることの困難

建山教授は、i-Constructionが叫ばれるようになった背景を、人口ピラミッドを用いながら説明した。15~65歳の生産年齢人口の層が、いまから30年後には驚くほどに痩せ衰えているという。2015年を起点にすると、生産年齢人口は30年間で約30%減る。毎年1%ずつだと分からないかもしれないが、30%減ると社会のあらゆる部分で人が足りなくなる、と。

その上で、建設業界に目を向ける。

「建設業界はいまでも担い手不足が深刻化しています。それがますます深刻化するとともに、税収もインフラの使用頻度も減っていきます。当然、インフラに対する投資も、将来的には縮小を覚悟しておかないといけない時代になっていく」

インフラ投資に焦点を当ててみる。グラフを見ると、それは1990年頃から減少傾向で、新規工事が減少し、維持・補修工事が増えている。

「維持・補修の工事というものは、新設工事よりも難しいんです」と建山教授。

「仮に『更地に家を建てろ』と言われたら、資材を持ってきて組み立てれば誰でも家は建てられる。しかし『30~40年、使った家をメンテしろ』と言われたら、まずどこが痛んでいるのかを調べ、原因を特定し、その原因を取り除く形で、補修方法を決める必要がある。しかも家を使いながら……。非常に複雑で、難しい技術が必要になってきます」

さらにキーワードとして、“防災”がある。

防災対策は、基本的に過去起きた最大規模の災害レベルに備えるようになっている。しかし無尽蔵に金をかけるわけにはいかない公共事業の限界を指摘。関東大震災の頃につくりだされた日本の耐震基準が大きな地震のたびにアップデートされている。にも関わらずそれを凌駕していく大規模地震に対して、どこまで対応していくべきなのか――建山教授は警鐘を鳴らす。

建設業界の年間総賃金は、全産業平均に比べて約24%も低いのも大きな課題だ。また労働時間も約18%も長く働いており、さらに死亡事故は全産業のうち3分の1を占めている。

「以前に比べるとずいぶん改善されています。とはいっても、他産業に比べるとまだまだ “3K”の状態から脱しきれていないと言わざるをえない」と建山教授は土木関係者を前にはっきり断じた。

ピンチはチャンス、問題はチャンスの活かし方

そんな中でも、建設業界には生産性を上げるポテンシャルがある、と建山教授は切り出した。

「建設業よりも労働生産性が低かった一般製造業が、80年代後半からファクトリーオートメーションを導入し合理化した結果、20年間で生産性を2倍にしました。一方で建設業界は仕事を分け合いながら進めていたので、生産性を上げる必要がなかった。生産性を逆に落としてしまっていたんです」

それはすなわち、伸びしろがあるということである。そこで“新3K”(給料・休暇・希望)を実現させるべく、i-Constructionが動き出したのだ。

i-Constructionは、すべてのプロセスにおいて3次元データを用いていく。たとえば、UAV(ドローンなど)を活用し上空から撮影していけば、これまで3日かかっていた2ヘクタールの土地の測量は、1時間で済んでしまう。10人工のデータ整理も1人工で済む。

施工段階でも同様だ。マシンガイダンス機能を持つ重機ならば、いちいち測量せずとも所定のトレンチを掘ることができる。施工技術総合研究所の調査によれば、この機能の有無で、オペレーターの熟練度に関わらず、作業時間は半分に短縮されたという。

 

「しかし問題は」と建山教授。「浮いた作業時間をどう使うか」。

手段と目的を逆転させてはいけない。浮いた時間をだらだら過ごすことに使っては、高いICT建機を導入する意味はない。それよりもフル装備のICT導入を目的にするのではなく、これまでより作業日数を2日減らす、作業員5人から2人で仕上げるなど「何を実現したいか」という目的を設定し、その目的を達成するために必要最小限のICTをいかに使い切るかが大切だ、と話す。

土工分野からはじまったi-Constructionは、昨年から舗装や浚渫(しゅんせつ)、そして橋梁や下水分野まで広げていこうとしている。このプロセスにおける画期的な動きとして「これまであまり見直されることのなかった国の基準やマニュアルが、ICT導入を前提に急激に見直されていること」を挙げる。

ただし、基準やマニュアルを満たしつつ、どんな技術をどのように使うかは、現場ごとの判断だ。「発注者と施工者がともに議論しながら新しい施工のカタチを行っていく必要がある。その中で現場に技術開発の機運が高まっていくことを期待しています」と建山教授は笑顔を見せた。

絶え間なく起こる災害現場で無人化施工の技は磨かれた

一般製造業に比べると、20~30年遅れていると言われている建設業界のICT導入。なぜ進まなかったのか。それは作業対象物が土や岩、砂など、物性が一致していないがゆえに、状況に応じて高度な判断を行う機能が求められるからだ。

しかし建山教授によれば、日本でもっとも研究開発投資を積極的に取り組んでいるのは医薬業で、総売上の約12%を新薬開発に投資している。それに対し、建設業はわずか0.1%(一般製造業は約4.1%、全産業平均は約3.3%)。実はこの数字にはからくりがあり、「実際には工事プロジェクトの予算を使って、実際の現場に役立たせるために開発していることが多い」のだ。それは、危険度が高い狭隘な現場などで活用されるケースが多い。

その最たる例が、災害復旧の現場だろう。1990年の雲仙普賢岳の砂防事業以来、無人化施工は試行錯誤を繰り返しながら進められてきた。有人操作に比べておよそ半分に低下する施工効率を克服するため、災害復旧の現場で20年にわたって開発が行われてきた。そしてそれは、福島第一原子力発電所でのがれき除去作業で即座に活きたのである。

「いざこんな時の対応のために専用機械を開発して倉庫に温存しておいたとしても、いざ事故が起こって倉庫から引きずり出したところで、『どうやって使うんだ?』『マニュアルはあるのか?』という話になって、おそらく使えなかったでしょう」

この20年でさまざまな災害現場で使いながら技術を磨いていたからこそいざという時にスムーズに使えた、とその継続性を指摘する。

「非常時には、ふだん当たり前のように使っている技術が一番有効です。その意味で現場において技術を磨いていくプロセスは非常に重要で、これからも大事していかなければ」と建山教授は語った。

無人化施工、目指すは月面!?

みずから判断し、みずから作業する自律型建設ロボットの登場まで、まだ私たちはしばらく待たねばならない。しかし、遠隔操作によって機械を操作できる無人化施工は、すでに多くの現場で実用技術として稼働している。

鹿島建設のA4CSEL(クワッドアクセル)は先進的なそれだ。九州の大分川ダム(ななせダム)の建設現場の動画を見せつつ、「ダンプカーやブルドーザーなどの各機械は遠隔操作ではなく、作業対象物や周辺環境、各機械の動きを把握して、それを見ながら、協調作業ができるシステムにまで仕上がっている」と建山教授。

 

そして、建設ロボットの次のステージに触れる。

「月面開発です。先行者メリットを得ようと、欧米や中国が開発プロジェクトを進めています。仮に月面に着陸ゾーンや観測ゾーン、居住ゾーンなどを建設するためには、無人の建設機械が必要です。そこではみずからの判断で周囲を見ながら、自分で動ける技術の開発が必要になってくるのです」

鹿島建設は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携しながら、A4CSELがトラブルを自律的にどう克服できるかの研究開発を行っている。現状では、月面上に1kgのものを運ぶのに1億円かかるそうだが、そんな環境下でも土砂掘削や運搬作業を容易にする技術を確立し、地球上に還元すればそれはすこぶる画期的な技術になるはず、と建山教授は熱を帯びた口調で話した。清水建設や竹中工務店も進めている宇宙開発計画、なんとも夢の広がる話である。

 

CIMよりも気軽な“映像CIM”とは

最後に建山教授は「もうひとつ、私が注目している技術」として、映像活用技術を挙げた。

それはいかなるものか。建山教授はある中小企業の事例を紹介した。建設現場に4か所の定点カメラを設置し、半年の工事期間中、撮影したという。これをストックし、30倍速~900倍速で再生すれば、現場で人や建機がどう動き、土がどう運ばれたかなどが、すべて映像を見ながら数分で確認できる。この映像データベースを、CIM(Construction Information Modeling)的なものとして捉えるという発想だ。

なぜこんな仕組みを試みたか。それは、CIMにおけるデータ共有が難しいからだ。たとえば維持管理の際に必要なデータを施工段階であらかじめ決めておかないので、データそのものを採っていない、データが存在しないということが往々に起こると建山教授は指摘する。「施工段階と維持管理段階のプロセス間の連携が必ずしもできていない」のだ。

そこで映像の出番である。「(残すべき)情報を事前に特定しておかなくても、タイムプラス映像を見れば、網羅的にさまざまな情報を特定できます。事故の原因特定も、施工計画の検証もできる。さらに、書類作成・管理の手間も削減できる。この企業さんはこれを“映像CIM”と言っていて、若手の社員教育にも活用しています」

当初は「監視されているみたい」と現場サイドの抵抗感もあったそうだが、カメラに見られていることで不安全行動も減り、現場の整理整頓も進み、さらには発注者と現場とのコミュニケーションもスムーズに進むようになったという。遠隔地にいる発注者と映像を共有したおかげで、遠隔でさまざまな指示を出しながら工事を進めたおかげで、優良工事として表彰された例もあるそうだ(編集部注:下記映像はバンコクの例。本文事例とは関係ありません)。

 

このように、BIMやCIMとは違い、ビデオさえ回せば、映像は誰でも扱うことができる。建山教授が期待を抱いている根拠は、この“気軽さ”だ。きっかけが誰でもできるものであれば裾野は広がるし、そこから必要に応じて技術力を上げて高度な情報を扱っていけばいいのだから。

このような地方の企業が行っている取り組みは、話題が話題を呼んで国土技術研究センターなどが高い関心を抱くまでに至り、すでに研究や現場試行も行われているという。地方発のトライアルが、国の標準になるかもしれない――なんともワクワクする話ではないか!

建山教授は最後に、こう締めくくった。

「ローカルな中小企業発のユニークな取り組みや、これまでにないジャンル間の連携によって、建設業界に新たな技術が生まれている。ぜひそのような事例でもって『建設業界は変わろうとしているのだ』と社会に前向きに発信していただきたいですね。そうしていけば、10年~20年後には、建設の世界は大きく変わっていると思います」

取材協力/国土交通省関東整備局

 

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