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東海地方在住の青年トシさんが西新宿都市模型を創る理由

作成者: 編集部|2021年08月25日

2018年11月のこと。開設直後でフォロワーも少ない旧「建設の匠」編集部アカウントで、ツイッターという大海をサーフィンしていたところ、偶然、ものすごく面白そうな人を見つけてしまった。

し、新宿都市模型ですって!!!!!!!

なぜ新宿?どこで勉強したの?何のために?誰のために?

……いろいろ聞いてみたくてたまらない。

とにかく、西新宿に編集部があるわれわれとしては、ぜったいに放ってはおけない存在である。

さっそくトシさんにコンタクトをこころみた。

記事初出:『建設の匠』2018年11月28日

 

小学生の頃から都市を創造していた

トシさんは大分県日田市出身の27才。現在、東海地方のメーカーに勤務しているという(2018年11月当時)。

編集部 東海地方在住のトシさんは、そもそもなぜ都市の模型をつくることにしたんですか?

トシさん 私は田舎育ちということもあって、小さな頃から都市やビルに興味があったんです。それでよく街づくりのゲームをしていたのですが、これをデジタルではなく”現物”で再現したいと思うようになり、都市模型をつくるようになりました。

新宿都市模型全景。模型の大きさは60cm×60cm。

編集部 なぜ新宿を選んだんですか?

トシさん 日本を代表するビル街はどこだろう? と考えた時に、テレビや映画でもよく映されていて、東京都庁のような誰でも分かるランドマークのある新宿が思い浮かんだんです。超高層ビルや雑居ビルが混在した街並みが面白いと思ったので、今回は新宿を選びました。

全景を別角度から。1/2200スケールで1400m×1400mの範囲を再現しているとのこと。

編集部 いつ頃から模型制作をはじめたのですか。

トシさん 最初に(このような模型を)つくったのは小学6年生の夏休みの工作です。

小学校6年生の時の作品はこちら。小6にしてこのクオリティ……おそろしい子……!!

そこから期間が空き、3年前から再開しました。

編集部 小学生からこんな高尚な遊びを……(絶句)。ちなみに建築学や模型製作などはどこかで学んで……?

トシさん 独学です

編集部 (二度目の絶句)。び、ビルはどのような素材でどういうふうにつくっているんですか?

トシさん 素材は0.1mm・0.2mm厚のファイン用紙を使用しています。ソフトはパワーポイントを使っています。

その手順は、次の通りです。

① Googleマップ&アースから、ビルの高さ、幅等の寸法を測定
② 頭の中で展開図を考え、パワーポイントでそれを描く(のり代も描く)
③ Googleマップを観察しながら窓等の細部を描く
④ プリンターで印刷する
⑤ カッター、はさみで切り取る
⑥ 木工用ボンドを使い組立
⑦ ①~⑥の繰り返しで都市模型をつくる

編集部 「頭の中で展開図を考え」とか「Googleマップを観察しながら」とか、さりげなくアナログ作業満載で泣けてきます
ちなみにひとつのビルの制作時間はどれぐらいかかりますか?

トシさん ビルの構造にもよりますが、200m級のビルだと図面を描くのに約4時間。組み立てに2時間ほどかかります。

編集部 ビルひとつで6時間! そんな作業時間はどうやって確保しているのですか。

トシさん 仕事もやりつつなので毎日とはいきませんが、平日であれば30分~2時間、休日は多いときですと10時間以上作業することがあります。
なかなかまとまった時間が取れないので、少しずつ進めています。

編集部 10時間以上!!!もはや“匠”という次元を超えて“創造主”ですね……。制作においてどんなことに苦労しますか?

トシさん 次の点で苦労していますね。

・同じビルが存在しないため、どのビルもイチからつくっていかなければならないこと
・つくっている間に建て替えが進んでいること
・つくる建物の数が膨大なため、なかなか進まないこと
・現地に行く機会があまりないので、インターネットから情報を集める必要があること

編集部 なるほど。現地に行って「答えあわせ」をして、模型に反映することもある?

トシさん 正直、なかなか現地に行けないので、近いうちには行きたいなと。Google Earthだけでは分からない部分や更新されていない場所もあるので、そういう所は現物を反映させたいと思っています。

編集部 てっきり西新宿に近いところにお住まいなのかと……。現物を見ずにここまでつくれることに驚きです……!!!

新宿の次はどの街をつくろうか

編集部 ところで、家族や友人の反応はどんな感じですか?

トシさん  最初は「紙で街をつくっている」と言ってもなかなか理解してもらえず、ハリボテのようなものをつくっていると思われていましたが、写真を見せると最初のイメージとは違ったようで、すごく驚いてくれます

編集部 そりゃ驚きますよ。でも、ひとりで粛々とつくっていくのは大変じゃないかと思うんですが、どんな時に達成感を感じたり満足したりするんですか。

トシさん  現物と変わりなく建物ができた時は嬉しいです。イチからすべて自分でつくっているため、完成した時はいつも達成感がありますね。

編集部 一番手ごわかったビルは、どのビルでしょう。

トシさん  これまでつくった中では、段差の多い東京都庁がもっとも難しかったです。 これからつくっていくものでは、曲面で構成されているコクーンタワーをどうつくろうか悩んでいます。

「段差の再現に苦労しました」というトシさんの自信作、東京都庁舎。

「屋上にある三角形の構造物」が良い出来だとトシさんが語る新宿パークタワービル。丹下健三好き?

編集部 今後の展開はどうされるつもりですか?東京の他地区を制作ですか、あるいは他の都市を制作するんですか。

トシさん これまでに霞が関ビル、サンシャインシティ、アイランドシティ等も制作しています。 新宿が完成した後は、大阪の梅田駅周辺、横浜のみなとみらい等をつくってみたいと考えています。

トシさんコレクション①「霞が関ビルディング」。日本最初の超高層ビルだ。

トシさんコレクション②「サンシャインシティ」。首都高の雰囲気がたまらない。

トシさんコレクション③「アイランドシティ」(福岡市)。

編集部 いやはや、素晴らしいご趣味ですね。「建設HR」編集部が入る西新宿プライムスクエアがつくられる日が楽しみです!!

ちなみに位置はこちら

これが西新宿プライムスクエアの雄姿。ほらほら、模型もつくりやすそうな直線基調でしょう。

トシさん「赤線内が製作範囲です」

あれ?

トシさん「赤色部分は制作済で、白色部分は未制作です」

あれれ?

編集部 あのう、トシさん、西新宿を代表すると(一部で)評判で、なおかつ模型作りに最適な超絶かっこいいビルが入っていないんじゃないかと……?

トシさん すみません……製作範囲からぎりぎり外れています。

……西新宿といえど、北新宿にも大久保にも近い当ビルがギリギリアウトだったのは悔しい限り。ともあれ、トシさんの都市模型に対する情熱はホンモノであることを痛感した編集部であった。

そしてそれから1年後。さらに2021年の夏まで、この西新宿都市模型の創造物語はまだ続くのである――。

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