地下化するばかりの首都高に辟易
新型コロナウイルスの感染拡大に気を取られている間に、首都高都心部の再構築に関して、多くの動きがあった。
日本橋付近の地下化に関しては、昨年2月に基本方針が決まっていた。地下化によって江戸橋JCTでのC1-C1方向の接続ランプがなくなり、代わって八重洲線を活用して同方向の交通を確保するとされたが、八重洲線の先、西銀座ー汐留間のKK線(東京高速道路株式会社線)は大型車通行禁止のため、そこをどう解決するかは未決定だった。
それについて今年3月10日、国交省は、「首都高都心環状線の交通機能確保に関する検討会」にて、中間とりまとめを発表した。
検討会では、「KK線の構造強化」と「別線整備」の2案が検討されたが、最終的に「別線の地下整備案」の具体化に向け、関係機関と調整を進めることになった。
記事初出:『建設の匠』2020年10月9日
出典/首都高都心環状線の大型車交通の環状機能確保策(中間とりまとめ)
別線案が実現すると、KK線の交通量は激減すると予想されることから、それを受けた東京都の有識者会議は9月24日、現在のKK線道路部分を遊歩道に作り替えるという内容の提言書素案を提示した――というのが、主な流れである。
私はもともと、日本橋付近の地下化に関しては反対の立場で、それについては当連載でも何度か触れてきた。
地下化が決まった首都高日本橋区間(撮影/編集部)
だいたいドライバーは、地下を走りたいわけではない。日本橋付近のように、一部が地下化されて上ったり下ったりすれば、それだけで渋滞の原因にもなる。第一眺望がない。ドライバーにとって首都高の最大の美点は、走りながら大東京の景観を楽しめることにある。渋滞さえなければ、山もないのに地下へ潜りたがるわけがない。
C2山手トンネル(写真/PIXTA)
もちろん私も、山手トンネルの開通は心待ちにしてきたし、実際開通に際しては人生最大級の歓喜を味わった。しかし次第にその興奮も冷め、いまでは時間に余裕があれば、わざわざ遠回りしてでもC1を走るようになっている。そちらのほうが断然気持ちいいからだ。トンネルなんて、食物でいえば宇宙食みたいなもので、腹を満たす機能しかない。
しかも日本橋付近の地下化には、山手トンネルのような渋滞緩和効果はまったくない。「邪魔だから地下へ行け」という、約半世紀前の偉業を否定するような再構築だ。首都高の歴史を愛する者としては憤懣やるかたなし。
しかし、決まったものはしょうがない。勝手にやってくれ。そんな冷めた目で見ていたのだが、残されていたKK線問題は、西銀座-京橋間に別線(片側1車線)をトンネル構造で新設することになった。
またトンネルか……。と思いつつ内容をよく読むと、別線案採用の理由として、驚くべきことが書いてあるではないか。
現在交通量の少ない八重洲線を最大限活用でき、大規模更新を行なう都心環状線の築地川区間との連携が図れることや、将来的に高速晴海線と接続すると江戸橋JCT/箱崎JCTを避けて湾岸線と都心とを結べる点などが評価された
将来的に高速晴海線と接続! そんなものが再浮上していたとは!
つくりかけの晴海線が息を吹き返す?
築地橋からC1新富町出口、入船橋を望む(撮影/編集部)
晴海線は、現在晴海出口まで開通しているが、基本的にはそこで終点で、その先の計画はない。いや、今でも都市計画は死んでおらず、一部の構造物が運河の埋め立てに伴い前もって造られてもいるが、利用されないまま半世紀近く放置(正確には公園や資材置き場として活用)されている。
入船橋から築地川公園多目的広場を見下ろす(撮影/編集部)
都道473号線下のトンネル耐震補強工事中につき築地川公園の一部をヤードとして使用中(撮影/編集部)
まぼろしの首都高は工事車両の出入用に使われている様子(撮影/編集部)
前もって造られたのは、首都高C1新富町出口付近から、晴海通りの築地市場跡地手前までの約1キロで、晴海線と接続する際は、これが晴海線下りとなる計画だ。上り線は築地市場跡地付近で下り線と分岐して、銀座ランプ付近に接続することになっている。
このように晴海線とC1との接続計画は古くから存在し、C1には接続を前提とした設計がなされているが、C2が開通する以前は、C1の銀座付近に放射線が接続しても、C1の交通容量がパンパンである以上、渋滞緩和になるとは到底思えなかった。
そういった事情もあって、この計画は長く棚ざらし状態にあり、10年前には中央区議会が、「現在何らの動きもなく、事業化の見通しが立っていない」ことなどを理由に、計画の見直しを求める意見書を出している。私もとっくにポシャッた計画と決めつけていた。それが再浮上するとは!
確かに、西銀座-京橋間に別線トンネルが建設され、それがそのまま?(未定)晴海線に接続する形になれば、ルートの選択肢が増えることで、渋滞緩和に資する可能性もある。首都高研究家としては、あの新富町の先の部分がついに日の目を見るのかぁ! いやまだ決まったわけじゃないけれど、その可能性が浮上したのかぁ! と思うだけで興奮する。
13年前に撮影したまぼろしの首都高トンネル上の築地川公園(筆者撮影)
13年前では地上に出入りする道もまだキレイ(筆者撮影)
思えば約10年前、私はテレビ朝日『タモリ倶楽部』の『首都高造りかけ大賞』なる番組に首都高研究家として出演し、この新富町の先の区間を、タモリさんはじめスタッフとともに歩いたのだった。あれはいい番組だった。あれが自分の人生のピークだった気さえする。まさかあれが本当に首都高になるとは……。
今年春に改修完了し、整備された築地川公園(撮影/編集部)
芝生やデイキャンプ場まで備える公園になった(撮影/編集部)
地下トンネルへ向かうスロープの一部は工事車両通行のために使用中(撮影/編集部)
こちらは現在の工事では使われておらず、13年前に比べて荒廃している印象(撮影/編集部)
いや、まだ決まったわけではない。決まったわけではないが、その目が出てきたわけだ。現在C1の渋滞は、C2の全通によって劇的に緩和されているので、今なら晴海線がC1にブッ込んでも問題はないだろう。
その場合、交通が重複するC1内回りの銀座-京橋間は片側3車線にしていただきたいし、できれば神田橋-竹橋間も両方向片側3車線に拡幅していただきたいが、それは措いても晴海線のC1直結計画再始動? には、久々の興奮を覚える。
往来の多い聖ルカ通りの下に潜む、まぼろしの首都高トンネル(撮影/編集部)
実現しても、晴海線も八重洲線も片側1車線だし、新設区間の大部分がトンネルや掘割になるので、眺望はまったく期待できない。逆に、いずれ遊歩道にされてしまうKK線は、有楽町や銀座の景観を楽しめる、首都高の秘境(正確には首都高ではないけれど)のような趣があり、わざわざ気晴らしに走ることもあるほどなので、ドライバーの楽しみとしては損失のほうがやや大きい。
しかし、いったいどんな接続構造になるのか猛烈に気になる。完成は、どんなに早くても2040年。いや、2050年以降だろうか。それを見てから死にたいがちょっとムリか。