「渋滞のないGW」の陰では…
新型コロナウイルスの影響で、全世界で大変なことが起きている。日本の高速道路もその例外ではなく、緊急事態宣言発動(編注:2020年4月に発出された宣言)以来、自然渋滞がほぼ消滅してしまった。これは渋滞研究家を名乗る私にとって、本当に大変な出来事だ。なにしろ、日本全国、渋滞を求めて(好きなわけではないですが……)旅をしていたくらいなのに、その渋滞がなくなってしまったのだから。
首都高研究家のほうも、どちらかというと「首都高渋滞研究家」と言ったほうが正しく、首都高から渋滞をなくすには、いや、なくすのは不可能でも、緩和するにはどうしたらいいかを提案し続けてきたのだが、その渋滞が消えてしまった。つまり私にとっては、研究対象の消失である。
では、新型コロナウイルスの影響で、どれくらい高速道路の交通量が減ったのか、データで見てみよう。
記事初出:『建設の匠』2020年5月22日
全国の高速道路の主な区間の交通量増減(対前年比、週別) 出典/国土交通省
国交省の発表によると、恒例のGW渋滞が完全に消失したNEXCOおよび本四路線に関しては、2020年4月25日から5月6日のGW期間中、全体交通量は対前年比で70%減。大惨事級の激減である。
ただし、大型車の交通量はそれほど減らなかった。同じくGW中の交通量は10%減にとどまっている。極端に減ったのは乗用車で、前年比80%減。政府がお願いしていた「人と人との接触8割減」が、見事すぎるほど見事に実現していたことになる。
通常なら最大の下り渋滞が発生するはずの5月2日(土)、東名の状況を取材するため東京―御殿場間を実走したが、やはり乗用車の激減ぶりと大型トラックの健在ぶりを実感した。
東名高速道路 横浜青葉JCT付近(筆者撮影)
たとえば海老名SA(下り)の駐車場は、乗用車46台/528枠とスカスカだったのに対して、大型車は84台/98枠と満車に近かった。GW合間の平日(4月27、28、30、5月1日)に関しては、それぞれ前年比で141%、146%、120%、120%と、むしろ大型車の交通量は増加していた。通販需要の増加や、このGWは渋滞がないことを見越しての輸送が多かったということだろう。我々の自粛の日々は、こうした物流によって支えられていたのである。
日本一の利用者数を誇る海老名SAもこのありさま。しかし奥には……(筆者撮影)
海老名SAだけいた誘導員さんもあまり仕事がない(筆者撮影)
首都高ぜんぶ「上野線」化は2021年夏への布石?
一方GWの首都高はどうだったかというと、こちらは全体交通量が40%減。乗用車は46%減だが大型車は11%減で、同様の傾向を示していた。
レインボーブリッジ封鎖しても問題なさそうな交通量(筆者撮影)
首都高の交通量が40%減というのは、それはもうすさまじい状況だ。混雑しているのが当然だけに、交通消失をより強く実感し、どこもかしこも1号上野線になってしまったような錯覚を覚えた。上野線とは江戸橋JCTから入谷までの盲腸線で、平日の平均交通量は上下線合わせて3万5千台/日程度。首都高の主要4車線路線は7万台/日前後なので、その約半分である。
これだけ空いていれば、クルマ好きにとっては天国そのもの。なにしろクルマ好きは、クルマに乗ることが楽しみだから、空いた首都高はかっこうの目的地になる。パチンコファンが開いているパチンコ店に殺到したように、私を含むクルマ好きが空いた首都高をつい走ってしまったのは、止められない衝動だったことを告白しよう。
「ルーレット族が我が物顔に暴走」とも報道されたが、ルーレット族などごくごく一部で、辰巳PAに集まっていたのは、単なるクルマ好きが大部分だったと申し上げておきたい。
一見「ルーレット族」だけれど制限速度+αで走っていた(筆者撮影)
5月1日以降は辰巳PAなど首都高の4つのPAが「ルーレット族対策」として閉鎖されたが、真のクルマ好きは空いた首都高を気持ちよく走れればそれでOKだったので、実は何の問題もなかった。PAが閉鎖ならクルマから降りる機会もなく、感染リスクはゼロ。「開いてるパチンコ屋がなければ行かないよ」みたいなもので、閉鎖そのものはよしとしたい。
カーマニアが集まる辰巳PA(筆者撮影)
もうひとつの衝撃は、GW明けの首都高のスムーズぶりだ。さすがにGW中に比べると交通量は復活し、おおむね20%減で推移している。しかし相変わらず自然渋滞はほぼゼロだ。
本来なら今年(2020年)行われるはずだった東京オリンピックの期間中、東京都は首都高の交通量最大3割減を目指していた。そのため首都高では、期間中に限り一般車に対する一律1,000円上乗せが実施されるはずだった。
私は以前から、「最大3割削減は目標が高すぎる」と主張していた。首都高の交通量をそんなに減らしたら、一般道へのしわ寄せが大きくなりすぎる。15%程度の削減で十分で、一律1,000円上乗せは高すぎる、せいぜい普通車の料金を大型車(1.65倍)にするくらいが適当ではないかと。
こうして実際に交通量2割減が実現してみると、都の目標が過大であったことがよくわかる。7月、8月の交通量は5月より5%ほど増えるが、それを加味しても、ここ数日の状況は、都が目標にしていた交通量に極めて近いはず。ここまで首都高をガラガラにする必要はないはずだ。
そうか、都はオリンピック期間中、まさに緊急事態宣言発出のような状況にしたかったのか!
つまり今回の非常事態は、2021年に開催される東京オリンピックにとって、有益な予行演習にはなったかもしれない。なにしろ、「一般ドライバーのみなさんは、去年を思い出してください!」と言えばいいのだから。各企業にも「去年同様のテレワークでお願いします!」と。
それで首都高がガラガラになり、ルーレット族がちょこっと(私の推測では数台)出没したとしても、移動オービスで取り締まればいいだけのこと。オリンピック開催には何の悪影響も与えないはずだ。