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建設人事のお悩みに圧倒的熱量で寄りそうメディア

首都高研究家・清水草一コラム【15】死ぬまでに実現してほしい「外環道補完計画」

編集部 2021年10月22日

高速道路建設の有終の美を飾るのはどこ?

高速道路に限らず、日本のインフラ建設は、おおむね終了しつつある

たとえば鉄道は、いわゆる我田引鉄による野放図な路線拡大もあって、国鉄の経営が破綻状態に陥り、中曽根総理が民営化を断行。以後、新線の建設は採算性の確保が第一となり、採算性のない路線の廃線も進んだ。

その結果、半世紀前に比べると、国鉄(現JR)の総延長距離は若干減少。民鉄も含めると微増になるが、50年間、ほぼ横ばいで推移している。

一方高速道路はというと、国鉄民営化に遅れること約20年、こちらも道路四公団による採算を無視した路線の延長によって、「このままでは第二の国鉄だ」と大問題となり、小泉総理の下、民営化が断行された。

ただ、鉄道と違って、高速道路は廃線になった路線はなく、建設中止が決まった路線もない。採算性が望めない路線に関しては、「新直轄」という制度によって税金で建設される(料金無料)ことになり、その他の路線では、建設費のコストダウンを後押しするインセンティブ制度が導入された。

これに関して、民営化当時は「生温い」「骨抜きだ」という声が多数だったが、結果を見ると、効果は非常に大きかった。

公団時代末期、合計38.2兆円あった債務は、14年後の現在(2018年度末)、27.5兆円と、10.7兆円も減少している。建設を続行しながら借金を大幅に減らしたのだから、奇跡的と言ってもいい。

記事初出:『建設の匠』2019年12月19日

 

01独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構HPより引用

その内訳を見ると、純粋に節約(?)で返済したわけではないが、とにもかくにも債務が順調に減少し、しかもそれが予定を上回るペースならば、これほどの大成功はないだろう。

債務減少の要因としては、借入金の金利水準がずっと低いままであることも大きい。

なにせ巨額の借金だ。通常なら利子も巨額になる。道路公団民営化当時は、借入金の今後45年間の平均金利を4%で計算していたから、38兆円借金があれば、年に約1兆5千万円もの利払いが発生するはずだった。

ところが、高速道路保有機構の借金の現在の平均金利は、たったの1.02%。金利負担だけで年に1兆円も助かった計算だ。

政府・日銀は、デフレ脱却を目指してゼロ金利政策を継続している。ゼロに近い金利で借金ができるのだから、どんどんお金を借りて投資してくださいというわけですね。ただ思うように投資は広がらず、物価も上がらず、現状では金利が上がりそうな気配はカケラもない。

そういう背景もあってか、近年ついに高速道路の新規計画が動き出している

新規と言っても、正確には「事業化されていなかった計画の再検討」だが、前回書いた第二湾岸については、ルートも見直して一から仕切りなおすとのことなので、新規計画と言ってもいい。

首都圏で、もうひとつ動き出している大物がある。外環道のミッシングリンク、東名から湾岸線までの区間である。これも計画自体は存在していたが、「調査中」のまま、ルートもまったく未定で棚ざらしにされてきた。

それが2年前から、国交省によって計画検討協議会が設立され、議論が始まっている。

02外環道東名~湾岸線区間(図は国土交通省資料より引用)

実はこの区間について、以前私は「必要ない」としていた。計画中だった首都高の新規路線で補完できるからだ。

外環道は本当に必要なのか?

その新規路線とは、C2(中央環状品川線)と横浜環状北線/北西線。C2は2015年、横浜環状北線は2017年に開通。北西線も2020年3月に開通の予定(編注:2020年3月22日に無事開通)となっている。

03横浜環状北西線計画概要(図/首都高速道路)

この2本の環状線が、湾岸線と東名あるいは首都高3号線を結べば、棚ざらし状態の外環道ミッシングリンクまで造る必要はない。外環道を造るには巨額の費用が必要だが、料金でそれを返済できる可能性はゼロという事情もある。

たとえば、現在建設中の外環道東京区間(関越-東名間)の事業費は、当初約1兆3千億円とされていたが、そのうちNEXCOが負担するのはわずか2,500億円程度。残りは国(4分の3)と都(4分の1)が税金を投入する。つまり料金で返済可能なのは2500億円分しかないという計算だ。

外環道東京区間の建設費は、3年前の再評価で約3,000億円増加し、約1兆6,000億円となった。工事の遅れもあって、最終的には2兆円近くに達する可能性もあるだろう。それでも効果を考えれば造る価値はあるが、横浜環状北西線という代替路線のあるミッシングリンク区間は、さすがに必要ないのではないか?

しかし、経済情勢を考えると、そうでもないのかもしれない。

来年度(編注:2020年度)は、3年ぶりに国の財政投融資予算が増えるという。もともと金利水準は過去最低レベルだが、国の保証のある借金(財投債)なら、さらに低利で調達できる。それをインフラにも積極的に投入し、さらなるインバウンドの増加等を狙い、最終的には税収増につなげて帳尻を合わせようということだ。来年度は、成田空港第三滑走路や大阪の地下鉄、暫定2車線高速道路の4車線化などが対象となる。

外環道も、単独では絶対に採算は取れないが、トータルで見れば効果は確実にあり、決して無駄な投資ではない

日本の高速道路建設は、おおむねあと数年以内に終わってしまう。「もうこれで十分」という考えもあるが、投資なくして成長なし。投資をやめたら個人も企業も国も終わりだ。長い目で見て効果が期待できるインフラには、カネを突っ込むべきである

04必要な高速道路整備にはしっかり投資してほしい(写真/Adobe Stock)

私だって本音では、高速道路ネットワークが充実してほしい。なにせ高速道路マニアなのだから。

外環道トンネルをいっそ“地下神殿”に

では、外環道ミッシングリンクは、どこにどうやって造るべきか。

工法としては、住宅密集地でもあり、トンネル以外の選択はありえないだろう。

始点は言うまでもなく外環道東名JCT。終点は、首都高川崎線大師JCTで決まりではないか。

05首都高速道路神奈川1号横羽線大師出口(写真/PIXTA)

もともとの構想では、終点は漠然と羽田空港付近になっているが、アクアラインとの接続を考えても、川崎線を生かすのは当然すぎる選択となる。もともとこの付近は、外環道と川崎縦貫線(川崎線の延長部分を含む)のルートがダブっていて不合理だった。一本化すべきである。

事業主体は首都高でもNEXCOでもかまわない。利用者としては、乗り口と降り口が同じなら、どのルートでの料金水準が同じになればそれでいい。

車線数は「4」。川崎線が4車線なのでそれに合わせる。横浜環状北/北西線の存在を考えれば4車線で十分だ。それが東名JCT以北で6に増えるという形は、交通需要的にも合理的ではないだろうか。

問題はルートだ

大深度地下を利用するにしても、途中にJCTやインターを造れば、かなりの用地買収が必要になる。JCTもインターもナシ、という選択もあるが、それでは地元のメリットがあまりにも乏しくなり、理解は得られまい。

となると、多摩川の地下を通すというのはアリではないか。先般の台風19号のような増水時には、通行止めにして地下河川(貯水池)として利用する手もあるだろう。

06神田川・環状七号線地下調節池。トンネルがこれのような役割も担えば治水対策になるのでは?(写真/PIXTA)

多摩川なら、河川敷も含めれば数百メートルの幅があり、インターへの連絡路もその内側に収められ、用地買収は最小限ですむ。「川の直下トンネルなんて大丈夫か」という不安もあるだろうが、海底トンネルが大丈夫なのだから何の問題もない。水害対策も兼ねるというメリットがあれば理解も得られやすいだろう。

07多摩川と高速道路の関係(地図/国土交通省関東整備局京浜河川事務所管理区間)

途中交差する高速道路は第三京浜だけだが、これとの接続は困難なので断念。中原街道と国道1号線にインターを建設するのが妥当か。

多摩川の屈曲部(川崎駅付近)は、川からはずれて大深度地下を直進させ、大師JCTに接続。大師JCTは当初計画通り、都心方面へのアクセス可能な形状に改修する。

単なる一案だが、こうして考えて見ても、建設にはそれほどの支障はなさそうだ。ならば私が死ぬまでに実現させてほしい。かなり難しいだろうが……。

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