台風一過の千葉で起きていたこと
2019年9月8日(日)から9日(月)にかけて、台風15号が関東地方を直撃し、台風の進行方向右側に位置した千葉県内で、特に大きな被害が出たのは皆様ご存じの通りだ。
台風一過の9日は、首都圏の鉄道の運転再開が遅れて、通勤の足が大混乱したが、高速道路も、千葉県内や神奈川県内の多くの路線が通行止めになった。
私個人は、9日当日、自動車雑誌のロケで内房方面に向かう予定で、午前11時に東京湾アクライン・海ほたるPAでスタッフと待ち合わせすることになっていた。
東京では、午前6時頃には風雨ともに弱まっていたし、嵐自体が予想されていたよりも「大したことなかった」という印象だったが、交通情報を見ると、アクアラインを含む千葉県内の高速道路はすべて通行止め。東名も、東京-横浜青葉間が通行止めだった。
すでに強風は吹いていなかったので、間もなく開通するんじゃないかと少し待ってみたが、見通しが立たずロケ地を変更することにした。
その時点で、中央道や関越道、東北道には通行止めはなかったが、一部で大渋滞が発生していたこともあり、消去法で常磐道方面を選んだら、これがうまく当たった。道中は首都高も常磐道も非常にスムーズ。平穏そのものだった。
茨城県は千葉県のとなり。待ち合わせした守谷SAは、台風の進路のかなり直下に位置したはずだが、なんの被害も認められなかった。
正午頃には、すでにアクアラインも開通していた。なのに、それ以外の千葉県内の高速道路は全面通行止めだ。交通情報によると、理由は「横風」となっていた。
記事初出:『建設の匠』2019年9月21日
(写真/PIXTA)
「強い横風なんて吹いてないよなぁ。なんでこんなに通行止めを長引かせるんだろう」
その時点では、千葉県内での強風による甚大な被害および広範囲におよぶ停電の発生は伝えられておらず、中央のメディアは、通勤の足の混乱ばかりをクローズアップしていたのだった。
ロケを終えて東京に帰着してみると、今度は成田空港の大混乱が大きく取り上げられていた。空港に乗り入れる鉄道はすべて運休。高速道路(東関東道)もまだ通行止めで、成田は陸の孤島化しているという。
さっきまで、比較的近くの茨城県南部でロケをやっていた当方としては、それこそ「なにをやってるんだ?」と思ってしまった。
鉄道は、架線などデリケートな部分が多いので、運休が続いているのは仕方ないとしても、高速道路はそんなに複雑なものではない。路面さえあればクルマは勝手に走る。
仮にインターチェンジのETCや料金収受機器が停電で動かないとしても、安全性に問題がなければ、リムジンバスだけでも特例的に走らせるべきではないか。来年、東京オリンピックを控えているのに、こんな四角四面な運用でいいのか。もっと柔軟に対応して、公共交通機関としての責務を果たすべきではないか! などと考えたりした。
架線も周囲の木々もあって障害物候補だらけのN'EX(写真上)に対し、東関東自動車道(写真下)は高架。なのに……(写真/PIXTA)
夕方17時45分、成田スカイアクセス線が復旧。リムジンバスも17時15分に運転を再開したが、東関東道が相変わらず通行止めのため、圏央道から常磐道を迂回する形での運行となっていた。また、すでに空港に人が充満していたため、スカイアクセス線もリムジンバスも、いつになったら乗れるのか見当もつかない長蛇の列ができた。
22時過ぎになって、ようやく東関東道の通行止めが解除されたが、すでにリムジンバスは終バスに近く、増発もなかった。
翌10日朝、JR含め鉄道が全面復旧し、10日正午になって、館山道など残る高速道路の通行止めもすべて解除された。成田空港の混乱も徐々に終息したが、そのころからようやく、千葉県内の大規模停電や家屋等の被害がクローズアップされた……という流れだ。停電による通信回路の途絶や交通手段の喪失によって、千葉県内の状況がなかなか伝わらなかった部分があるだろう。
先般、インドネシアのスラウェシ島で大地震が発生した際は、「津波で壊滅した町があるようだ」というところから、被害の全貌が明らかになるまで数日かかったが、東京のすぐ隣県でそれに近い情報遮断が起きるとは! 内房方面でロケをしようなどと考えていた我々がいかに呑気だったか、翌日になって思い知らされた。
高速道路の通行止め解除に時間がかかった理由
それにしても、高速道路の通行止めがなかなか解除されなかったのはなぜなのか。これに関しては、テレビニュース等ではほとんど報道されていない。
理由は、「飛散物や倒木の処理に時間がかかったため」である。
NEXCO東日本が公開した画像を見ると、東関東道などの路面上に、巨大な何物かが覆いかぶさっていたり、木が倒れかかっている。また、木の葉の散乱がものすごかったりもする。
今回の台風のキーワードである「倒木」(写真/PIXTA)
9日の時点では、私の地元の東京・杉並区でも、街路樹の下には粉々になった落ち葉が堆積していた。高速道路でああいうものに乗り上げたら、それだけでかなり危険だ。
高速道路会社は路面を清掃する車両を持っているが、今回の台風では、通常はまずありえないレベルの巨大な物体も飛来し、木が多数(2ケタ以上)倒れかかり、落ち葉をはじめとする大量のゴミが路面を覆っていたのである。
そのためNEXCO東日本は、比較的被害が少なかった圏央道ルートの復旧をまず優先させ(9日16時45分通行止め解除)、成田空港のアクセス確保に努めたという。
しかし、高速道路上への土砂崩れなどの、いわゆる「被災」はなかった。
東日本大震災の際は、常磐道の盛り土区間が150mにわたって崩落し、NEXCO東日本はそれをわずか6日間で応急復旧させて海外メディアを驚かせたが、今回のような広範囲にわたる飛来物や倒木等の処理は、地味なだけにあまり報道されず、私のように「なぜ通行止め?」と思った利用者が結構いたのではないかと想像する。
停電に関しては、インターチェンジには非常用電源が用意されているため、「停電だけで通行止めになることは、通常ない」(NEXCO東日本)という。ただ、街路灯が点かないなど安全上の理由により、警察が通行止めを判断する場合もある。
電気を必要とする高速道路設備は停電対策万全だとか(写真/PIXTA)
とにかく今回の台風では、千葉県内がこんなことになっているとは、翌日(10日)まで多くの人が知らなかった。私も、呑気にアクアラインで内房に乗り付けたりしなくてよかったのか、それとも行って慄然とすべきだったのか、どっちなのだろう。
それにしても、成田スカイアクセス線の復旧(17時45分)と、圏央道ルートの通行止め解除(16時45分)がほぼ同時だった点に関しては、もうちょっと高速道路にがんばって欲しかったという思いが残る。どう考えても鉄道より高速道路のほうが、システム的に単純なのだから。
もちろん、圏央道が完成していたことで、鉄道にかろうじて勝てたとも言えるわけで、高速道路マニアとしては、心境は複雑だ。