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建設人事のお悩みに圧倒的熱量で寄りそうメディア

首都高研究家・清水草一コラム【10】東京湾アクアライン破れたり! 港珠澳大橋の衝撃

編集部 2021年10月15日

「日本の高速道路に、なにかすごい部分はありますか?」

2か月ほど前(編注:この記事は2019年7月に公開されたものです)、NHKの番組『突撃!カネオ君』の制作をしているプロダクションから連絡があった。高速道路をテーマにした回を作るので、話を聞かせてほしいとのことだった。

テレビ番組の制作スタッフは、「出してやる」という態度だったり、旅の恥はかき捨てで平気でボツにしたり、ものすごく無礼な場合が多いので、近年は電話取材以外は断るようにしているが、NHKは別だ。

私が知る限り、NHKのスタッフはものすごくまじめで礼儀正しい。「記者」と電話で名乗った女性が、実は女子アナだった!(NHKでは、レポーターの正式な肩書は記者らしい)なんてこともある。なんだか嬉しくて涙が出そうになりました。だって民放の女子アナなんて、アイドルみたいなもんじゃないですか! それに比べてNHKのなんと質実剛健なことよ。スキスキNHK。

記事初出:『建設の匠』2019年7月22日

 

01※写真はイメージです(写真/Adobe Stock)

プライベートでも、私はほぼNHKしか見ない。民放の番組は軽薄で騒々しくて、とてもじゃないが見ていられない。つまり私にとってテレビは4チャンネルしかない。NHK総合とEテレ、BS1とBSプレミアムである。中でも視聴時間の7割をBSプレミアムが占めている。BSプレミアムが面白い番組をやってない時間帯は、私にとってテレビはただの箱である。いや、今は板でした。

あ、そう言えば民放でも、テレ朝の『タモリ倶楽部』だけは別だった。8年前、私は首都高研究家として『タモリ倶楽部』に出演したのですが、あの番組はスタッフのノリがサブカル系出版社みたいで、メチャメチャ肌が合ったし楽しかったのです!

ほら、『タモリ倶楽部』に出てくる専門家って、こけし研究家とか、ファミレスのスープバーで具をたくさんすくう技を研究してる人とか、よくまぁこんな人が世の中にはいるもんだなぁという皆さんばかりでしょ? 自分がその一員になれたのは人生の金字塔! 生きててよかった。

話がそれた。今回のテーマは『突撃!カネオ君』だった。

我が家の近所のファミレスにやってきたスタッフは、NHKの社員ではなく制作会社の皆さんで、これまで接したNHKのスタッフとはちょっと毛色が違って民放っぽい感じもしたが、とにもかくにも大好きなNHKの番組なので、私は喜んでいろいろな質問に答えた。

彼らが求めているのは、「日本の高速道路に、なにかすごい部分はありますか?」ということだった。ちなみに彼らの言う「高速道路」は、東名や名神などの都市間高速道路を指しており、首都高などの都市高速ではないようだった。

02富士山と東名高速道路(写真/Adobe Stock)

私はハタと考えてしまった。

日本の高速道路に、すごい部分ってあったっけ?

日本高速道路唯一の自慢が……

日本の高速道路は、先進国の中ではおそらく最も貧しい。なにしろ車線数が少ないし、料金はメチャメチャ高い。つまり、利用者側としては世界で最もコスパが低い。それでも一般道よりは断然気持ちいいし快適なので、私は高速道路が大好きだが、しかし諸外国と比べて凄いところってあるだろうか。

「まあ、耐震設計でしょうかねぇ。なにしろ世界一の地震国ですから。あとはSA・PAの充実ぶりですね」

「他にはありませんか?」

「うーん、建設費の高さは、平均しても世界一でしょうね」

その理由については、当連載の第5回で書かせていただいた。

その他いろいろ根ほり葉ほり聞かれたのだが、自分の専門分野について、ある程度話がわかりそうな人に質問されるのってすっごく楽しいんスよ! 民放のADだと、「えーと、富士山のほうにいく高速道路って何でしたっけ?」とか、超オバカな質問しかできなかったりするけれど、やっぱり外注の制作会社でも、NHKのスタッフは一味違う。ちゃんとわかってる感じなので、私は立て板に水で機関銃のように喋りまくった。

そうやって喋ってみると、自分って高速道路に詳しいなぁと実感。しかも高速道路の研究家は、日本に私ひとりしかいない! こけし専門家みたいなもんですから、独壇場なんですわはっはっは。

とにかくいろいろ喋ったわけですが、最後のほうで、東京湾アクアラインの海ほたるPAの話になった。

03海上にかかるアクアブリッジ(写真/Adobe Stock)

04海ほたるPA(写真/Adobe Stock)

「海ほたるは、世界唯一の海上PAですよね?」

あっ、知らないのか。

私は、とても悲しい顔をして応えた。

「ついこの間まで世界唯一だったんですが……」

「えっ、違うんですか!?」

「ええ。つい最近、できてしまったんですよ」

「ど、どこですか!?」

「香港-マカオ間です。長大橋とトンネルを組み合わせたアクアラインそっくりの構成で、トンネルから橋になる部分にPAがあるのも同じです」

正確には、PAはまだ完成していないので、今のところ海ほたるが世界唯一の海上PAだとも言えるが、もはや時間の問題だ。

正式名称は『港珠澳大橋』。完成は昨年秋で、総延長55キロ、うち6.7キロは海底トンネルだ。アクアラインは海底トンネルが10キロなので、トンネル部の長さでは勝っているが、全体としては「やられた!」としか言いようがない。

05港珠澳大橋の長さは49メートル以上(写真/PIXTA)

06港珠澳大橋(写真/Adobe Stock)

07海ほたるのように人工島がある(写真/Adobe Stock)

アクアラインと海ほたるは、高速道路という枠内にとどまらず、日本の誇る偉観だった。道路自体も15キロの直線。トンネルだから横風もなく、仮に占有させてもらえれば最高速トライにも最適だろう。

高速道路での最高速トライと言えば、1938年のアウトウニオンPワーゲンによるものが有名だ。伝説のレーサー、ベルント・ローゼマイヤーは記録更新を狙って、アウトバーンの20キロ以上にもなる直線区間で最高速トライを敢行。時速470キロ(!)をマークしたが、木立の切れ目から吹き抜けてきた横風にあおられてクラッシュ、即死した。まさにスピードが人類の夢だった時代の豪傑伝である。アクアラインなら横風もないので、時速500キロ出たかもしれない……。

また話が逸れてしまった。とにかくアクアラインは素晴らしい。海ほたるも素晴らしい。富士山も見えるし、夕暮れ時、羽田空港にアプローチする旅客機が2列に並んでA滑走路とC滑走路へと降下していく様は本当に美しい。中国人観光客の皆様にも、「貴国にもこんなPAはないでしょうガッハッハ!」と自慢したい! そんなことをつい思ってしまう、日本が誇るべき存在だったのだ。

それがあっさり抜かれてしまったとは! 日本の高速道路マニアとして大ショック!

まあとにかく、そんな感じで取材(単なるリサーチ)は終わった。その後くだんのスタッフからは何の連絡もなく、もちろんギャラもなく、番組は2019年7月27日に放送されたらしい。

最後に私はスタッフに、「ぜひ港珠澳大橋の取材に行ってください。実際どうなのか私も知りたいので」とお願いしておいたが、たぶんというか絶対取り上げられてないだろうな。話題が逸れすぎで。

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