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Y田Y子の「人はなぜ日本武道館をめざすのか」【3】玉ねぎは「武道の心」のシンボル~あの曲線の秘密

編集部 2021年07月20日

日本武道館をめぐる大好評連載、第3回はあの“玉ねぎ”が印象的な屋根の意図に迫ります!(編集部)

記事初出:『建設の匠』2019年6月28日

 

【3】玉ねぎは「武道の心」のシンボル~あの曲線の秘密

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今月の解説

みなさまこんにちは。漫画エッセイストのY田Y子です。

漫画エッセイ『人はなぜ日本武道館をめざすのか』。第3回目は祖父が語っていた「日本武道館の屋根にこめた心」とはどんなものか。かなり難しかったのですが、読み解いてみました。

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少年時代から故郷の景観を愛し、風景画をよく描いていたという祖父は、そこからの気づきだったのか、建築家としての初期から「自然界に直角はない」という考えを持っていました。
一生を通じ、建物のどこかに曲線を必ず使うようにしていたのは、「自分のつくる建物は、自分の愛する日本の景観になじむものであって欲しい」という思いがあったからではないか。そう私は感じています。

祖父は西欧の建築を学びましたが、それを日本の風土や感性に適合させていくにはどうしたらよいか、ずっと考えていたようです。

祖父は富士山がよく見える場所で仕事をしていた時、自分のテーマでもある「曲線美」を持つ富士山の裾野が、日本のたび重なる自然災害にも耐えてきた石垣と同じカーブを描いていると気づきました。重力に抗わないことで強さを発揮しているその姿を、日本人の特性や柔道の精神に重ねられると考えたようです。

ラジオ『建築夜話』の中でも、
「西洋の唯物論に心から納得できる日本人はほどんどいないのではないか」
「日本人の中には、禅的な『モノも精神も一体である』という感覚があると思う」
「東洋人の心の中から湧き上がって来たようなものをつくらないといけない」
など、自分の経験や考えをもとにした「日本の建築にあるべき精神はどんなものか」について、語っていました。

「モノと心を統一させる」――日本人がよく言う「モノに心をこめる」――という考え方が、単なる西洋からの借り物でなく、日本の風土や感性に合った建物を作る手段として導き出されたようです。
日本武道の殿堂に、日本人の特性や武道の精神にも呼応するモチーフ……すなわち富士山の裾野を使い、そこに建物の意図や精神性を暗示させた、ということなのでしょう。

また「シンプルな形には、どこかに全体を引き締めるポイントを置くようにしている」と造形へのこだわりをつねづね語っていた祖父は、現在〝玉ねぎ〟として親しまれているあの形をシンボルとして置き、「これは武道・柔道の心を表すものだ」と語ったそうです。

その後、歌でも“玉ねぎ”とうたわれ、結果として人々の心を惹きつけるポイントとなったあの形が「武道の心が込められたシンボル」であるという意図は、のちにインタビューされた守の息子たちが伝えていました。それは守自身が生前、語り尽くせなかった部分なのかもしれません。

図解して語っても分かりにくい話ゆえ、なかなか知られていない内容でしたが、日本武道館の設計意図が、「モノとしてだけでなく精神的なものにまで踏み込んで考えられていた」ことを、ここで少しでもご理解いただけたら、いろいろな経緯の末に意図を知ることができた末裔のひとりとして、とても光栄です。

漫画の中で何度も出てくる「しなやかな日本人の特性」とは、たび重なる自然災害から復興したことで身についたと言われる、外から大きな流れが迫っても逆らわず受け止め、自分の中で消化し、より良いものに作りかえていってしまうような、独特の力のことです。

具体的には、大陸から渡来した漢字をもとにした「かな文字」や、現代ならばコンパクトで燃費の良い自動車をつくりだす力など――例を挙げれば枚挙にいとまがありません。

外国の文化を取り入れても決して染まることなく、日本独自の文化に変容させながら発展していく力は、たしかに日本の特性と言えるでしょう。嘉納治五郎の下で教師をしていたラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が、「相手の力を利用して勝つ」という柔道の特性と絡めて、海外にこの性質を紹介したのもうなずけます。

最後のコマにも書きましたが、日本武道館の施設自身も、偶然とはいえ、当時は革新的だったロック・ミュージックを、拒絶しないで受け入れるような柔軟性があったことが、今日の繁栄につながる流れのひとつをつくったことを思うと、何か不思議な気がします。

「人はなぜ日本武道館をめざすのか」……この答えのひとつに、「そこには日本のしなやかな強さがあるから」という仮説が成り立つように思うのですが、どうでしょうか。 個人的にはそのあたりを連載を通して少しづつ検証していけたらいいな、と思っています。

また今回は書ききれませんでしたが、武道も「心技一如」という「心と技の融合」に支えられているものなのです。そして、それこそ日本武道館の精神的な核となって、多くの人を惹きつける原動力となっているのだと推察しています。

次回はいよいよこの武道の核となる精神にせまってみたいと思っています。

 

今月の編集後記

*今回の漫画を描きながら、日本人というものは、インド原産イギリス経由のcurryをカレーライスに、中華麺をアレンジしてラーメンにと、外国の料理を国民食にしてしまうなぁ……と、日本の外国文化に対するしなやかさに思いを馳せてしまいました。

考えてみれば、日本人はこのようなことは大得意。いろいろな例がたくさんあると思います。皆さんもときどき、日本人のしなやかな改善力に思いを馳せながら、身の回りをご覧になってはいかがでしょうか。

*ラジオの音源を山田本家の方にもらった時は、「聴きたかった音源の“引き寄せ”がかなった~!」と大喜びしたのですが、いざ聞いてみれば、祖父の話が大いにそれて、肝心の建築話がラストで時間切れになってしまっていたのは、心底びっくりしました。

なぜなら父も私も話が長く、しかも本題からどんどんそれていってしまうところがあるのです。私は祖父に似たところはまったくないと思っていたので、最もどうでもいいところだけ似てしまったことにひとりで爆笑してしまいました。(文字が小さくて)少し読みにくくなって恐縮でしたが、このエピソードをどうしても入れたくて描いてしまいました(笑)。

*入場券も発売になり、いよいよオリンピックにむけて盛り上がっていきますね。私はチケットを残念ながら買えませんでしたが、次々発表される発売の機会に、あきらめずにチャレンジしてみたいと思います。

ではまた来月も、我らが日本武道館をめぐる旅に、お越しいただけたら嬉しいです!

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