多くの人を惹きつけてやまない日本武道館。その魅力と知られざる真相に迫ります。ストーリーテラーはおそらくそれに最もふさわしい人物です。(編集部)
記事初出:『建設の匠』2019年4月26日
『日本武道館』のキーワードに導かれ、当記事に辿りついた方々、はじめまして! 漫画エッセイストのY田Y子と申します。
日本武道館を設計した建築家・山田守(やまだまもる)の孫にあたります。
祖父が亡くなった一ヶ月後に私は生まれており、日付的に言いますと、1966年6月13日 祖父・守逝去。7月12日 私・Y子誕生。その中間の6月30日~7月2日に、伝説のビートルズ武道館来日公演がありました……と書きましたら、私と祖父の関係・世代の背景が、少し伝わりやすいでしょうか?
実際会ったことはないけれど、愛すべき〝建築熱血漢〟と語り継がれていた山田守の人生を、伝記漫画『50年めの大きな玉ねぎ』にて配信中です。
こちらでは、来たる2020年・2度目の東京オリンピックにむけて、1964年の1度目の東京オリンピック時に祖父が設計した “我らが『日本武道館』” について、熱く語らせていただきたいと思います。
題して『人はなぜ日本武道館をめざすのか』。
各種武道の選手はもちろん、いつしか音楽系アーティストにさえ、目指すべきステイタス・シンボルとなった日本武道館。
厳かな国の行事や、卒業式や入学・入社式などの人生の節目を迎える場となったかと思えば、24時間テレビの会場としてランナーが走り込んで来たり……年越しカウントダウンライブで夜遅くまで盛り上がれたり……。武道以外の多彩な催事も、懐深く受け入れてくださる日本武道館。
経年劣化により閉鎖される昭和の名建築も増える中、いまだ年間約9割の驚異的な稼働率を誇り、年に200万人もの利用者があり、『金色の玉ねぎ』のニックネームもあいまって、日本中のみならず、海外からの渡航者にも親しまれている日本武道館。
築55年にして、衰えるどころか、ますますリスペクトされ威厳を放つ、日本武道館の求心力とは一体何なのか?
そして、この場所を後世に遺すため尽力した、沢山いらっしゃった先人達の思いとは?(祖父はそのうちの一人に過ぎないのです)
建築家の孫という立場上、建物にまつわる話から入ってはいきますが、大勢の人を集めていつつ、なかなか知られていない秘話やその魅力が、少しでも一般の方々にも広く伝わったらいいな、と願っています。
さて、漫画でも何度も申しておりますが、日本武道館は、あくまでも『日本の武道の大殿堂』! コンサートなどは、一般催事としてお貸ししている位置付けなのです。
日本武道館創建の目的は、
・我が国伝統の武道を
・国民、特に青少年の間に普及・奨励し
・心身の練磨を通じ、健全な育成をはかり
・民族の発展に寄与し
・世界の平和と福祉に貢献する
という、偉大なるものです。
現在も公益財団法人日本武道館という組織により
・柔道・剣道・弓道・相撲・空手道・合気道・少林寺拳法・なぎなた・銃剣道
の各種大会や振興事業、海外交流などが行われ、さらに、それらの武道が体系化される以前の「古武道」と呼ばれる、日本古来の武道の保存振興事業も行われています。
私も柔道と古武道の大会を見学に行ってみましたが、道着を身にまとった選手は凛として美しく、特に「君が代」の斉唱時は、天井に吊られた大日章旗、富士を模した銅板瓦棒葺きの大屋根、江戸城の跡地という立地などが、国歌とすべてあいまって、脈々と続いてきた日本の歴史と自分がまさに今リンクしているのだ、という感覚が沸き上がってきて、鳥肌が立つような感動を覚えました。
ぜひ機会がありましたら、みなさまも一度、日本が誇る武道の大会を日本武道館で観覧されることを、熱く強くお勧めいたします(9月よりオリンピックまで改修のため閉館されるので、少し先のこととなるかもしれませんが)。
さて、当連載の今後の予定です。
まずは私が祖父の人生を調べるうちに気がついた武道館への個人的な思いを4話ほど描かせていただき、その後、『人はなぜ日本武道館をめざすのか?』の答えを探るべく、いろいろな人や場所を訪ねていく内容にしたいと考えています。2度目の東京オリンピックにむけて、全11話の予定です。
桜を見に行ったら、玉ねぎ(擬宝珠)が改修にむけてすでに足場で覆われていました。金ピカになりそう!
漫画内に「現在女子トイレが少ない」と描いてしまいましたが、武道館建設以来の55年を振り返ってみるに、最も変化があったのは女性の社会進出ではなかっただろうか?と感じているところがあるのです。
その話題は、なかなか女性目線でしか描けない部分でもありますので、ぜひ最後に描きたく、伏線として出してみたエピソードです。関係者の皆様、お許しください! ちなみに女子トイレも9月からの改修により数も増え、素敵に生まれ変わるそう。完成がとても楽しみです。
設計者の意図を汲みつつ、変えない部分は大切に保全し、時代に合わせて変えるべき部分は変えてもいただけている幸せな建物、それが日本武道館。
その柔軟さを支えて頂いている、建物の周りをとりまく素晴らしい精鋭スタッフの方々に、インタビューさせていただくこと。
さらには、建物を使用したアスリートやアーティストのどなたかに、日本武道館ならではの魅力をインタビューさせていただくこと。
このふたつを目標に、まずは孫として気づいた、祖父が武道館に込めた思いを、少し難しいところもありますが、なんとか頑張って描いてみたいと思います。
いままで建物の背景を知らず、なんとなく訪れていた多くの皆さん!
我らが「日本武道館」に込められている、沢山の人々の愛情を身近に感じ、どうかますます日本武道館を好きになっていただけますように!