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【後編】ケンクラフトのケンさんは今日もミニチュア建機で人々に“幸せ”を売る

東京・秋葉原にほど近い場所に店を構えるミニチュア建機モデル専門店「KEN KRAFT(ケンクラフト)」。この無骨かつマニアックな店で店主のケンさんが大切にしているのは、意外なことに“演出”だった。

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記事初出:『建設の匠』2018年10月31日

どんな人が買いに来るのか

日本のミニチュア建機モデルの市場を創り出したKEN KRAFT。木曜から日曜まで週4日しか営業していない、およそ13坪のこのマニアックなお店には、どんなお客さんが訪ねてくるのだろう。

「うちのお客さんは3歳から60代まで。遠くはタイや台湾、香港、シンガポールからも来ます。一番の購買層は、30~40代ですね。おそらく3分の1は建設業関連の方だと思います。仕事も建設関連で、ミニチュア建機も欲しい人って、とても幸せな人ですよね。自分が乗っている建機が欲しいという向きもあるし、自分には乗れない鉱山で働くような大きな建機や、巨大なクレーン車を買う人もいます

フェラーリやポルシェのようなスポーツカーは、頑張れば買って公道で乗れるかもしれないが、建機は本物を買うことはなかなか難しいし、仮に買ったとしても操る場所も限定される。だから、ミニチュア建機に夢や憧れを投影する。その意味では、鉄道模型に似ているのかもしれない。

ミニチュア建機の楽しみ方は人によりさまざまである。先のコマツのショベルカーを累計24台ぐらい買った人は、いわく「みんなポーズを変えて飾っている。気に入ると何台もほしくなるんだようねえ。」店を訪れた女性客に「プレゼント用ですか?」と尋ねたら「自分用です」と返答されて面食らったこともある。

「私はまだ20台しか持っていない」と話す常連客には、「誰と比べているの?」とたしなめたりもする。「生き方と同じで、比べる必要はまったくないんですよ」とケンさんはつぶやいた。

「誰かと比べる必要なんてないんですよ」とケンさんに言われると、なぜだろう、胸にしみる。

これを読むあなたの家に「はたらくくるま」が好きなお子さんがいて、KEN KRAFTへ連れて行ったら、おそらくとても喜ぶだろう。しかし、一点だけ注意が必要だ。

「子どもって、すごい観察力なんです。値段なんか見ずに、品質のいいモデルをずばり選ぶ。『えっ、これを選ぶのか、すごいなぁ』と感心するぐらい」とケンさんは言うが、ミニチュア建機は高価なモデルだと100万円もするとか!

だから、うっかり「これ欲しい」とねだられたりすると対応に窮しかねない。だが、そこはご安心を。初心者におすすめのミニチュア建機を選んでくれた。ご興味のある方はぜひ最後まで本記事をご参照いただきたい。

ミニチュア建機モデルの市場はこれからどうなっていくのか

ミニチュア建機の魅力、それは“重量感”だとケンさんは語る。

「はじめて来店したお客さんに、実際にもってもらうんですね。1/50と言えど、元が大きな建機だし、金属製だから想像するより重い。今度入荷するクレーン車なんて14キロもありますからね。うちのお客さんはみんな重ければ重いほど、『重い』って喜ぶ(笑)

「これも重いんですよ、一度持ってみてよ」

良い模型にはオーラがある」とケンさんは言う。だから彼が気に入った商品には自身の熱がこもった紹介コメントをホームページなどに書く。その熱はお客さんにじわりと伝わるようで、「高石さんにあんなふうに書かれたら買っちゃいますよ」と嬉しそうに言われるんだとか。

精密模型好きなケンさんだが、精密であればあるほど、魅力的かというと、決してそうでもないという。

その模型にどのくらい愛情が注がれているか、です。僕は海外メーカーでも、通販で済まさず、ちゃんと会社まで行って、つくっている人に会う。結局は人なんです。『こういう人がつくってんだ』『こんな人が買うのか』ということが分かると,なんか楽しいじゃない?

ケンさんはミニチュア建機の販売に飽き足らず、モデル自体の制作にまで関わっている。ミニチュア建機は95%が中国製だそうだが、精緻な出来を誇るドイツの老舗メーカーと旧知の仲である。そこで“KEN KRAFTオリジナル”をつくってもらっているのだそうだ。中には、ないものは作る精神でケンさんが自ら投資して金型をつくり、量産生産するモデルもある。さらに企業様向けのスペシャルモデルも制作も得意とする。ものによってはケンさん自身が毎日一つひとつ、手作業で制作しているものもある

模型メーカーがニッチ過ぎて手を出さないような商品になぜそこまで手をかける理由。その根っこにあるのは、やはり“愛”だった

「ほら、こうやって見上げると、いっそう迫力がありますよ」

ミニチュア建機から応援できること

ミニチュア建機の世界から、ケンさんはものづくりの現場や建設現場を見つめてきた。だからこそ、デジタル化が急速に進む世界で、世界的傾向だというアナログな建設業の人材不足を憂いている。

そんな思いから、みずから国内外の建設機械やその製作工場、最新のICT建機まで取材し、『はたらくクルマ』シリーズ(ネコ・パブリッシング)や『巨大重機の世界』(東京書籍)などの企画・編集・執筆にも関わってきた。すべては次世代に建機の魅力を伝え、いま建設業に関わる人を応援するために――

僕が本をつくるコンセプトは,とにかく建設機械をかっこよく見せること。建機のカッコいい写真を見て、『うわーっ,このブルドーザーに乗ってみたい』と思ってくれたらいいな、という気持ちで作っています。はたらくじどうしゃ博物館の土田館長も自分のコレクションをただ自慢しているわけではなく、『こんな機械があるおかげで,橋やビルができるんだ』ということを教えたくて、小さな子どもたちに建機を見せる場をつくっている。僕もそのスタンスにとても共感しています」

最近の工事現場を見て歩けば、企業の独自カラーに塗装された建機が多いことに気づくが、ケンさんが既存のミニチュア建機を、特別に企業カラーに塗装するのもその活動の一環と言えるのかもしれない。実際、塗装したミニチュア試作品を持ち込んだりすると、大の大人である社員たちが「うちのカラーのクレーンだ!」とわっと集まって、とても盛り上がるんだとか。

オリンピックスタジアム建設現場でも活躍する内宮運輸機工カラーのクレーン車

「仮にお父さんがそのミニチュア建機を社販で買って帰りますよね。それを見せながら、子どもや奥さんに話せるじゃないですか。『俺はこれに乗って、汗水流して働いて、金稼いでるんだぞ』って。『お父さんカッコいい!』となれば家庭内での地位が上がる。するとお父さんの明日の自信がついて、仕事の進みも良くなる――そんな図式が成り立ちませんか? それもミニチュア建機ならではの効果ですよ」

ケンさんはそんなミニチュア建機に、たとえばモバイルクレーンに個別のナンバープレートを付けて、「うちで車検するからね!」と言って引き渡すという。なんと心憎い演出だろう。

「そう、演出が大事なんです。日本人がもったいないのは、高い技術で素晴らしいものを作れるのに演出が下手なこと。だから演出をして、いろいろな方法で魅せる必要がある。ミニチュア建機ももともとは建機メーカーの演出の道具です。だからあなた(筆者)も、建設業を演出する役目がありますよ?」とケンさんはにやり。

ケンさんは誰に頼まれたわけでもないが、建機の世界を“演出”してきた。それは、ミニチュア建機への愛が高じてこそであり、人を幸せにするためである。

「僕はミニチュア建機を売っているようだけど、ミニチュアは単なる媒体に過ぎない。『幸せを売っている』と思っています……というのは言い過ぎかな(笑)。基本的には自分が楽しく、お客さんが喜ぶものを扱ったり、つくったりしています。すごく売れるけれど自分としてはつまらないものなんて、扱いたくないじゃないですか。人間が一生で持っているエネルギーや時間なんて限られているのだから……」

「このクレーンは、『シン・ゴジラ』で活躍したやつでさ……」

「このトラックの前輪の切れ角、見てごらん!」

KEN KRAFTに飾られた色とりどりのミニチュア建機に店を訪れた人が魅了される理由、それは圧倒的な愛情や熱量が込められているからだ。いや、もしかすると隠しスパイスとして、人を幸せにする魔法がかけられているのかもしれない。

ミニチュア建機おすすめ10選【2018年度版】

ここからは、ケンさんの初心者におすすめのミニチュア建機モデルをご紹介しよう(写真はすべてケンさん撮影)。

その精緻なクオリティをじっくりとお楽しみいただきたい。

【1】日野プロフィア SS6x4+16輪低床トレーラ(KEN KRAFTオリジナル)

【2】日野プロフィア SH4x2

【3】日野プロフィア SHハイル-フ

【4】日野プロフィア SHハイルーフ(リアビュー)

「実写同様に舵が大きく切れるなど、大型トラックの魅力をタップリと詰め込んだモデル」(ケンさん談)だとか。建機もトラックも関係なく、はたらくくるま全般に愛が深いケンさんなのである。

【5】CAT 323ショベル(ITC建機仕様)

新型電動油圧ポンプとセンサーによる「グレード2Dアシスト」などが標準搭載された最新モデルだ。

【6】CAT D6T

ブレードにGNSSのアンテナが装備された最新鋭のICTブルドーザである。

【7】CAT D9T

1/87という“手のひらサイズ”なのが嬉しいモデル。箱入りなのでいっそう楽しさが増す。

【8】(左から)CAT 795、CAT 793、CAT 772

鉱山で活躍する超大型ダンプもモデル化されている!

【9】日野 プロフィア大型ダンプ&コマツ PC210ショベル

こんなマッチングを楽しめるのもミニチュアならでは。

【10】MB プッツマイスターM38 コンクリートポンプ車 ”ヤマコン”(ケンクラフトモデル)

映画『シン・ゴジラ』のクライマックスシーンで活躍したコンクリートポンプ車。山形県のヤマコン所有の車だ。2019年に“シン・ゴジラ”パッケージとして特注品で登場。

 

そして、とっておき!

 

【11】リープヘル LTM11200-9.1 モバイルクレーン

実機は最大吊り上げ荷重1,200トンという世界最大のクレーン(※公道を走れるモデルに限る)で、国内にも7台が活躍中。このモデルも巨大で、ブーム長約2mにもなる!

いかがだっただろうか?

興味があった方は、ぜひKEN KRAFTに問い合わせてみよう。

一見さんでも臆することなかれ。

きっとケンさんが、やさしい笑顔で迎え入れてくれるはずだ。

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