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建設人事のお悩みに圧倒的熱量で寄りそうメディア

「人材採用の当たり前をやめた」三和建設社長・森本尚孝氏の“ギャップ”を埋める採用術

編集部 2021年07月15日

「企業とは人であり、その知識、能力、絆である」

経営学の大家、ピーター・ドラッカーはこう言った。「近い将来、AI(人工知能)が人の仕事を奪う日が来る」とささやかれてはいるものの、そんな日が到来するまで、企業は人に頼らなければならない

だから、優秀な人材を獲得したい。企業の人事担当者ならだれしも思うことだろう。そのために就職説明会をおこない、インターンを受け入れ、イメージ広告を出して企業ブランディングに精を出す。キャリア採用には即戦力を求める。

一方で、大学生や転職希望者からすれば、やりがいがあって、自分の力を発揮できるところで働きたい。どうせなら給与はそこそこもらいたいし、休日もしっかり確保したい。中途入社なら納得のいく待遇を用意してもらいたい――。

結果、なにが起きているか。かたや「就活塾」に通いサークルの副部長を名乗り、資格取得に励む。自分をより良く見せるために。かたや「やりがい」やキラキラしたオフィス、給与の良さだけをPRし、こちらも良く見せるために……。かくして入社後、互いに「こんなはずじゃなかった」というミスマッチが顕在化し、期待外れなのを相手のせいにして、物語は次年度に続く。

なぜこんなにもギャップが生まれるのだろう。なにがいけなかったのだろう。情報の偏った出し方? 双方の認識不足? こんな建前だらけのだまし合いのような人材採用活動で、互いに得られるものがあるのだろうか

そんな状況に異を唱えたのが、大阪市のゼネコン・三和建設社長の森本尚孝氏である。

記事初出:『建設の匠』2020年3月2日

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「選ぶのではなく選ばれる」ために情報を出し尽くす

「一言でいうと、入りたい人自身に選んでもらう。こちらが選ぶのではなく、相手の判断を尊重する。そこに重点を置いています」

森本氏がそう言い切る理由は、「しょせん人を見極める能力なんて人間にはないから」だとか。諦め、なのだろうか?

「いえ、『この人は当社に合っているだろう、能力が高そうだな』と思って選んだところで入社してから『やっぱり違った』というのは、よくあることです。

逆に三和建設がいいと思って入社してくれても、結局は『思っていたのとなんか違う』と思われたらそこで辞めてしまう。こちらから辞めさせることは基本的にないので、辞めるとしたら本人からですよね。辞めるも続けるも本人の判断なので、入るときにも本人の判断に沿うのがいい。そんな論理的判断です」

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うむむ、たしかに非常に論理的である。では、どうやって「選んでもらう」のか。

「情報をたくさん出します。具体的には1、2回の面接ではなく、いろいろな社員に会ってもらう。新卒はもちろん、キャリア採用の人に対しても」

いろいろな社員に、会ってもらう? 通常の一次面接から二次面接、役員面接ではなく?

「ええ、会う順番も、最初に担当者が会ってOKならその上長が会って最後に社長が会う……のが一般的な流れだと思いますが、私が会ったあとに担当役員が会う流れになる場合もあります。『ちょっとライン外だけれど、もうひとりこの人の話も聞いておいたほうがいい』と会ってもらって、その感触を探る場合もある。要は『選考』ではなく、判断するためのいろいろな情報を提供しているだけです」

面接というより、対話。会って話した内容はある程度は報告・共有するものの、チェックシートに評価を書き入れて「まだこの項目については聞いていないから、次の面接官が深掘りしよう」などと申し送りや連携はおこなわない。繰り返すが、これは「面接選考」ではないから。「情報を提供するのが目的だから、こちらの申し送りの必要性も薄い」と森本氏。

入社後ギャップをどうやって減らすか。その命題に対して「入社希望者がどう感じるか」が一番大事だとの結論に達したのだ。

それにしても、「入社希望者の要望がなくても複数の社員に会わせる」とは驚きだ。入社希望者目線で考えれば、ややめんどくさい選考プロセスであるともいえる。「何人の社員に会わせるっていうんだ? もう勘弁してくれ!」と選考から離脱する人もいそう……。

「ええ、特に新卒なら大量に当社のいろいろな社員と会う機会がつくられていくので、『ほかの会社も受けないといけないし、なんかめんどうだ』と、息切れする学生はいると思いますね」。淡々と語る森本氏。選考離脱してもそれは仕方ない、と言い切るには、やはり彼なりの論理がある。

『この会社をさらに深く知りたい』と思わなければ、縁がないと考えざるを得ないでしょう。結局のところ、我々がそれだけの魅力を提示できていないという面もあるだろうし、その人が自身の門戸を開いていない場合もある。後日、別の社員に会ったら考え方が変わって、当社に魅力を感じる可能性もありますけれどね」

逆もしかり。基本的には「次はこんな社員に会いなさい」とは言わず、入社希望者に任せているため、学生によっては「こんな人にも会いたい」とどんどん希望を出してきて、結果として面談時間が通算138時間に達したケースもあったそうだ。

キャリア採用は「転職理由」を深堀る

では、働きながら転職活動をしているキャリア採用者にはどうやって「情報提供」しているのだろう。さすがにインターン参加はもちろん、何人もの現役社員に会わせるというわけにはいくまい。

森本氏いわく「基本的には対話を繰り返している」のだとか。その点では、新卒採用ほど競合他社との違いはなさそうだ。

しかし、「見極める」のではなく「相手に選んでもらう」スタンスに変わりはない。興味深いのは、本質的な転職理由についての掘り下げ方だ。

「ものすごく優秀な人間がヘッドハンティング的に入ってくることはあまりなくて、どこかの会社を辞めて入ってくる人が多い。人が会社を辞めるには、必ず理由がある

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どんな会社でも「転職理由は?」と面接で聞くだろう。当然ながら入社希望者は、そこではそれなりの理由を述べる。しかし、「大半は現職でいい思いをせずに転職している」と森本氏。

「100パーセント円満退職でステップアップというケースもたまにはありますが、だいたいはなにかミスマッチや不満があって辞めているので、その点を聞き出します

なるほど。どうやって聞き出すのだろうか。

「たとえば前職で営業をしていたけれど、人事系の仕事に異動になった人がいたとする。最初は『営業は楽しかった、人事はナイーブで人と会う機会も少なくなってやはり営業したいと思って辞めました』と。それだけ聞けば、『(人事が)イヤで辞めたのではなく、やりたいこと(営業)があるから辞めた』と受け取りますよね。

いざ、当社に入ってもらうとなった段で『実は人事の仕事において、なにか気になったことがあるんじゃないですか?』と聞く。もちろん自分からは進んで言わないので、仮説を立てつつ探ってみると『まあ、そんな感じです』と答えだす。そして『実はこういう理由が……』と話しはじめます。

その人の場合は、会社からは『〇時間の研修を受けさせなさい』と指示が降りてきて、現場は『忙しいからそんな研修をやっていられない』と返し、あいだに立って板挟みになったのでイヤになって辞めた――実はそれが本音だった。そこからが、本題です」

『上と下の板挟みになるような状況は当社でも、別の局面で起こりうるでしょう。それでも本当に当社でいいですか? 一度帰って考えてください』と話して帰ってもらう。

もちろん前職と同じ状況になるのだったら、入る意味がないし、辞めてしまうでしょうね。そこで『当社だったらこんな相談ルートがある』とか『またそういう目に遭う可能性もあるのだから、自分から助けを求める力も必要なのでは』などと話します。同じ問題に遭遇しても、当社にいればまだ出口があると可能性を見いだしてくれれば……。

すると、『入ります』という人と『やっぱりやめておきます』という人に分かれる」

……お分かりだろうか。こうしてテキストにすると圧迫面接のように映るかもしれないが、これは「コーチング」だ。あくまで自分で考えてもらって、自分を評価してもらい、自分で決めてもらう。そのための対話なのだ。あくまで判断は委ね、考えるための材料は惜しみなく出す。新卒採用とポリシーは変わっていない。

森本氏は転職エージェントを介してのキャリア採用では、互いが抱いている「本音」が分からない、と考えている。もちろん、どんな手段でも双方の思惑を100%開示して話すことは不可能だろう。しかし20%しか開示できていない本音を30%に広げるだけでも、退職の可能性が減るのではないか――そんな仮説にのっとって、本音の掘り下げに時間を費やしている。

ちなみに、実力のあるキャリア人材はどんな企業も欲しがるものだが、森本氏は人材紹介会社を使ってのヘッドハンティングなどは基本的におこなわないそうだ。なぜなら「よそから引き抜くことが、あんまり好きではありません。逆のことをされてもイヤだし。また同様に他社から引き抜かれることも可能性としてある。結局のところ、“行い”はかえってくる。辞めてほしくない会社としては、引き抜きたくもない。……経営者としては甘いのかもしれません」。ポーカーフェイスと論理性のあいだから、ときおり、彼の人間臭さを感じる。

閑話休題。「人は育てるのに時間はかかるけれど、採るのもまた時間がかかる」と言う森本氏。採用コストを節約しようとできるだけ効率的に、短時間で適性を見極めようとする企業が多い中、とにかく時間をかける三和建設のやりかたは異端に映る。そこには、「人が入退社を繰り返す会社であってほしくない」という彼の強い信念が込められている。

業界の当たり前は「10人採ったら5人辞める」

三和建設は70年あまりの歴史を持つ大阪拠点のゼネコンである。1947年の創立から3年後には寿屋(現サントリー)と取引を開始するなど、食品生産工場・倉庫建設分野で強みを持っている。森本氏は創業家出身の4代目社長だ。

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しかし、建設業界の例に漏れず、社員の定着率は決して高くはなかった。ベテラン社員も新卒社員も入っては辞めて……を繰り返す。円満な定年退職も何人かにひとりという割合だったそうだ。森本氏も「『辞めんのは残念だけれど、まあ仕方ない、そういうものだ。10人採ったら、半分ぐらい辞めるものだ』とある種の割り切りのような空気がありました」と述懐する。「残った人は優秀だから、少数精鋭になっていくだろう」とも……いまだにこう考えている耳の痛い企業もあるのではないか。

大手ゼネコン勤務を経て、2008年に社長に就任した森本氏。その頃から人材が以前ほど集まらず、30~40代の人材が不足している事態に危機感を抱きはじめた。この流れにピリオドを打たなければ、事業を続けられない。そこで「ひとたび仲間になったら、とことん一緒にやろうと思った」――。

そもそも、なぜ人は会社を辞めるのか。どうすれば人は定着するのか。森本氏はそこから突き詰めて考えた。

たどり着いたのは、「個性の尊重」だ。三和建設では「男性や女性、上司などの役職者や部下、部署、出身大学がどうこうではなく、ひとりの人間として付き合う」というポリシーを徹底している。森本氏含めて役職関係なく、社員は全員「さん」付け。たしかに人によっては役職などの機能は付随しているけれど、「それは人格とは別モノ」だとか。なんとフラットな!

「男とか女とか、部長とか営業の〇〇さんとか、人間はどうしてもなにかの枠に当てはめたがる。それは、『個性というものを直視したくない』なる逃げの一手ですよね。学歴だって、採用する際のひとつのアリバイみたいなもの。有名大学に進学するまでの本人の努力に価値はあるけれど、現状は単に大企業の人事担当者の保身の道具として使われているだけ

しれっと深い話をする森本氏。巨大な建物をみんなでつくるためにチームで動く建設業界では、それゆえに個人を尊重せず、同調圧力からハラスメントが生まれやすかった。だから人が辞めやすい。であれば逆に考えて、もっと個性を尊重すればいい。森本氏の思考は常に根本に立ち返ったもので、かつ筋が通っている。

だから個人のやる気、誠実さ、素直さについては、徹底的に突き詰める。ちなみに森本氏がキャリア採用時にも重視するのも「素直さ」。自分になにがしかの“クセ”があると自覚していて、それをマイナス要因にせず、いざとなればそれを修正する余地があるキャリア採用者こそ成長するんだとか。

そして、人材教育制度だ。

「建設業界は、そもそも体系的になにかを教えるのに向かない職種。ものすごく長い年数をかけて一人前になっていく世界で、経験から学ぶ以上の育成手段はないです。それはここ何十年、そしていまも変わっていない」

たとえばIT業界なら、天賦の才を持つ社員が入社3年目で社内にイノベーションを起こすことがままある。しかし森本氏は「建設業界においては入社3年目では、経験20年のベテランのパフォーマンスを総合的に超えられない」と断言する。

ただ、社会環境の変化やいまの若い人に求められる成長速度などを考えると、一人前になるまでのんびり待っているわけにはいかない。そこで三和建設は社内大学「SANWAアカデミー」を設立し、座学で基礎を学ばせて、失敗の経験を積ませている。それでも基本はOJTだ。

「もちろん、社内大学だけで新卒社員が仕事を覚えられるわけではない」と。5年かかっていた育成がわずか2年で一人前になった、と言えるような目に見える成功事例はまだない。それでも、と彼は続ける。

「これまでこの業界は、知識や技術があまりに多様性に満ちているため、『教えてもムダ』だと思ってきました。だから体系的な教育をみんなが放棄してきて、教育に対する着手が遅れてきた。わたしたちも、そうでした

だから社内人材教育に力を入れる。それは「ここまでちゃんと教えてもらえるなら、この会社にいる意味はあるな、まずこの会社で腰を据えてがんばろう」と新卒社員の心理的安全性向上につながる。

また、講師をつとめるベテラン社員が「社内大学というあらたまった場」で講義するにあたり、「技術や知識を教えるとは、はたしてどういうことなのか?」とおのれのこれまでの指導を振り返る機会にもなって、さらなる成長につながるのだとか。

「『これについては、あの講座で講師をしていた〇〇さんに聞いたら分かる』などと、誰になにを聞いたらいいのか分かりやすくなりました」と同席した広報の方も嬉々として言い添えてくれた。

あらためて問う「会社で働く意義やメリットとは?」

「社員がやたらと出入りする会社にしたくない、離職してほしくない」と願う森本氏。人が辞めないためにすべきことは「三和建設に所属する意味や意義、メリットを考え、感じてもらう」だと思い至った。

「『仕事は楽しいけれど、はたしてこの会社でやる意味はあるのだろうか』と考えれば、辞めてより給料の高いところへ行くか、独立するかもしれない。それよりもまわりの手厚いサポートが得られるとか、自分がまわりを助けて感謝されるとか、社内のリソースを存分に利用できるとか、給料が高いとか――そういったことを含めて、『自分はこの会社にいる意味や意義がある』と思えれば、人は辞めない

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それは、「ただ辞めないだけ」のぶら下がり社員が増えるのではないか。こちらがぶつけた疑問に対し、森本氏の鋭い眼が光る。

「ぶら下がれる、というのもひとつのメリットではありますよね。辞めない理由にもなる。だけど、ぶら下がられると会社も困るし本人も成長しないので、別に手を打たねばなりませんが、ただ離職を防ぐ観点からすると、ぶら下がろうがなんであろうが、会社にいる意義を高める以外にないと思います」

とはいえ、である。終身雇用・年功序列の安定型組織では、ぶら下がりとはいかないまでもモチベーションの低い社員が他の社員のやる気を削いだり、足を引っ張ってしまうこともある。「悪貨が良貨を駆逐する」パターンだ。それを防ぐために組織再編(リストラ含む)によって社員を入れ替え、新陳代謝を促すやり方もある。

森本氏はその効能を否定はしなかったが、「それしか方法がないとの言い方には異論がある。社員を辞めさせず、彼らが切磋琢磨できるような仕組みや風土をつくればぶら下がりは減っていくし、社員の入れ替わりなく活性化させることはできる」と述べた。

ちなみに三和建設は年功序列ではないため、若手が年長者の上長になっているケースも多々あるそうだ。

「能力や役割で判断されて、若手に追い抜かれた年長者には当然不満がなくはないでしょう。でも、そんな人がどんどん辞めるかというと、そんなわけでもない。だからと言って彼らの不満をすべて取り除いてみんなハッピーな会社にしようとは思っていません

でもベテランはベテランなりの役割や期待をされて、人間としてリスペクトもされていて、会社にいる意義があります。不満とは、見方を変えれば成長する余地があるともいえます。そんな人に対し、われわれは『このまま、頑張ってみては?』と声をかけますね」

彼のまなざしの鋭さが、ふっと和らいだように感じた。

新卒採用で会った人はいまも忘れない

三和建設が、新卒採用に時間をかけていることは前述のとおり。すべては「個性を重視」しているからだ。そして、そこでは「信頼」がキーポイントとなる。

「採用の際、本人が決断するに足るだけの十分な情報をわれわれは提供する。そして本人の最後の決断を引き出すためにやりとりをする。コーチングみたいなものですね。そして、その決断をわれわれは信用するか否か。『入りたい』という熱意だけを取り出して採用することは、大企業が印象で学歴や声の大きさ、弁舌のさわやかさ、見た目がシュッとしていることだけを『見極めて』採るのと同じですよね。それでは、意味がない

よく『わたしは御社で働きたいです』と意欲と熱意をもって話す就活生はいるし、巷の面接対策においてもそんなテクニカルな部分を重視しています。しかし当社ではそんなこと、まったく重視されません

たとえば、AさんとBさんという学生が2人いたとします。Aさんは毎日当社に通っていろいろな人に会った結果、『入りたい』と静かに言っている。Bさんは会社にほとんど来ないけれど、最終的に『ものすごく三和建設に入りたい』と熱望している。

見た目の熱意だけで見ればBさんが勝っている。でもどっちを採るかといえば、Aさんを採ります。声は小さくともいろいろな情報を得たうえで言っているAさんの決断は本物だと思うから。Bさんは、あまりよくわからないが何となくいいなと思って、とりあえず『入りたい』と声高に言っている。でも、その入りたいと願う理由に対して、ひとつも汗かいていないじゃないですか

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なんだかいきなり、泥臭い話が出てきてびっくりした読者もいるのでは。

森本氏はマッチングアプリ的にドライな関係の新卒採用界隈において、相当にウェットな関係を求めているのだ。筆者も端正なマスク、ロジカルな思考から、おおよそバッキバキの合理主義者と思っていた。

森本氏は、三和建設のブランディングや広報活動にかなり力を入れている。メディアの取材も大学の講義依頼も積極的に受けるし、SNSもフル活用する。さらに森本氏自身も著書『人に困らない経営~すごい中小建設会社の理念改革~』を出版している。それはさまざまな人に三和建設に興味関心を持ってもらう「きっかけ」を増やすためだ。

学生だけではなく、そのまわりにいる大人も対象である。大学教員やバイト先の先輩、近所のおじさんに至るまで、彼らが目にしたメディアに三和建設の記事が掲載されていれば、それでもって学生に「こういう会社があるから行ってみたら?」と言ってもらう。実際にそんなルートで会社を訪ねてきた来た人もいるそうだ。

しかし、それはあくまできっかけに過ぎない。

「なにかのきっかけで当社に興味を持って来てくれたら大変嬉しいし、わたしもその人に興味を持つ。けれど、そこはただのスタートです。そこからその人のきっかけが本当の確信になるまで、情報はいくらでも出します。『で、よく考えてね』となる」

とはいえ、新卒採用は年に1度きりのチャンスだ。毎年のように試行錯誤をしていれば、「今年の採用活動はうまくいかなかった」な年もあるそうだ。中小企業の採用活動としてはかなりリスキーなように映る。さらに。

「当社は人との付き合いが濃いから、不採用にした学生のこともほとんどわたしの記憶に残っています。2、3年経って『あの時の彼がいたら、いまどんなふうになっていたかな』『あの子、いまなにしているのかな』と思い返すこともある」。……森本氏はやはり、見た目に寄らず意外におセンチなんである。

ただ、このウェットな付き合いがもたらす副産物も。

ある学生が他のゼネコンの現場見学会に参加した際、そこの2、3年目の若手社員にこう言われたそうだ。「ウチもいいけれど、三和建設という会社の選考も参加したほうがいいよ。いろいろな仲間もできて、ディスカッションもできて、将来なりたい姿について考える時間になった。三和建設に入らなくても、あの会社の説明会や選考の経験は、あなたにとって意味があるよ」と。

そう、そのゼネコン若手社員はかつて三和建設の新卒選考を受けた人だった。そしてその学生は、勧められるがままに三和建設の選考を受けに来たんだとか。

『就職活動を始めるにあたって、まず三和建設に行って、そこの社員や役員など誰かの話を聞けば、建設業界で働いていくことの意味づけを考える機会になる』といった口コミが広がるといいですね。結果的に当社を選ばずとも、業界自体の活性化に繋がってほしい。まだまだ道半ばですけれどね」

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なるほど、「建設業界を目指す者は必ず一度は三和建設の門をたたく」状態にまで至れば、学生集めの苦労もなくなるだろう。建設業界にいる“陰の三和建設応援団”によって、リファラル採用も難しくはなくなる。

このように、森本氏の人材採用・育成はつねに長期的な視点の上になりたっている。

三和建設は、現在の事業をより深堀りしていきながら(具体的には縮小する国内市場の中でのシェア向上)、さまざまな新規事業の可能性を模索中だという。いずれにしても、それをなすのはやはり“人”だ。そのため、持てる技術の体系化を進め、設計・施工や営業など分野問わず女性を積極登用している。

「われわれの仕事の成り立ちとして、どれだけ優秀な人でもひとりでは完結しません。周囲との連携・協力を経て、ひとつの物事がようやく成し遂げられるような業種だから、鳴り物入りで入ってきた人でも、まわりがその人に付いてこなかったら仕事は成立しない

でも『この人はなんか腹立つけれども、すごく尊敬できるし信頼に足る。だから、この人の言うことは聞かざるを得ない』みたいな人でも別にいいと思う。そんな意味でも人を引っ張る力がある人であれば活躍できるはず」

人が辞めない会社にしたいけれど、同質性の高いなかよしこよし集団にするつもりはない。あくまで大切なのは“技術”。それを森本氏は知っている

ギャップ萌えなゼネコンがあってもいい

さて、就活解禁もまもなくだ。建設業界を目指す、あるいは気になるけれど逡巡している若い学生へ伝えたいことは?

「扱っているお金が大きい建設業は、単にビジネスとしての規模ではなくて、そこに関するお客さんの期待値や、仕事の大変さ、関わる人の多さ、そしてできたときのお客さまの喜び、感謝、そういう巨大さの象徴じゃないですか。大きい仕事に関わるということの醍醐味を体験できるのは、建設業が一番だと思います。

ただ、巨大さゆえに、その良さが分かるまでに時間もかかります。若い時分はなにかと『しんどい』と言いますが、実は本当のしんどさを理解していないし、それ以上の喜びももっと先に待っているものです。巨大な山の全容を見ずして、『足元の道がない、道が汚い』と愚痴るのではなく、頂上に行って全容が見えるまでも当社でちょっと頑張ろう、と言いたい

最後は熱っぽく語った森本氏。クールに見えるけれど、根はかなり熱い人なんだな。

ひととおりインタビューを終えて写真を撮影しているとき、隣で広報担当の女性が「怖い顔ですよね(笑)」と言った。「爆笑でもしないと。でもこういう顔なんで」とあいかわらず鋭い眼力の森本氏。そこで続けて彼女が「でもね、社員と話していると、いい顔してくれるんですよ~」となんだか嬉しそうだった。

普段キリッとした人が、ふいにはにかむ。そういうギャップに弱い人も多いのでは?

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食品工場や倉庫建設にノウハウを持つゼネコン三和建設。2019年秋に本社ビルの裏手に「りんごぐみ」というかわいらしい名称の企業主導型保育園を開設した三和建設。

眉ひとつ動かさず、ロジカルに人材論を語る森本氏。入社希望者と濃厚な付き合いを持ち、入社せずとも何年も忘れない森本氏――

ビジネスSNSのWantedlyを覗いてみたら、「ゼネコンだけど、ゼネコンらしくない会社」という文言が踊っていた。

「ギャップ萌え」という言葉があるように、良い意味での裏切りは魅力になる。ゼネコンのこんなギャップなら、大歓迎だ。

編集部注:この取材は2019年秋に実施した。2020年1月からの新型コロナウイルス感染拡大を受け、三和建設では例年であれば3月に予定されている新卒採用スケジュールを延期し、4月以降に会社説明会と1次選考を実施する予定。3月中は1対1の面談を中心におこなう。

ただ具体的な内容はいまも模索中であり、状況に応じて臨機応変に対応をしていくとのこと。「企業側も対応に困っているが、将来がかかっている学生さんたちのことを考えると心が痛む」とは広報のコメントである。

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