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「変化に追随するために、多彩な人材が生き生きと働ける環境を」応用地質・成田賢社長が実践したボトムアップ型改革の秘訣

編集部 2021年11月26日

すでに多くの企業でデジタル化・IT化への移行は当たり前になりつつある。しかし、その先にあるDX(デジタルトランスフォメーション)まで視野に入れている企業はどのくらいあるだろうか。単にデジタルデータを収集するだけでなく、働き方や業務フローをシステムとして変革するには強い組織力が必要だ。

地質調査ビジネスで業界トップを走る応用地質は、その課題に真正面から取り組んだ。きっかけになったのは2009年に就任した成田賢社長の変革への決断だったという。公共事業に頼る企業から自然と科学を融合する未来志向の企業へと舵を切り、2017年には全社のDXを統括する部門を創設して成果を上げている。
社長就任以来進めている施策と人材育成について成田社長にお聞きした。

成田賢社長本インタビューはオンラインで2021年11月2日に実施しました

取材・執筆/丘村奈央子

 

赤字転落後にDXを進める決断、技術進化も後押し

成田社長が就任した2009年当時、応用地質の業績はお世辞にも良い状態とは言えなかった。2009年に創業以来初の赤字に転落、2011年には東日本大震災が発生。創業以来一番のピンチだった。

「国内の公共事業投資額はピーク時の1997年と比べて半減し、我々の売上も4割近くまで落ちました。地方自治体の発注は地元優先になり、はっきり『大手には仕事を出せない』と言われたこともあります。しかし私たちも食べていくために次の段階へ行かなければいけない。そこで打ち出したのが地盤2次元データの3次元化、動画化でした

地質情報の重要性と活用法について技術面から世にアピールしていこうと決めた。しかし3次元化の可能性に気づいた企業はまだ少なかったのではないだろうか。

「グループ会社で石油に関わる企業がありまして、私もアメリカやヨーロッパの海底探査の現場に行ったことがありました。彼らはもう3次元で結果を表示していて、それがとても精密に作られている。調べてみたら私たちも技術的には可能だと分かったんです。その後数年間でPCの性能がどんどん上がって2016年頃には手持ちのPCでも十分なデータを出せるようになり、私たちが扱う地表近くの調査でも3次元が使えると思いました」

地球温暖化や大きな災害が重なり、地質調査に対する世間の見方も変わってきたという。

「調査をコストと捉えるのではなく、地質をリスクと考えて対応しなければ大変という風潮が出てきた。公共事業でも強靱化などの項目で予算が付き始め、私たちも専門的な情報を皆さんが理解できる形にアウトプットしなければと考えるようになりました

幸いにして、応用地質にはこれらの新しい技術に対応できる人材がいた。

「まだ昔ながらの技術者集団でしたが、物理探査系・地震調査系の社員たちは調査で必要なツールやソフトは自分たちで組んで使う文化がありました。最初はスーパーコンピュータ並のパワーを得るためにPCを100台つないでみようとか、PCがダメならゲーム機で応用するなんて話も出たくらい(笑)。ITに対するアレルギーは少なかったかもしれません」

専門分野のデータ3次元化は社員の工夫もあってどんどん進んだ。しかし、ここで大きな問題に突き当たる。

「技術者はみんな自分たちだけが分かる専門ソフトを作るので、汎用性がないんです。それに技術データを効率良く使うことには興味があっても、DXでビジネス自体や働き方を変えるという話には非常に消極的だった」

成田賢社長

そこで2017年に立ち上げたのが情報企画本部。専門技術や調査結果だけでなく、基幹業務やDXサービス創造も含めて全社のDXを統括する部門だ。面白いのはこの部門のメンバーの集め方である。

土木や地質を知らないメンバーだから、改革を進められた

「他社に先んじてDXに本格的に取り組みたい。そのためには今までのカルチャーを引き継がない形でやってもらわないとうまくいきません。まず、グループ会社内で情報技術関係のビジネスをやっていた者に本部長として来てもらい、彼が『こんな人材が欲しい』と見つけてきた方を採用する方法でメンバーを構成しました

集まったメンバーは、結果的に土木や地質のことをまったく知らない人たちばかりになった。

「前職は通信系企業だったり、航空会社だったり、メーカーだったり、バラバラです。それで本当にできるのか心配だったんですが、入ってみたらやっぱりすごいんですよ。徹底的に我々のことを調べ、どちらかというと弱点をよく把握して『ではどうするか』を提案してくれる。優れた人たちが来てくれたのはラッキーだと思っています」

これまでは採用対象を地質関連の学科卒に絞り、「地質系を何人、地球物理系を何人」と決めた範囲内で採用していたという。情報企画本部の成功を経て、全社の新卒・中途採用でも人材の選び方が変わってきた。

「私たちは現在、インフラ・メンテナンス/防災・減災/環境/資源・エネルギーの4領域で事業を進めています。この事業を紹介した上で、防災関係をやりたい、環境関係に取り組みたいという方にも入ってもらう。従来の研究型とは違う人材が入社しています」

今はもう画一的な人材では企業が成り立たない、とも感じる。

もし昔のように技術者だけを集めていたら、会社はあっという間に潰れてしまうでしょう。逆に異色の人たちが集まるといろいろなことができる。多彩な人材が融合した中から新しい経営層が生まれるし、企業もうまく社会の変化に追随できていく。企業もやはり多様性が求められているんです」

「長くいてほしい」から実現する数々の画期的な施策

せっかく入社してもらった社員には長くいてもらいたい。これはどんな経営者にも共通する願いだろう。

「まず辞めないでもらいたい、とは思います。でも事情があって辞めざるを得ない人は辞めてもいい、ただし事情が解決したら戻ってきてほしいと考えて『リターン制度』を設けています。会社とうまくいかないという理由で一度退職したけれど、この制度で戻ってきた人もいます。誰だって失敗はあるし、よそへ行ってみてダメだった、もあり得る。そこから苦労するよりはまた当社に戻って力になってもらったほうがいいですから」

家庭の事情ではなく自己都合で辞めても復職可能な制度は画期的だ。先日も女性社員が夫の転勤のために退職したが、その人にも「機会があれば戻ってほしい」と伝えているのだとか。

「転勤自体も、本人に打診はしますが拒否ができます。その代わり転勤異動を受け入れてくれた人には手当を出して、しっかり報いるようにする。今のところ業務上の転勤はありますが、キャリアアップのための転勤制度はなくしました。働き方を変えれば転勤そのものが要らないかもしれません。オンラインで実験を進めています」

社内で意見を募るシステムを作り、2021年10月にはそこから「服装自由化」が決まった。また、埼玉県にあるオフィスではフリーアドレス制を実践している。矢継ぎ早に行う改革に、昔気質の技術者から異論は出ないのだろうか。

「ベテラン社員はやっぱり反対しますよ。でも人生100年時代に定年後35年間はどうやって暮らすのか。考えたらこの環境に慣れなければいけない、そう説得しました」

どの改革もトップダウン型ではなく、社員の声をていねいに聞くボトムアップ型で展開している。

「企業はさまざまな世代の人間が一緒になっていて、ひとつにまとめるのはとても難しい。だからこそ一人ひとりのいろいろな考えを尊重しながら時代に合った形にしていけばいいと考えています。無理にまとめようと思っても、強い反発を受けて折れてしまったらおしまいです。(改革に)時間をかけると社長としてプレッシャーに晒される時間も増えるのですが、社員が自立して生き生きと働ける環境を構築するためには必要なことだと捉えています」

成田賢社長

成田社長自身が構造地質学と火山岩石学を専攻して入社したプロパー社員であり、専門分野への愛着もあるに違いない。しかし「でも、そのほうがみんな働きやすいでしょう」と自ら率先して導入した数々の大きな変革を穏やかに語る姿がとても印象的だった。社会や考え方の変化に逆らわず、トップとして社員の柔軟性と自律を信じ、常に社内の声に耳を傾ける姿勢はぜひ参考にしたい。

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