父から継いだ会社で、幾多の困難を乗り越えてきた川田忠裕氏。技術者集団・川田テクノロジーズを率いる彼の口から発された「宝の山がそこらじゅうにあると思っていて、今、面白くてたまらない」の真意とは……?
記事初出:『建設の匠』2019年4月25日
⼈手不⾜が深刻化している建設業界において、⽣産性向上のためにICTの必要性が叫ばれて久しい。しかし、建設現場は現場によってあまりに状況が異なるため、AIやロボットの適応が簡単ではない。⼀⽅で欧⽶では、モジュラー・コンストラクションという「建設の⼯場⽣産化」が進んでいる。ロボット×建設現場の最適解はまだまだ模索中だ。
ひるがえって川⽥グループには、産業⽤ロボットやICT技術をこれまで地道に開発し、世に送り出してきた実績がある。
「実はいま、当グループの⼤きなテーマです。国では『Society 5.0』を打ち出し、国⼟交通省でも『⽣産性を20%上げていこう』とi-Constructionを推進しています。川⽥グループは、建設業とは別の領域でロボットをやってきたんですけれど、建設現場などでもロボットやICT技術でなにか使えるものはないものか、と。
そこで、グループ内の多様性を活かし、川⽥⼯業の建築事業部や鉄構の建⽅部隊、それからコンクリート橋梁の川田建設、ITを担う川田テクノシステム、さらにロボット開発のメンバーなどと、川⽥テクノロジーズの技術研究所がプロジェクトに応じていくつもチームを組んでいます。そこで効率アップになるような研究開発を⾏っていて、徐々に成果も出てきています」
2019年3⽉にはビル建設時に鉄⾻を建てる「建⼊れ」⼯程を効率化するシステムを発表、すでに特許出願している。鉄⾻を垂直に建てるためこれまで4、5⼈で⾏っていた作業に、IoT技術を持ち込んだのだ。これはきっと職⼈集団だけでは思いつかない。ヘリコプターやドローンを⾶ばす⼈やロボットをつくる⼈、プログラマーもデザイナーもいる川⽥グループならではのアイディアだ。ダイバーシティの勝利である。
現在のロボット開発は航空事業部の流れを汲んだカワダロボティクスが担っているが、「カワダ」のロボットには、⼤きな特徴がある。産業⽤ロボットとしては⾮常にめずらしいヒト型ロボット(ヒューマノイドタイプ)なのだ。
「元来、ロボットは効率最優先です。⼯場は⼈間不在でロボットがラインを組んでいて、⼈間がボタンを押したら、ロボットが⼀⻫に動き出す⾃動⾞⼯場のようなイメージがあると思うんですよ。かたや、当社のロボットはなぜヒト型なのか。それはわれわれの使う道具も、道路や階段のような⽣活環境も、すべて⼈間のために作られているからです。⼀緒に働くならば、ヒト型の⽅が使い勝⼿がいいだろうと」
川⽥グループでは、ずっとヒト型ロボットにこだわってきた。航空事業に携わっていた技術者が東京⼤学からの委託によってロボットを設計・開発して以来、経済産業省主導の「⼈間協調・共存型ロボットシステムの研究開発」プロジェクトによるHRP(Humanoid Robotics Project)シリーズや、すでに多くの国内工場に導入されている双腕型産業ロボット“NEXTAGE”など、そのすべてが親しみやすいヒト型である。これらは「⼈間の代替物」ではなく、「⼈間との協調」という哲学を持ってつくられている。
現在のところ、⼈間のようにマルチタスクがこなせるロボットなど存在しない。「ロボットは万能だとみんな思いたいんですよ。でも、ロボットは人間に比べてまだまだ賢くないんです(笑)。ロボットにできることは限られています」と断⾔できるのは、ロボットに⻑く携わってきた川⽥⽒なればこそ。こんな知⾒を持った建設系企業のトップ、他にいるだろうか?
さて、近未来の建設現場を想像してみよう。⼥性や外国⼈労働者がともに働き、隣でロボットが助けてくれるダイバーシティな現場だ。そんな環境の変化に対して、はたしていままでの建設パーソンのマインドで付いていけるのだろうか。変わり続ける現場に適応していけるように、建設人材という“⼈間”もまた、アップデートしていくべき段階に来ているのではないだろうか。
「そうですね」と川⽥⽒は⼤きくうなずく。そんな川⽥⽒が考えるこれからの時代を担う建設人材像は、と重ねて尋ねると「我慢強い⼈。あと発想がフレキシブルな⼈」なんだとか。はてさて、その真意とは?
「なにかを成し遂げるためにはそれなりのねばり強さというか、我慢強さは⼤切だと思うんです。ただそれは『がんばれ、がんばれ』という根性論ではない。そもそも、これから一緒に働くことになる外国の⽅の辞書には『根性』という⾔葉すらないかもしれないのだから(笑)。ICTなどの最新技術を使って、働く人にかかる負荷をこれまで10だったところから8や7まで低減することは可能だと思います。
それと、今年の新⼊社員にも話したんですが、環境の変化は誰にも⽌められない。いい時も、悪い時も、それが永遠に続くということはありません。何があるか分からないですが、『何でも来い』な時代です。めちゃくちゃ恐ろしい時代ですけれど、はちゃめちゃに⾯⽩い時代だと思いますよ。『もうダメだ、お先真っ暗だ』ではなくて、いろいろなことをやるチャンス。いろいろなことに挑戦してみたい⼈は、ぜひ川⽥グループに来ていただきたいですね」
楽しそうに語る川⽥⽒本⼈が、⼀番変化を楽しんでいるようだ。時代が川⽥グループに追いついてきたようですね、と話を振ると、さらに無邪気な笑顔になって、嬉しそうに話した。
「いや、こう⾔ってはなんですけれど、いま、⾯⽩くてたまらなくて。宝の⼭がそこらじゅうにあると思っていましてね。建設現場や⼯場で『これ以上のことはできない』と思われていたことに技術を応⽤すれば、もっと⾯⽩いことができると思っている」
「たとえば建物や橋をつくるのに、ロボットやICTを使って『これまで必要とされていた労力の半分でできちゃいました』となれば、海外での建設⼯事においても⾼い競争⼒が持てるかもしれない。さらに建設業界でできたことを転⽤すれば、もしかすると農業のような異分野にも使えるんじゃないか、と。技術を⾃分の会社のためだけに使うのではなくて、社会の役に立つ持続的なビジネスモデルが開発できるんじゃないかなぁと思ったりもしているんです。
まだ具体的にどうこうではなく私の妄想ですが……あちこちでこういう妄想を話すものだから、社員はみんな『社⻑、また⾔ってるよ』『誰がやるんだよ』と困っていると思います(笑)」
技術は、持つことや守ることが⽬的ではない。なんのためにあるのか、どう使えば社会はよくなるのかを扱う⼈が問い続ける必要がある。「変わるべきところは変えて、残すべきところは残す。とにかくフレキシブルに考えるべきだと思いますよ、なんでも」と話す川⽥⽒は、誰よりも技術の素晴らしさと、その可能性を信じる⼈間なのだ。