「男が育休取ったって、やることなんかないよ!」
「男の場合、1週間が妥当なライン。1カ月も取ってそれが前例になって、みんながそんなに休むようになったら仕事になんないよ」
2021年1月2日に放映されたTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』劇中のセリフです(星野源さん新垣結衣さんご結婚おめでとうございます)。
このように育児休業といえば、取得するのは子どもを産んで母親となった「女性」であり、男性には関係がない、男性は仕事に注力するもの……とまだまだ思われがちです。
2021年6月3日には改正育児・介護休業法が衆議院を通過(施行は2022年秋)するなど政府の後押しもあり、男性の育児休業を取り巻く状況は大きく変わりつつあります。そして、あなたの会社にも(そしてあなた自身にも)無縁ではありません。
誤解だらけの育児休業制度
「育児休業」とは子どもが1歳に達する日(誕生日前日)まで、育児のために仕事を休める制度のこと。1週間や1か月どころか、1年近く休めます。
「自分の勤める会社では、男性向けにそんな制度はないから関係ない!」
いえいえ、育児休業は「育児・介護休業法」という法律に基づいた制度のため、その対象者は男性・女性を問いません。会社に規定がなくても、申出により育児休業を取得できます。
「ウチは妻が勤め先を休んで取得予定なので、まぁ、自分は……」
ちょっとお待ちください。あなたも取得できますよ。しかも子どもの年齢が1歳2か月になるまでのあいだに、父母それぞれが1年間、取得可能です。
「妻が専業主婦だから、自分は取れないでしょう」
それがですね……配偶者の職業は関係ないんです。配偶者が専業主婦であなたが会社員でも、育児休業を取得できるのです!
「『休業』なんだから、収入がなくなってしまうのでは?」
たしかにそのとおり。しかし一定要件を満たす場合、「育児休業給付金」として、休業開始時賃金の67パーセント(休業開始から7カ月以降は50パーセント)が支給されます。
「いやあ、5割や6割の給与では暮らしていけないでしょう」
早合点するのはまだ早い。あまり知られていませんが、実は所得税などの税金や社会保険料、雇用保険料が減額・免除されるため、結果として、手取りの約8~9割が手元に残るのです。
「職場に育児休業を取りたいと言い出しにくい空気があって・・・」
かなり多くの方がこの点で悩んでいるのではないでしょうか。そこで、2021年6月に成立し2022年秋に施行される改正法案では、会社側が育休取得対象となる男性に対して制度について説明をし、取得したいかどうかを個別に確認することが義務化されるようになるのです。
「入社1年以内の契約社員、派遣社員では無理と以前社内研修で聞きましたが?」
確かに、現在の法律では「雇用されて1年未満の非正規雇用者」は育休を取得できません。しかし、これについても2022年秋の改正後は取得できるようになります。そしてもちろん、育休制度は正社員だけのものではありません。
このように充実してきている育児休業制度。来年(2022年)の改正では、取りづらさや収入面など現行法の問題点が改善され、女性の育休取得率83.0パーセントに対し、わずか7.48パーセント(いずれも2019年度、厚生労働省『雇用均等基本調査』)と桁違いに低迷している男性の育休取得率も好転すると見込まれています。
しかし、この7.48パーセントでも以前に比べれば右肩上がりに伸びているのが実際のところ。なぜこんなに低いのでしょうか?
「仕事なめてる」男性の育休取得の難しさ
男性が育児休業を取得できない最大の原因。収入が減る、仕事が回らなくなる、キャリアに響くなどが考えられますが、『逃げ恥』のこのセリフが象徴しているように思われます。
「育休とるとかいうやつは仕事なめてるよねって言われますよ」
「男性は仕事、女性は育児を担うもの」「どんな理由でも長く仕事を休むのはけしからん」という価値観です。
そもそも、育児休業の取得は法律に基づいた「労働者の権利」。本来なら会社は、それを拒否したり制限したりすることなどできないはずです。さらに言えば、育児・介護休業法第10条では、「育児休業の申出や取得を理由とする解雇その他の不利益な取扱い」を禁止しています。「育休とるとかいうやつ」に不利益をもたらす行為は、法に触れるのです。
(不利益取扱いの禁止)
第10条
事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
しかし、滅私奉公を求める日本の会社では、人権や法律よりもときに「会社の論理」が優先されがち。「育児のために休みを取る、だと?」とドヤされること必至です。ましてや長時間労働が当たり前で、週休2日実現にさえ苦労するような古い体質の建設会社では何をかいわんや。
先進諸国で男性の育休取得率はおよそ30パーセントと言われています。政府は「日本再興戦略2015」で、2020年までに男性育休取得率を13パーセントに、「第2期『まち・ひと・しごと・創生総合戦略』」では2025年に30パーセント達成を目標としていますが……現時点での達成は厳しい状況と言わざるをえません。
それでも男性の育休取得推進に向け、2021年の国会では育児・介護休業法改正に向けての審議がおこなわれ、衆院を通過しました。2022年秋の施行が見込まれるこの改正案では、企業が従業員に対して育休制度周知を義務づけたり、妻の出産直後だけでなく職場復帰時などに休みを取って継続して育児を担えるよう、最大4回に分けて休みを取れるようにしたり、するなどの内容が盛り込まれています。とりわけ大企業においては「男性育休取得率の公表」を義務づけられることになりました。
このように、企業の男性育休取得対策は待ったなし。男性でも育休がしっかり取れる会社は「社員を大切にする会社」と捉えられ、よいイメージが定着します。安心して子育てができるためキャリアプランも描きやすくなり、社員の定着率も向上するでしょう。いっぽうでそれが後手に回ってしまえば、優秀な人材の流出は止められず、ネガティブなイメージのせいで人材採用活動もいっそう厳しくなっていくのではないでしょうか。
「イクメン」を推奨する会社は社員想い
子育てを楽しみ、自分自身も成長する人。それを「イクメン」と呼びます。近年では、衆議院議員・環境大臣の小泉進次郎氏が育休を取得し、イクメンの仲間入りをしたことで話題となりました。
厚生労働省は、社会全体でイクメンを応援しようと「イクメンプロジェクト」を2010年に立ち上げ、企業・自治体などに働きかけています。
イクメンプロジェクトは男性の育児と仕事の両立を推進する企業を「イクメン推進企業」として表彰していますが、IT企業や航空会社、大手メーカーに並んで建設各社の名が散見されます。
- 技研製作所(高知県)
- 積水ハウス(大阪府)
- 大和ハウス工業(大阪府)
- パシフィックコンサルタンツ(東京都)
- 大成建設(東京都)
- 戸田建設(東京都)
小室淑恵氏が代表を務めるワーク・ライフバランス社が、法改正に向けて開設した「男性育休100%宣言」と銘打ったサイトにも積水ハウスや大成建設、パシフィックコンサルタンツとならび、菊池技研コンサルタント(岩手県)、大東建託(東京都)などの企業名が見られます。
建設業界は、ご存知のとおり人材不足にあえいでいます。男性の育児休業取得義務化に対して建設業の74.6パーセントが「反対」した日本・東京商工会議所の調査結果は、「貴重な働き手を(育児に)持っていかれるわけにはいかん!」という危機感のあらわれといったところでしょうか。たしかに、担い手の離脱は一時的でもダメージになりかねません。そんな状況下であっても、国家存亡にも関わる「少子化」と「育児」の現状に強い問題意識をもって、男性育休取得推進に向けて舵を切った企業は、実に未来志向であると言えそうです。
ただ、ひとつ注意したいのは、「わが社は男性の育休取得率100パーセント!」と謳うアピールの“実態”です。
なぜなら、各社が「取得率」向上に躍起になるいっぽうで、実際には「取得日数」が数日間しか認められていない「名ばかり育休」も多いことが、厚生労働省の調査で明らかになっているから。実際、取得者の約7割が「取得日数は2週間未満」(『平成30年度雇用均等基本調査』)というありさまです。
かたや前述した積水ハウスは、対象者全員の1カ月以上取得を目標とした結果、2019年2~8月に取得期限を迎えた男性社員の253人全員が1カ月以上も取得。大成建設は通常の育休に加え、2才未満の子を養育するため5日間の育児「有給」休暇を取得可能と、しっかり中身を伴った育休支援制度です。これから自社に制度を整備しようと考えている会社にとって、これらは参考にすべきモデルケースと言えるでしょう。
「男性が育休なんて」という会社にいる悲劇
公益財団法人日本生産性本部の「2017年度 新入社員 秋の意識調査」によれば、男性新入社員の約8割が「子どもが生まれたときには、育休を取得したい」と考えているそう。このコロナ禍で、家族や大切な人のかけがえのなさをしみじみと感じた人が多いとすれば、この割合はさらに上がっているはずです。
いっぽうで、女子学生に聞いたアンケートでは、将来子どもができた場合育児休暇を「夫に取得してほしい」「どちらかといえば取得してほしい」と考える人は9割に達するんだとか(『女子学生の就職活動に関するアンケート調査』、2019年 ディスコ キャリタスリサーチ)。
令和時代、育児は女性だけの仕事ではなく、男女ともに手を取り合っておこなうもの。男性以上に女性はそう思い、またそうあるように願っているのではないでしょうか。
もしあなたの会社にいま、「育児休業なんて仕事なめてるよね」という空気が蔓延しているようなら、少子化の現代において、それは「子どもをつくるな」と言っているも同然。
そんな会社に在籍するせいで、子育てどころか結婚相手にも選ばれない、それなら転職を・・・と社員に考えられてしまうかもしれません。そうなる前に、まず最初の一歩を踏み出してみませんか?