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萩原雅紀のダムライターコラム【14】建築ファンも必見。外観だけで比較!このダム管理所がスゴい

作成者: 編集部|2021年09月21日

ダム見学に行ったとき、どのダムでも必ず押さえてくる定番の写真撮影ポイントがある。堤体の下流面はもちろん、放流設備、天端の通路、天端から見下ろした光景、貯水池……。そしてもうひとつ、ほぼ必ず押さえるものとして管理事務所の建物がある。

別に使い道はないし、面白い建築物かどうか分からないし、そもそも建築に詳しくも興味があるわけでもないけれど、なぜか管理事務所の写真を撮ってしまう。

でも、数百ヵ所のダムを見てくると、いろいろな意味で「ここ、管理事務所スゴいな!」と感じる場所がある。そんなわけで、これまで見てまわった中から印象に残った管理事務所の建物を紹介したい。

記事初出:『建設の匠』2019年11月19日

まずはオーソドックスなものを

とは言っても、ダム本体と同様、ほとんどの管理事務所は機能重視であり、いわゆる事務所的な建築物が多い。まずはそういった建物を見てもらって、ダムに行ったことがない人でも管理事務所とはこういうものか、というところを感じてほしい。

ただし管理者によって若干の違いがあって、電力会社が管理する発電用ダムの管理所の多くは現場の職員が少なかったり無人化されているため、比較的規模が小さい。逆に、国土交通省や水資源機構、自治体が管理する多目的ダムは、いわゆる「お役所」のイチ機関であり、市役所の出張所や保健所のような雰囲気の建物を想像すると遠くない。

(素人目には)一般的な管理事務所オブ管理事務所(藤原ダム/国土交通省)

ダムが造られた昭和40年代前半のスタンダードだろう(川俣ダム/国土交通省)

県営のダムではこんな感じが標準ではないか(寺山ダム/栃木県)

標準型県営ダムでも比較的新しいタイプ(琴川ダム/山梨県)

発電用ダムの管理所として標準はこんな感じか(二津野ダム/電源開発)

どこの美術館ですか、というモダン建築管理事務所

詳しいことは分からないけれど、大まかに言ってダムは完成時点の数年前の世の中の情勢や流行りが反映されている。おそらく構想や予算配分、設計から形になるまでに数年のブランクがあるためだと思うけれど、具体的には、2000年前後に完成したダムがこぞってバブリーな見た目なのだ。

管理事務所も例外ではなく、この頃に造られた建物はコンクリート打ちっ放しだったり、ガラス張りの巨大な壁面があったり、美術館やコンサートホールにも負けない外観をしているところが少なくない。

近年建て替えられて超モダンになったがヒグマに突進されてガラスが割られたり北海道らしい一面も(金山ダム/国土交通省)

狙ってないかも知れないけど北国のリゾートホテルといった趣の管理所(二風谷ダム/国土交通省)

壁がオーバーハングしているのは豪雪地帯ならではのデザインなんだろうか(横川ダム/国土交通省)

オーバーハングしている巨大なガラス張りの面に堤体が映る(月山ダム/国土交通省)

宙に浮いたような構造で1階にガラス張りの展示館まである(苫田ダム/国土交通省)

モダンかつ質実剛健、という最新のスタイルかも(嘉瀬川ダム/国土交通省)

当時は先進的だった!シブい事務所

きっと、時代に関係なくアグレッシブな思考を持つ設計者はいるのだろう。決して新しくはないけれど、いまでも目をみはるぐらい攻めた外観の建物も存在する。

擁壁にへばりついているような立地といい屋根を支える太い柱といいよく分からない構造だけど激シブ(刀利ダム/富山県)

そしてそんなシブい管理事務所があるのが巨大な取水設備の上!(刀利ダム/富山県)

非対称な感じといい司令室っぽく飛び出した部分といい長年の風雪に晒されたっぽいコンクリートの風合いといいシブすぎる管理事務所(阿武川ダム/山口県)

ダムが造られた昭和39年当時の最先端デザインではないだろうか(池原ダム/電源開発)

管理事務所ではないが激シブ番外編として紹介したい。ダムから取水して発電所に送る前の沈砂池の入口水門のゲート室なのだが、昭和11年竣工という年代物にも関わらずこのシブさ(小屋平ダム/関西電力/立入禁止場所から許可を得て撮影)

上の写真の裏側。それもそのはず、このダムから発電所に至るまで一連の設計を手がけたのは建築家の山口文象なのだ(小屋平ダム/関西電力/立入禁止場所から許可を得て撮影)

中に何が入っているのか、とにかく巨大な事務所

管理事務所の中には、事務室や操作室のほかにデータを処理するコンピュータ室、会議室、倉庫、宿直室などさまざまな用途の部屋があるけれど、それにしたって大きいだろう、というまるでホテルのような建物もある。というかホテル営業しててくれたら宿泊したいくらいである。言うまでもないがもちろんすべてホテルではない。

右側の巨大なアンテナがなければ丘の上に経つ絶景ホテルだと思う。きっと最上階は展望レストランなのだ(釜房ダム/国土交通省)

シックで上品なリゾートホテルのようなたたずまい。長期滞在したい(長島ダム/国土交通省)

絶対的に大きくはないのだが「県営ダムにしては大きい」というマニアックな存在感。部屋数少なめの隠れ家的ホテルだ(石井ダム/兵庫県)

本館の後ろに新館が連なるビジネスホテルのような巨大さ(富郷ダム/水資源機構)

ホテルというかスーパー銭湯のような雰囲気。屋上からさかんに湯気が出てそう(竜門ダム/国土交通省)

高所恐怖症には無理……絶壁に建つ事務所

ダムが造られるのは谷間であり、広い平地を確保するのは確かに難しいかも知れない。でもそれにしたって本当にここに造る以外なかったのか、という絶壁に建つ管理事務所もある。ダムがよく見えるのは良いかも知れないけれど、高所恐怖症の新人がいきなり配属されたらどうなるだろう、などと要らぬ心配をしてしまう。

私はここで絶壁管理事務所の存在に気づきました。堤体と谷間の斜面の接点部分に建つ(草木ダム/水資源機構)

右側の新管理事務所が建つまで使われていた旧管理事務所はまるで堤体下流側の斜面から生えているような位置(横山ダム/国土交通省)

まるで戦艦扶桑の艦橋のような迫力の位置関係と造形。でもここから主砲(洪水吐ゲート)の発射(放流)司令出してみたい(大渡ダム/国土交通省)

ちょっとゾッとする心許なさ。気持ち傾いているように見えるのは僕の写真の腕のせいでしょうか……?しかしご安心を、現在は山裾のしっかりした土地に建った新管理事務所に移転しています(綾北ダム/宮崎県)

その位置でその頭でっかちなバランス⁉ という絶叫管理事務所(北川ダム/大分県)

ダムの施設に見えない、個性的な事務所

いわゆるお役所的な事務所の建物が多いいっぽう、いろいろな思惑を取り入れた結果、一見とても事務所に見えない個性的な建物も存在する。間違えて入ってくる人がいないか、知りたいところである(いないと思うけれど)。

駅前通りから1本入ったあたりの場所に建つマンションっぽい(朝里ダム/北海道)

はじめて来たとき、ガチでダムに併設された蕎麦屋があるのかと思った(塩沢ダム/群馬県)

本当にごめんなさい、最初に見たときてっきり公衆トイレかと……。奥に新管理事務所が建っています(鏡ダム/高知県)

いまにも幸せいっぱいの二人がこの階段を降りてきそう。早くライスシャワーの準備を!(鳴淵ダム/福岡県)