ダムは実際に見てこそ!
土木構造物、巨大インフラ施設の魅力は実際に見てこそ分かると思っている。その中でも特にダムは、目の前で対峙することで、巨大さや大量の水を貯めているという緊張感を肌で感じることができるのだ。本やDVD、インターネットで家に居ながらにして見ることもできるけれど、ダムが気になったらぜひ実際に見に行ってほしい。
でも写真集やDVDも予習としてぜひ買ってください
とは言え、いきなり行けと言われても困ると思う。どこにどんなダムがあるかも分からないし、適当に行って立ち入り禁止だったり、たどり着くまでがとんでもない酷道だったり、資料館はおろか看板すらなくて面白くなかったら、もういいやと思ってしまうかも知れない。
そこで今回は、どうやってダムを探すのか、そしてどんなダムに行けばいいのか、という2点を、ダムに行くのが初めての初心者から毎週末ダムに行っているという上級者まで、レベルに応じてアドバイスしたいと思う。ぜひぜひ参考にして、楽しいダムめぐりをしてほしい。
記事初出:『建設の匠』2018年12月05日
ダムの探しかた
いったいどんなダムがどこにあるのか。ダムに行ってみよう、と思っても最初につまづくのがここだと思う(いますごくニッチな話をしている自覚はあります)。ワシらが若い頃は...、なんて話はしたくないけれど、これからダムめぐりを始めよう、という方々にとっていまはとても良い時代です。なぜなら簡単に好みのダムを見つける方法があるから。
神サービス!その名もDamMaps
初心者がダムを探すのにまず見るべきは地図。しかもネットで。さらに言えばその名も「DamMaps」を見てほしい。
「DamMaps」はその名の通り、ダムの地図だ。開いてみると、おなじみのGoogleマップの上にダムの形をしたオレンジ色のアイコンが散らばっているのが見えると思う。これがダムの位置を表している。意外とたくさんある、と思うのではないだろうか。それもそのはず、日本にある高さ15m以上の、河川法上でダムと定義されているすべてが掲載されているのだ。その数およそ2900基(ダムは1基、2基と数えます)。
DamMaps
そして、アイコンの上に書かれたGとかAとかRとかアルファベット、これはダムの型式を表している。そのほかにもGAとかHGとかあってダムの型式も気になるけれど、スペースの都合で型式の解説はまた次回以降に譲るとして、とにかくこれだけでダムの位置と型式が分かってしまう。さらにアイコンの中に細い線が何本か描かれていて、これはダムの役割を表しているのだけど、これも長くなるので今回は省略。さらに、アイコンをクリックすると小さなウインドウが開き、ダムの所在地から河川名から目的、スペック、事業者、ダムカードの有無などダムめぐりに必要な情報がほぼ見ることができてしまう。
そして、これがなんと無料。しかも作ったのはとあるダム好きの一般人。というわけで、「DamMaps」は初心者でも上級者でも、すべてのダムに行く人必見の神サービスなのだ。本職のダム関係者も愛用していると言う噂の「DamMaps」、出かける前にチェックしてほしい。
ダム界を根本から変えたダム便覧
「DamMaps」も良いけれど、たとえば高さ順とか貯水量順などを知りたい、ダムの名前で検索したい、ダムのニュースを知りたい、海外のダム情報を見たい、などと、初心者から一歩進んだ中級ダム好きが(いますごくニッチな話をしている自覚はあります)ぜひ見ておきたいのが、一般財団法人日本ダム協会が運営する「ダム便覧」だ。
「ダム便覧」は日本のダムについて、ダム好きが必要な情報はほぼすべて載っていると言っても過言ではないデータベースで、各ダムの名前やスペックはもちろん、用語辞典やニュースなども網羅したポータルサイトだ。
ダム便覧
一般のダム好きからの投稿も積極的に受け付けているのが特徴で、ダム関係者とダム好きがみんなで作っているサイトだと言える。実はこの前に紹介した「DamMaps」の位置情報もすべて「ダム便覧」のものを参照しているなど、このサイトの登場がダム好きの増加と行動範囲の拡大に大きな役割を果たしたと言っても過言ではないのだ。
当初から増築を繰り返しているサイトは少し煩雑だし、文字や数字、専門的な話も多くて初心者には少し取っつきにくいかも知れないけれど、ダム好きになった人は必ず誰もが通るサイトである。
やっぱり頼りになる地図
パソコンがないとかアクセスしている時間がもったいない、というベテランダム好きは普通の地図を開こう。
暇なときはいつも地図を開いて脳内ダムめぐりしている
10万分の1の道路地図がちょうど良いと思う。適当なページを開いて、水色の水たまりと「ダム」という表記を探そう。一般の地図の場合、あまりダムの情報に詳しくないので「ダム」や「貯水池」と書かれていても15m未満の堰だったり砂防堰堤だったりする場合もあるけれど、そういうところもベテランなら楽しめるはずだ。
雰囲気でダムを感じ取る特殊能力者
さらに、そういった情報がなくてもいつの間にかダムにたどり着けてしまう、ダム達人というような存在がいる。
このような人々は、何気なく車を山道の方へ向けて走らせ、「妙に水量の少ない大きな川(コントロールされている)」、「ところどころ極端に広い場所がある狭い山道(ダム建設の際にトラックがすれ違えるように広げられた)」、「水力発電所の建物(上流に取水する施設がある)」、「川沿いに建てられた放流注意の看板(上流にダムがある)」といった、ふつうの人が気付かないような「ダムの匂い」を嗅ぎ取るのだ。
ふつうは気づかないこの看板を見つけたらダムを見つけたも同じ
かつてはこういった特殊能力が持てはやされたが、「DamMaps」や「ダム便覧」とスマートフォン、カーナビなどがあれば誰でもダムに行けるので、身に付けなくてもまったく問題はない。
【ダム3級】まず見るべき初級ダム
ダムの探しかたは分かった。ではまず初心者はどういうダムに行ったらいいのか。もちろんいきなり日本最大の黒部ダムに行ってもいい。日本を代表する観光地なので観客も大勢いるし、食べ物やお土産にも困らない。まず何よりダムの存在感が別格である。
黒部ダムはいつ行ってもいい、たとえ放流していないシーズンオフでも
【ダム初段】初心者はまず国交省・水機構系
しかし黒部ダム以外にも初心者向けのダムは多くある。そんな中でお勧めするのは国土交通省や水資源機構が管理しているダムだ。型式は特に何でも良いので、最初は100mを超えるような巨大ダムを見に行くといいと思う。たとえば定山渓ダム(北海道)、月山ダム(山形県)、奈良俣ダム(群馬県)、日吉ダム(京都府)、温井ダム(広島県)、早明浦ダム(高知県)などなど。
こういったダムはかなり見学者を意識した造りになっていて、立派な駐車場はもちろん、資料館があったり、ダムの中の通路が解放されていたり、平日のみの予約制だけど職員さんの案内で内部を見学させてもらえるところもある。もちろんダムカードもあって、誰もが楽しめるはずだ。上から見下ろして高さのスリルを感じ、もし行けるようなら真下から見上げて巨大さを味わおう。
日本を代表する巨大ロックフィルの奈良俣ダムは一見の価値あり
【ダム二段】日本を支えた発電用ダムも押さえたい
また、少しだけレベルが高くなるけれど、高度経済成長期に造られた日本を代表する発電用ダムも押さえておきたい。最初に書いた黒部ダムもここに属するけれど、特にお勧めなのが奥只見ダム(福島県・新潟県)、田子倉ダム(福島県)、御母衣ダム(岐阜県)、佐久間ダム(静岡県・愛知県)など、電源開発が建設・管理しているダムだ。
電力会社によってはあまりPRに積極的でなく、高根第一ダム(岐阜県)や一ツ瀬ダム(宮崎県)のように巨大ダムであっても堤体上が立入禁止のところもあるけれど、電源開発のダムはそのほとんどが見学可能。資料館が設置されていたり見学を受け付けているところもあり、堤体のほかに発電所も見ることができるのだ。最近ではダムカードも配布されている。
一時代を築いたダムとして奥只見ダムはぜひ訪れたい
堤高130mものアーチダムでありながら完全立入禁止の一ツ瀬ダム
【ダム三段】ややシブい自治体のダム
国交省や水機構のダム、そして巨大発電用ダムなどは装備も豪華でダムの華やかさを存分に楽しめるけれど、そういったダムとダムの間に、やや地味ながら地域のために渇水や洪水と戦っているダムがある。それが自治体管理のダムである。
岡山県の千屋ダムのように資料館が設置されていたり、山梨県の深城ダムのように見学受け付けをしている活発なダムもあれば、管理所に人の気配がないような静かなダムまでさまざま。秋田県の鎧畑ダムや岩手県の入畑ダムのようなデザインが独特の堤体もあるので、巨大ダムの合間の箸休め的な見学に最適。こういったダムも楽しいと感じたらダム経験値もレベルアップ。今後のダムめぐりの楽しさも約束されたようなものだ。
クレストゲートが両岸にある独特なデザインの入畑ダム
【ダム四段】ゲートがズラリ!硬派発電ダム
続いてお勧めするダムを楽しめるのはダム好き中級くらいだろうか。特に見学者を意識した施設もなく、見られる意識がされたデザインでもないがなぜだか惹かれてしまう、ゲートがズラリと並んだ発電用ダムである。
戦前から戦後すぐくらいに大きな川の本流に造られたケースが多く、只見川から阿賀川と名前を変える阿賀野川、岐阜から富山を北上して富山湾に注ぐ庄川、宮崎県の北部を流れる耳川などのように、上流から下流にかけて何基か連続して造られていることも多い。ローラーゲートやラジアルゲートが堤体の上にズラリと並んだ姿は迫力満点で、この形がいちばんダムらしくて好き、というマニアもいる。個人的なオススメとしては阿賀野川の鹿瀬ダム、天竜川の平岡ダム、木曽川の大井ダムなどだ。
ズラリと並ぶ赤いゲートが印象的な平岡ダム(長野県)
【ダム五段】「野菜も食べなくちゃ」なアースダム
さらに上級になると、「ダム」と名のつくものは何でも見ないと気が済まなくなる。
具体的には、集落の農業用のため池が高さ15m以上あればダムであり、そういうところまで見つけ出して足を伸ばしてしまう。そういった小さな堤体は全国に無数にあり、たいてい土を盛り立てたアースダムという型式が多い。中には堤体に生えた雑草がそのまま伸び放題になっていて、単なる草叢にしか見えないところもある。
その姿を、ダム好きたちは「野菜」と名付け、その対照としてコンクリートダムを「肉」と呼ぶ。そして「肉ばかりじゃ胸焼けするから野菜も食べなきゃ」と言ってアースダムをめぐっている人もいる。
しかし正直言って、あまり見ても楽しくな……くないのだこれが。小さいながら小さいなりにがんばっていて、また巨大なコンクリートダムでは見られないような処理を目にすることもある(洪水吐を跨ぐ橋が木、とか)。しかし、非常に玄人向けの施設と言っていいだろう。
いかにも野菜な荻ダム(福島県)
【ダム六段】車を降りて歩いて行くダム
徐々にマニア度が上がってきているけれど、これまでに挙げたダムはほとんどの場合車ですぐ近くまで行くことができる。
しかし、中にはたどり着く道が通年で自動車通行止めのダムがあり、徒歩でないと行くことができない。その道もぬかるんでいたり崩れている場所があったり、人里離れた山の中に入って行くので蜂や熊が出現する可能性もある。ダム好きの間で有名なのは栃木県の逆川ダム、千葉県の第二袋倉ダム、長野県のセバ谷ダムなどがあるが、なるべく単独行動を避け、複数人のパーティでアタックしよう。
そんな中では比較的安全に行ける大又沢ダム(神奈川県)
【ダム聖(ダム七段)】見えないダムを楽しむ究極のダムめぐり
ダム好きをこじらせたマニアが最終的に行き着く究極は、未成ダムめぐりだ。鉄道趣味界でも、用地買収や建設までは行われたものの、何らかの理由で完成前に計画が中止になった路線、いわゆる「未成線」を見て歩く趣味があるという。
同じように、用地買収や工事の初期段階までは進んだものの結局建設工事前に中止になった「未成ダム」というものが全国各地に存在するのだ。
そういった情報を調べ、現地に赴き、そこに造られたかもしれない堤体を想像する……、なんとも紙一重で高尚な趣味だと言える。でも、基本的にはただの森の中なのでまったくお勧めしません。
林道を数十分走り、車を停めさらに数分歩いた先にある平川ダム建設予定地(群馬県/2000年事業中止)
好きに楽しめば良いんですけれどね
いかがだっただろうか。いろいろ好き勝手に書いてきたけれど、どんな方法で探すにしろどんなダムに行くにしろ、ダムはたくさんあって逃げないし、好きな方法で行きたいときに行きたいダムに出かけてください。