ダム見て何が楽しいの?
ドライブをしていたら偶然ダムにたどり着いた。駐車場に車を停めて遊歩道を進んで行くと、目の前にはるか高くまでそびえ立つコンクリートの壁が忽然と姿を現した。日本でも五本の指に入るような高さのダムを真下から見上げ、「これは、ちょっと、すごいぞ...」と、腰が抜けるような衝撃を味わった。
というわけで、前回書いたような経緯で、ここにめでたくひとりのダム好きが誕生した。もちろんダムとの出会い方は人それぞれだろうし、同じように巨大さや非日常な景色の虜になってそのままダム好きの仲間入りをする人もいれば、たいして響かず日常に戻る人も多くいると思う。
巨大ダムを下から見上げてはまりました(宮ヶ瀬ダム/神奈川県)
では、ダムに目覚めてしまった私が何に魅力を感じたのか、ダムに行ってどういうところを見ているのか。今回はそのあたりを解説したい。もちろんダムの見方は人それぞれなので、これが正解、と決めているワケではないけれど、ダムが持つ重要な要素は網羅しているし、およそ20年経った現在でも基本的な見方は変わっていないので、ダムに行く際にはぜひ参考にしていただきたい。
記事初出:『建設の匠』2018年11月2日
最低でも15m以上!ダムの巨大さ
ダムの魅力として、まず第一に挙げられるのは何と言ってもその巨大さだ、と断言する。そもそも日本で「ダム」とは、川を人工的に塞き止めて水を貯める施設のうち、下から上までの高さが15m以上のものを指している。
もう少し細かく説明すると、グローバルな定義として、ダム本体(堤体)が地盤に接している地点(基礎地盤)から堤体の頂上(天端)までの高さが15m以上のものをハイダム、それ未満のものをローダムと呼んでいる。日本では河川法でハイダムをダムと定義して、河川管理施設等構造令という政令で構造や強度などが細かく決められている。
勘違いされやすいけれど、上の条件に当てはめてみると、15m未満のいわゆる堰、そして土砂を貯める砂防堰堤は河川法上の「ダム」ではないということになる。
ダムっぽいけれど高さ14.1mでギリギリダムではない(白水堰堤/大分県)
大きさに関係なく砂防堰堤はダムではない(寺の沢砂防堰堤/長野県)
魅力という点に話を戻すと、ダムは少なくとも高さが15m以上あることになる。日本最大のダムである黒部ダム(富山県)は高さ186m、現在世界最大のダムは高さ300mである。そう考えると、最大でも高さ2m前後の人間から見て、ダムがいかに巨大な建造物かということが分かるだろう。数字上は小さなダムでも、実際に目にするとやはり圧倒される大きさがあるのだ。真下から見上げられるダムは決して多くないけれど、何も考えず、ただ単純に「でかいなー」と感じるだけでも十分爽快だし、一歩進むとそんな大きさながらデザインや立地の影響で「かわいい」と思えるダムもあり、それはそれで魅力の幅の広さを感じられる。そしてそう感じたあなたはもう沼に片足を突っ込んでしまっている。
ダム好きが口を揃えて「かわいい」と言うダム(石徹白ダム/福井県)
山あいにそびえ立つ壁!ダムの非日常感
もうひとつの魅力として、そんな巨大建造物が谷間に忽然と姿を表す非日常感、というものがある。ダムが造られている場所はたいていが山深い場所で、周囲は木や土、岩、水といった自然素材に囲まれている(回りくどい言い方の理由を説明すると、山が植林だったり周囲が農地だったり、手つかずの『自然』とは限らないから)。そんな場所にそびえ立つ圧倒的なボリュームの人工物、しかもそれがとてつもない量の水を貯め込んでいる、という非日常感は何度味わってもどきどきしてしまう。
深い山の中に屹立する真っ白い壁(深城ダム/山梨県)
これはもともと人工物が好きかどうか、自然の中の人工物を許せるかどうかで意見が分かれると思う。私は物心ついたときから住宅地を流れるコンクリート三面張りの川を見て育ったせいか、そういった景色も「自然」に受け入れ、美しさを見出してしまう。もちろん森の中を流れるせせらぎも美しいと思うし好きだけど、「自然+人工物」という組み合わせにも強い魅力を感じてしまうのだ。
同じ形はふたつとない!ダムの型式
こうして「非日常感」を追い求めてあちらこちらのダムを見に行くと、いつの間にか気づくことがある。ダムの形が一つひとつ違うのだ。いかにも人工、というコンクリートの直線的な造形の堤体もあれば、同じコンクリートでも有機的な曲線で構成された堤体もある。コンクリートではなく、ピラミッドのように岩を積み上げた外観の堤体もある。
岩を積み上げて造られたダムもある(殿ダム/鳥取県)
堤体の役割は、水を貯めたときの水圧をいかにして支えるか、という点に尽きるけれど、地形や地質は建設する地点によって異なるため、それに合わせたいくつかの型式が存在する。
大きく分けるとコンクリートで壁を造る「コンクリートダム」、土や岩を積み上げて山を造る「フィルダム」の2種類で、それぞれの型式の中にいくつかのバリエーションが存在する。細かい説明は次回以降に譲るけれど、ダムを建設するときは、さまざまな条件を考慮して、建設地点においてもっとも安全かつ経済的な型式の堤体が造られる、ということは頭の片隅に入れておいてほしい。
また、型式のほかに堤体の外観を飾る要素として見逃せないのが放流設備である。水を貯めるだけでなく、必要に応じて適切な量を下流に流す必要があるため、目的や流量、そして地形に応じた何種類かの放流設備が存在する。そして、同じく目的や流量、そして地形に応じて適切な位置に設置された放流設備は、型式とともに堤体の個性を決める重要な要素となっている。
地形や地質、そして川の流量に至るまでまったく同じ場所はないから、さまざまな型式や放流設備を組み合わせて造られるダムにもふたつと同じ形がないのだ。
目的別の放流設備を何種類か装備(大町ダム/長野県)
放流設備は1種類だがジャンプ台になっている(上椎葉ダム/宮崎県)
目的で雰囲気が違う!?ダムの事業者
最後にもうひとつ、ダムを見分ける上で面白いポイントとして事業者の違いがある。
事業者別に見たダムの種類としては、大きく3つに分けられる。ひとつは治水系である。管理しているのは国土交通省や水資源機構、そして都道府県単位の自治体が主で、ダムの目的としては洪水を防ぐことを第一に、生活用水などの確保や発電を行なっているダムも多い。
ふたつめは利水系。管理しているのは農水省、そして市町村単位の自治体や土地改良区などが多いけれど、水資源機構や都道府県単位の自治体のものもある。メインの目的は農業用水や上水道用水、工業用水の供給だ。
東京都水道局が管理する巨大ダム(小河内ダム/東京都)
3つめは電力系。電力会社が管理しているのがほとんどだけど、中には自治体や民間企業が運営を行なっているダムもある。もちろん目的は水力発電。
大まかな違いとしては、治水系のダムは複数の目的を持っている多目的ダムが多く、したがって放流設備もさまざまなタイプを装備した豪華な堤体が目立つ。いっぽう利水系は基本的に各種用水の確保と供給なので、シンプルな堤体に用水補給用の設備がひとつ、という場合が多い。さらに電力系の堤体は発電所に水を送る取水口のほか、放流設備が大雨の際に使われる1種類のみという、これもストイックな堤体がほとんど。
人に例えるなら、治水系ダムはさまざまな食材や調理器具を駆使してカラフルなフレンチを作るレストランシェフ、利水系ダムはこだわりのコーヒーや紅茶を黙々と淹れる物静かな喫茶店のマスター、そして電力系ダムはひと組の包丁とまな板で勝負する和食の板さん、というイメージだ(私の勝手な印象です)。
というわけで、ダムでも見方によってさまざまな魅力を発見することができる。ぜひ実際に現地に出かけて、自分の好きなポイントを探してみてほしい。