本レポートのポイント
・6業種別主要上場企業各10社の2021年3月期決算から見る建設市場動向をまとめた
・6業種中5業種で売上高は前期割れで建設関連業界にとって厳しい決算
・国土強靭化計画等を中心とした公共の土木工事が底堅く推移したことから、土木工事業のみが好調な決算
<総合工事業>
9社が減収減益、主要10社合計で
純利益15.2%減と厳しい決算
21年3月期の決算は10社中9社が減収減益と厳しい決算になりました(図表①)。ゼネコン大手4社のうち鹿島建設を除く3社は売上高、純利益ともに前期比で2桁減となっています。主要10社合計でも売上高が同9.8%減、営業利益は同15.2%減、経常利益は同15.7%減、純利益は同15.2%減となっており、東京オリンピック・パラリンピック関連の需要が一段落し建設市場が端境期を迎えたことに加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、総合工事業の業績は低迷しました。
【図表① 総合工事業主要10社の2021年3月期(連結)の実績】
出所:各社の2021年3月期決算短信より作成
<22年3月期業績予想>
10社合計の売上高予想は6.5%増となるも
純利益は18.5%減と減益予想
22年3月期の業績予想は10社すべてが増収としており、売上高は底堅く推移すると考えられています(図表②)。ただし、営業利益、経常利益、純利益は6社が減少すると予想しています。10社合計でも営業利益は前期比16.2%減、経常利益は同17.4%減、純利益は同18.5%減となっており、厳しい受注環境を背景に利益率は低下するとの見方がされています。
【図表② 総合工事業主要10社の2022年3月期(連結)の業績予想】
※「収益認識に関する会計基準」などを適用するため業績予想の対前期増減率を公表していない三井住友建設についても単純計算で対前期増減率を記載している
<⼟⽊⼯事業>
6社が増益、10社合計で売上⾼0.2%増、
純利益13.2%増と好調な決算
21 年 3 ⽉期の決算は 6 社が増益、うち 4 社が増収増益となりました(図表③)。10 社合計で売上⾼が前期⽐ 0.2%増、営業利益が同 17.7%増、経常利益が同 19.1%増、純利益が同 13.2%増となっており、国⼟強靭化計画等を中⼼とした公共関連の⼟⽊⼯事への投資が堅調であることを背景に、前期に引き続いて好調な決算となっています。
【図表③ ⼟⽊⼯事業主要 10 社の 2021 年 3 ⽉期(連結)の実績】
出所︓各社の 2021 年 3 ⽉期決算短信より作成
<22年3月期業績予想>
10社合計の売上⾼予想は2.9%増となるも
純利益は21.0%減と⼤幅な減益予想
22年3⽉期の業績予想は6社が増収となっています(図表④)。10社合計でも前期⽐ 2.9%増となっており、好調な公共事業が底⽀えする構造で売上⾼は堅調に推移すると予想されています。ただし、営業利益は10社合計で前期⽐15.0%減、経常利益は同17.0%減、純利益は同21.0%減となっており、厳しい受注環境を背景に利益率は低下するとの⾒⽅がなされています。
【図表④⼟⽊⼯事業主要10社の2022年3⽉期(連結)の業績予想】
※「収益認識に関する会計基準」などを適⽤するため業績予想の対前期増減率を公表していないピーエス三菱、川⽥テクノロジーズについても単純計算で対前期増減率を記載している
<電気設備⼯事業>
10社合計で売上⾼1.4%減、純利益11.7%増、
通信設備⼯事業⼤⼿3社が好調
21年3⽉期の決算は通信設備⼯事業の協和エクシオ、コムシスホールディングス、ミライトホールディングスの3社が第5世代基地局の特需を背景に増収増益となりましたが、電気設備⼯事業のきんでん、関電⼯、九電⼯、トーエネックの⼤⼿4社は新型コロナウイルス感染症拡⼤等の影響による⺠間設備投資の減少等を背景に減収減益となり、明暗が分かれました(図表⑤)。 10社合計では、売上⾼は前期⽐ 1.4%減、営業利益は同 3.7%増、経常利益は同 4.3%増、純利益は同 11.7%増となり、通信設備⼯事業の好調が貢献して全体としては堅調な決算結果となっています。
【図表⑤ 電気設備⼯事業主要 10 社の 2021 年 3 ⽉期(連結)の実績】
出所︓各社の 2021 年 3 ⽉期決算短信より作成
<22年3月期業績予想>
10社合計で売上⾼予想は0.3%減と堅調だが
純利益は8.8%減と減益予想
22 年 3 ⽉期の業績予想はコムシスホールディングス、ミライトホールディングスの通信設備⼯事業 2 社が増収のほか、九電⼯、トーエネック、ユアテック、中電⼯の電気設備⼯事業4社も増収としており、10社合計で売上⾼は前期⽐0.3%減と微減にとどまると予想されています(図表⑥)。⼀⽅、営業利益は同4.9%減、経常利益は同5.5%減、純利益は同8.8%減と、厳しい市場環境の中での価格競争激化等を背景に利益率は低下するとの⾒⽅がされています。
【図表⑥ 電気・通信設備⼯事業主要10社の 2022 年3⽉期(連結)の業績予想】
※「収益認識に関する会計基準」などを適⽤するため業績予想の対前期増減率を公表していない関電⼯についても単純計算で対前期増減率を記載している
<管⼯事業>
10社すべてが減収、10社合計で売上⾼12.2%減、
純利益16.4%減の厳しい決算
21 年 3 ⽉期の決算は 10 社すべてが減収、うち 9 社が減収減益となりました(図表⑦)。10社合計も売上⾼が前期⽐12.2%減、営業利益は同23.1%減、経常利益は同20.8%減、純利益は同16.4%減となり、⾮常に厳しい決算となっています。
【図表⑦ 管⼯事業主要 10 社の 2021 年3⽉期(連結)の実績】
出所︓各社の 2021 年 3 ⽉期決算短信より作成
<22年3月期業績予想>
10社合計で売上⾼予想は6.5%増、
純利益は0.6%減と堅調な業績を予想
22年3⽉期の業績予想は9社が増収、うち4社が増収増益としています。10社合計では、売上⾼が前期⽐6.5%増、営業利益は同3.4%増、経常利益は同1.5%増、純利益は同0.6%減となっており、売上⾼については落ち込みが激しかった今期を上回るとの⾒⽅がされています。
【図表⑧ 管⼯事業主要 10 社の 2022 年3⽉期(連結)の業績予想】
出所︓各社の 2021 年 3 ⽉期決算短信より作成
<プラント・エンジニアリング業>
10社合計で売上⾼6.3%減、純利益10.4%減と
厳しい決算となるも環境関連企業は増収増益
21 年 3 ⽉期の決算は千代⽥化⼯建設と東洋エンジニアリングが⼤幅な減収減益となり、10 社合計でも売上⾼が前期⽐6.3%減、営業利益は同 9.4%減、経常利益は同 1.1%減、純利益は同 10.4%減と厳しい決算となりました(図表⑨)。ただし、⽔処理プラント等の環境関連プラントを中⼼に事業展開する栗⽥⼯業、メタウォーター、タクマの 3 社は増収増益となっており、得意分野によって明暗が出ています。
【図表⑨ プラント・エンジニアリング業主要10社の2021年3⽉期(連結)の実績】
出所︓各社の2021年3⽉期決算短信より作成
<22年3月期業績予想>
10社合計で売上⾼3.8%増、純利益8.6%増と好調な業績を予想
22年3⽉期の業績予想は10社合計で売上⾼が前期⽐3.8%増となりました(図表⑩)。営業利益は同6.5%減、経常利益は同8.0%減と減少ですが純利益は同8.6%増となり、堅調な業績が予想されています。今期は⾮常に厳しい決算であった東洋エンジニアリングが⼤幅な増収増益に転じ、今期好調であった栗⽥⼯業は引き続き増収増益の予想となっています。
【図表⑩ プラント・エンジニアリング主要10社の2022年3⽉期(連結)の業績予想】
※「収益認識に関する会計基準」などを適⽤するため業績予想の対前期増減率を公表していない⽇揮についても単純計算で対前期増減率を記載している
<住宅・不動産業>
8社が減収、6社が減収減益、10社合計で売上⾼4.2%減、
純利益13.1%減の厳しい決算
21年3⽉期の決算は8社が減収、うち6社が減収減益となりました(図表⑪)。10 社合計でも売上⾼が前期⽐4.2%減、営業利益は同10.6%減、経常利益は同11.8%減、純利益は同13.1%減と厳しい決算となっています。増収増益は飯⽥グループホールディングスのみでした。
【図表⑪ 住宅・不動産業主要 10 社の 2021 年3⽉期(連結)の実績】
出所︓各社の 2021 年 3 ⽉期決算短信より作成
<22年3月期業績予想>
10社合計で売上⾼5.4%増、純利益11.3%増と好調な業績を予想
22 年3⽉期の業績予想は10社中9社が増収増益となっています(図表⑫)。10社合計で売上⾼が前期⽐5.4%増、営業利益は同3.6%増、経常利益は同5.5%増、純利益は同11.3%増であり、売上、利益ともに好調な業績を予想しています。住宅市場は⼈⼝減少を背景に基本的に縮⼩傾向だと考えられますが、低⾦利体制の継続、住宅ローン減税の再延⻑等の政府による住宅取得⽀援策等を背景に、需要は底堅いという⾒⽅がされているようです。
【図表⑫ 住宅・不動産業主要10社の2022年3⽉期(連結)の業績予想】
※「収益認識に関する会計基準」などを適⽤するため業績予想の対前期増減率を公表していないスターツコーポレーション、タカラレーベンについても単純計算で対前期増減率を記載している
本レポートのまとめ
各業種主要10社合計の売上⾼と純利益の前期⽐を⾒ると、6業種中5業種で売上⾼は前期割れ、うちゼネコン、管⼯事業、プラント・エンジニアリング業、住宅・不動産業は純利益も前期割れとなっており、建設関連業界にとって 21 年 3 ⽉期は厳しい経営環境にあったことが分かります(図表⑬)。その中で⼟⽊⼯事業のみが売上⾼が前期⽐0.2%増、純利益は同13.2%増と好調でした。この背景には、⺠間建設需要が新型コロナウィルス感染症拡⼤の影響等から減少する中、国⼟強靭化計画等の推 進による公共の⼟⽊⼯事が底堅く推移したことが考えられます。また、電気・通信設備⼯事業も売上⾼は1.4%減と微減ながら純利益は11.7%増となっていますが、これは前述のように通信設備⼯事業の⼤⼿3社の貢献によるものです。
【図表⑬ 2021 年 3 ⽉期決算 主要 10 社合計の前期⽐増減率】
次に、主要10社の22年3⽉期の業績予想について⾒ると、5業種で売上⾼は前期を上回っており、新型コロナウイルス感染症が再拡⼤するなかで不透明な要素を抱えながらも、建設需要は底堅いとみられているようです(図表⑭)。特にプラント・エンジ ニアリング業は売上⾼が3.8%増、純利益が8.6%増、住宅・不動産業は売上⾼が5.4%増、純利益が11.3%と好調な業績予想となっています。ただし、純利益はゼネコン、⼟⽊⼯事業で⼤幅に前期を下回るなど4業種で前期割れとなっており、厳しい受注環境の中で利益率の低下が予想されています。
【図表⑭ 2022 年 3 ⽉期業績予想 主要 10 社合計の前期⽐増減率】