建設技術者の「2030年 未来予測(2021年版)」

本レポートのポイント
・新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえて、建設技術者の将来の需給動向を予測
・「ベースライン成長」、「成長実現」、「ゼロ成長」の3つの経済成長パターンについて、建設技術者の将来需給数を試算
・ベースライン成長シナリオでは30年の不足数は>2万人となるが、ゼロ成長シナリオでは27年に不足が解消され30年には9千人の過剰となる可能性も

新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ
2030年までの建設技術者の需給動向を予測

新型コロナウイルス感染症の拡大が日本経済に与え続けている打撃は大きく、今後の建設技術者の需給動向にも大きな影響を与えると考えられます。
建設技術者の有効求人倍率をみると、2020年2月以降11月まで10カ月連続で前年同月を下回っており、新型コロナウイルス感染症拡大が建設技術者の需給動向にも大きな影響を与えていることがわかります。
今回の未来予測では、新型コロナウイルス感染症拡大が建設技術者の需給バランスにどのような影響を与えるのかについて分析し、【A.ベースライン成長シナリオ】、【B.成長実現シナリオ】、【C.ゼロ成長シナリオ】の3つのシナリオにおける2030年までの人材需給ギャップを試算しました。

<建設技術者数の試算結果>
建設技術者は2030年には49万9千人(2015年比105.0%)になると試算

建設技術者数の将来シミュレーションにおいては、2015年の国勢調査における建設技術者数をベースとして、「新卒の建設技術職入職」と「他職種からの入職」を増加要因、「他職種への転職」と「定年による離職」を減少要因として、下記のような考え方で試算しました(図表①)。

【図表① 建設技術者数の増減要因シミュレーションの考え方】

増減要因 試算の考え方 増減数
新卒の建設技術職入職 文部科学省「学校基本調査」により、2016年からは2020年は実数値を使い、その後は生産年齢人口の減少に伴い減少傾向で推移と想定 +26.1万人
他業種からの入職 2020年までは専門的・技術的職業平均を若干上回る流入率で推移し、2021年以降は生産年齢人口減少に伴う人材獲得競争が激化し流入率は低下すると想定
※転職入職率=転職入職者数÷就業者数
(雇用動向調査、労働力調査の専門的・技術的職業のデータから試算)
+13.2万人
他業種への転職 2020年までは専門的・技術的職業の平均レベルで推移し、2021年以降は若年層の増加に伴い流出率が高まると想定 ▲15.7万人
定年による離職 70歳定年への流れを受けて65歳で退職する人の比率は徐々に減少すると想定
※厚生労働省「令和元年『高年齢者の雇用状況』」等より退職率を設定
▲21.2万人

その結果、建設技術者数は2015年の475,200人から緩やかな増加傾向が続き、2027年には500,360人(2015年比105.3%)に達しますが、その後は減少に転じて、2030年には498,826人(2015年比105.0%)になると試算されました(図表②)。

【図表② 建設技術者数の試算結果】

出典:総務省「国勢調査」 、文部科学省「学校基本調査」、厚生労働省「雇用動向調査」、総務省「労働力調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、厚生労働省「高年齢者の雇用状況」等を参考にヒューマンリソシア総研にて試算

<建設技術者の需要数の試算>
ベースライン、成長実現、ゼロ成長の3つのシナリオについて試算

建設技術者の需要数については、2020年までは国土交通省の「2020年建設投資見通し」(2020年10月)における建設投資額をベースに試算し、2021年以降については内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(2020年7月)におけるベースラインケース及び成長実現ケースのGDP成長率、消費者物価上昇率を使った試算に加えて、2021年以降をゼロ成長とした3つのシナリオについて試算しました(図表③)。

【図表③ 建設技術者の将来需要試算の前提】

A.ベースライン成長シナリオ 内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2020年7月)におけるベースラインケースの経済成長率、消費者物価上昇率をベースに建設投資の増減を試算
B.成長実現シナリオ 内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2020年7月)における成長実現ケースの経済成長率、消費者物価上昇率をベースに建設投資の増減を試算
C.ゼロ成長シナリオ 経済成長率、消費者物価上昇率ともにゼロ成長で推移すると想定して建設投資の増減を試算

2030年における建設技術者の需要数は成長実現シナリオで55万人、
ベースラインシナリオで51万9千人、ゼロ成長シナリオで49万人

新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受ける2020年度の建設投資額は、国土交通省の「建設投資見通し」において55兆1千億円(前年度比▲3.8%)の見通しとなっていますので、その数値をベースに必要な建設技術者の需要数を試算しました。

2021年についてはリーマンショック時のデータおよび内閣府の「長期の経済財政に関する試算」(2020年7月31日)による2020年度のGDP成長率予測値をベースに試算しました。リーマンショック時には実質GDP成長率が▲3.6%で民間非住宅・土木建設投資額は▲15.6%となっています。また、2020年度の実質GDP成長率は▲4.5%と予測されています。これらのデータと緊急事態宣言が再発出されるなど新型コロナウイルス感染症の収束が遅れている状況を踏まえて、2021年度の民間非住宅・土木の建設投資額は▲20%減少すると仮定して必要な建設技術者数を試算しました。

その結果、各シナリオ共通で建設技術者の需要数は2019年の54万3千人から2020年には52万3千人、2021年には50万5千人に減少すると試算されました。2022年以降は成長実現シナリオでは増加傾向が続き2030年には需要数は55万人となり、ベースラインシナリオでは横ばいで2030年には51万9千人、ゼロ成長シナリオでは減少傾向が続き2030年には49万人になると試算されました(図表④)。

【図表④ 建設技術者需要数の試算結果】

出典:下記資料を参考にヒューマンタッチ総研にて試算
総務省「国勢調査」「労働力調査」、文部科学省「学校基本調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」「雇用動向調査」 「高年齢者の雇用状況」 、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、国土交通省「令和2年度 建設投資見通し」、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」、野村総研「2040年の住宅市場と課題」

3つのシナリオにおける
建設技術者の需給ギャップの推移

建設技術者数と建設技術者の需要数の試算結果から需給ギャップの推移をみると各シナリオにおいて次のようになります。

A.ベースライン成長シナリオ
2030年の不足数は2万人

3つのシナリオともに、建設技術者の不足数は2019年に最大の60,613人の不足となり、その後2020年には37,193人、2021年には15,310人と不足数は大幅に減少します。
それ以降については、ベースラインシナリオでは2022年の不足数は27,040人に増加しますが、その後、不足数は徐々に減少して2030年には20,160人の不足になると試算されました(図表⑤)。

【図表⑤ ベースライン成長シナリオにおける需給ギャップの試算】

B.成長実現シナリオ
2030年の不足数は5万1千人に拡大

成長実現シナリオでは2022年に不足数は27,002人に増加し、その後は急速に増加して2030年には51,394人の不足になると試算されました(図表⑥)。

【図表⑥ 成長実現シナリオにおける需給ギャップの試算】

C.ゼロ成長シナリオ
2027年に建設技術者は過剰に転じる

ゼロ成長シナリオでは2022年に不足数は22,294人に増加、しかしその後は減少傾向が続いて2027年には過剰に転じ、2030年には9,299人の過剰になると試算されました(図表⑦)。

【図表⑦ ゼロ成長シナリオにおける需給ギャップの試算】

出典:下記資料を参考にヒューマンタッチ総研にて試算
総務省「国勢調査」「労働力調査」、文部科学省「学校基本調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」「雇用動向調査」 「高年齢者の雇用状況」 、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、国土交通省「令和2年度 建設投資見通し」、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」、野村総研「2040年の住宅市場と課題」

本レポートの考察

建設技術者の需給ギャップは2019年に6万人の不足にまで拡大しましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で建設投資が減少する影響を受けて2021年には1万5千人程度の不足にまで需給ギャップは縮小すると試算されました。コロナ禍による建設投資額の減少に伴い、建設技術者の需給はかなり緩和されはしますが一定レベルの人材不足は続きそうです。

2030年の需給ギャップについて、ベースライン成長シナリオでは2万人の不足、成長実現シナリオでは5万1千人まで不足数が拡大する試算になっていますが、ゼロ成長シナリオでは2027年に建設技術者は過剰に転じ、2030年には9千人の過剰になるという試算結果になっており、経済動向次第で需給ギャップは大幅に変動しそうです。

足元では、緊急事態宣言が再び発出され、新型コロナウイルス感染症拡大の収束の目途が立たない状況であり、2020年度のGDP成長率は今回の試算で使った▲4.5%よりもさらに下振れすることも考えられます。2020年12月に発表された政府経済見通しでは2020年度の実質GDP成長率は▲5.2%とされており、緊急事態宣言の再発出を受けてさらに下振れする危険性もあると考えられることから、短期的には縮小マーケットを想定しながらも中長期的には建設市場の動向次第で建設技術者の不足数が拡大する可能性も踏まえて採用戦略をフレキシブルに見直していくことが重要になると考えられます。

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