本レポートのポイント
・建設業での海外人材数は、他産業よりも大幅に増加
・一方で、建設技術者不足が続く中、建設技能工として特定技能にて来日する海外人材数は伸び悩み
・厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」から、建設業における海外人材の現状を分析
生産年齢人口(15歳から65歳未満の人口)は、1995年の8,726万人をピークに減少傾向が続いており、2019年には1995年比86%の7,507万人にまで減少しています。このような中で、労働力の重要な供給源のひとつと考えられているものに海外人材の受け入れがあります。
今回は、厳しい人手不足が続く建設業において、海外人材の現状はどのようになっているのかについて、詳しく見ていきたいと思います。
年々高まる海外人材の重要性
労働市場全体の海外人材総数は、現在の統計制度が開始した2008年には48万6千人でしたが、2020年には172万4千人(2008年比255%増)に増加しています。人手不足が深刻な労働市場で、海外人材の重要性は年々高まってきていると言えます(図表①)。2020年はコロナ禍の影響もあり、増加率は前年比4%増にとどまりましたが、増加傾向は続いています。
【図表① 海外人材総数の推移】
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」より作成
中国を抜き、ベトナム国籍の海外人材が最多に
国籍別にみると、最も多いのはベトナムの44万4千人、次いで中国が41万9千人となっています(図表②)。2019年まで、最も多いのは中国でしたが、近年ベトナムからの人材が急激に増加して2020年に逆転しています(図表③)。
【図表② 2020年における国籍別海外人材数】
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」より作成
【図表③ 中国国籍とベトナム国籍の海外人材数の推移】
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」より作成
建設業での海外人材が占める割合は2.25%
2020年の海外人材の占める割合は、全産業合計では、2.58%となりました(図表④)。産業分野別にみると、海外人材の占める割合が最も高いのは、「他に分類されないサービス業」が6.13%、次いで「飲食店、宿泊業」が5.19%、「製造業」が4.61%、「情報通信業」が2.97%、「学術研究、専門技術サービス業」が2.39%、「建設業」が2.25%となり、建設業は6番目に海外人材が占める割合が高い産業分野となりました。
【図表④ 2020年における産業分野別の海外人材数、海外人材が占める割合】
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」、総務省統計局「労働力調査」より作成
建設業の海外人材数は、2008年比で約14倍に増加
建設業で働く海外人材数の推移をみると、現状制度の統計が始まった2008年の8千人から、2020年には11万1千人となり、約14倍に増加しています(図表⑤)。一方、全産業でみると、2020年の海外人材総数は、2008年の約3.6倍の増加にとどまっています(図表①参照)。このことから、建設業の海外人材は他の産業と比べ、大幅に増加していることがわかります。
【図表⑤ 建設業における海外人材数の推移】
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」より作成
「技能実習の在留資格」が全体の約7割を占める
2020年の建設業の海外人材数を在留資格別にみると、「技能実習の在留資格」が7万6,567人で最も多く、全体の約7割を占めています(図表⑥)。次いで、「身分に基づく在留資格」が1万7,425人、「専門的・技術的分野の在留資格」が1万868人となっています。
【図表⑥ 建設業における2020年の在留資格別の海外人材数】
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」より作成
- ※総数には在留資格不明5人が含まれるため合計は一致しません
- ※専門的・技術的分野:「高度な専門的な職業」「大卒ホワイトカラー、技術者」「外国人特有又は特殊な能力等を活かした職業」で働ける在留資格であり、建設技術者等もこの中に入ります
- ※技能実習の在留資格:技能実習生としての在留資格
- ※身分に基づく在留資格:「定住者」(主に日系人)「永住者」「日本人の配偶者等」等
- ※特定活動:EPA(Economic Partnership Agreement)に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者、ワーキングホリデー、外国人建設就労者、外国人造船就労者等
- ※資格外活動⇒留学生のアルバイト等
建設業の専門的・技術的分野で働く海外人材は、5年連続で前年比30%以上増加
建設業で働く、技能実習と専門的・技術的分野の在留資格を有する海外人材をみると、技能実習(図表⑦)、専門的・技術的分野(図表⑧)ともに増加傾向が続いています。特に、専門的・技術的分野では5年連続で前年比30%以上の増加となりました。
建設業では技能実習生だけではなく、専門的・技術的分野で働く海外人材も大幅に増加してきていることが分かります。
【図表⑦ 建設業における技能実習の在留資格の海外人材数の推移】
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」より作成
【図表⑧ 建設業における専門的・技術的分野の在留資格の海外人材数の推移】
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」より作成
建設技能工として働く海外人材は2020年6月末から大幅増加
深刻な労働力不足に対応するため、2019年4月に出入国管理法が改正され、在留資格に「特定技能」が創設されました。特定技能は農業や建設、介護など、単純労働とみなされるために海外人材の従事が認められていなかった14分野において、5年間就業できる在留資格です。建設業では、型枠施工、左官、とび、建築大工など、人材が特に不足している建設技能工が該当します。
「特定技能」在留資格の海外人材数の推移をみると、14分野計が2020年6月末の5,950人から2021年6月末には29,144人と、約5倍に増加しています(図表⑥)。一方、型枠施工、左官、とび、建築大工などの建設分野では、同374人から同2,781人と約7倍に増加しており、全体平均以上に増加していることが分かります。ただし、政府は当初5年間で最大で約34万5千人の受け入れを目標としており、充足率(受け入れ数÷受け入れ目標数)は約8%にとどまっています。建設分野の受け入れ目標数は4万人とされており、充足率は約7%にとどまっているなど、普及は期待されたほどには進んでいません。
【図表⑨ 特定技能1号※在留外国人数の推移】
出典:出入国在留管理庁「各四半期末の特定技能在留外国人数」より作成
※特定技能には1号と2号がありますが、特定技能2号外国人の在留は2021年10月現在ありませんので、数字は全て特定技能1号在留外国人数です
本レポートの考察
建設業で働く、技術的・専門的分野の在留資格を有する海外人材は5年連続で年率30%以上増加し、2020年には10,868人となりました。建設技術者の人手不足が続く中、建設業各社が海外人材の建設技術者確保に積極的に動いていることが推察されます。
また、同じく厳しい人手不足が続く建設技能工については、2019年4月に新たに創設された特定技能の在留資格での海外人材数が伸び悩んでおり(2021年6月末で2,781人)、今後は人手不足の解消のためにも、この特定技能の海外人材をさらに積極的に受入れて活用することが必要であると考えられます。