国土交通省は公共事業に携わる関係者に向けて、BIM/CIM円滑導入を目的としたガイドライン、「BIM/CIM活用ガイドライン」を作成しています。
しかし、当のBIM/CIM導入を検討している企業の担当者の方には、この「BIM/CIM活用ガイドライン」について「ガイドラインを読み込んでいる暇がない」「ガイドラインで企業側が求められていることがよくわからない」といった疑問や不安を抱く向きもあるのではないでしょうか。
たしかに国土交通省が作成した資料であるこのガイドライン、「共通編」だけで全131ページとなかなかのボリューム。内容もやや難解で、一読しただけではわかりにくい箇所があるのも事実。
さて、「BIM/CIM活用ガイドライン」とはいったいどういったものなのか? 「BIM/CIM活用ガイドラインの概要」や「BIM/CIM活用ガイドラインで企業側に求められること」を、わかりやすく解説します。
「BIM/CIM活用ガイドライン」の概要
「BIM/CIM活用ガイドライン」は公共事業関係者がBIM/CIM(Building /Construction Information Modeling/Management)を円滑に活用できるようにすることを目的として作られたもの。「公共事業関係者」が「発注者・受注者等」と定義されている点にも注目です。
「BIM/CIM活用ガイドライン」は全11編で構成されています。その内容はというと、2012年から実施されていたBIM/CIMの試行事業で得られた経験を基に、BIM/CIMの活用目的や適用の範囲、BIM/CIMの考え方、活用の手順、今後のBIM/CIMなどが記載されています。
たとえば、「共通編」ではBIM/CIMの活用目的や活用で得られる効果など、いわゆるBIM/CIMの基本的概要について解説しています。
第2編以降は道路土工やダム、橋梁、山岳トンネル構造物などの公共事業への活用例がくわしく書かれています。
ここまで読んでおわかりのとおり、タイトルには「BIM/CIM」と書かれてはいるものの、もともとは「CIM導入ガイドライン」としてスタートしたもの。公共事業なので内容的には「CIM」、つまり土木領域中心です。
ガイドライン冒頭においては、次のように説明されています。
【CIM と BIM/CIM について】 国土交通省では、平成30年5月から従来の「CIM(Construction Information Modeling/ Management )」という名称を「BIM/CIM ( Building / Construction Information Modeling , Management)」に変更している。これは、海外では「BIM」は建設分野全体の3次元化を意味し、土木分野での利用は「BIM for infrastructure」と呼ばれて、BIMの一部として認知されていることから、建築分野の「BIM」、土木分野の「CIM」といった従来の概念を改め、国際標準化等の動向に呼応し、地形や構造物等の3次元化全体を「BIM/CIM」として名称を整理したものである。
今後、より広い分野で3次元モデルを利活用し、業務変革やフロントローディングによって合意形成の迅速化、業務効率化、品質の向上、ひいては生産性の向上等を目指していくことを示すため、本ガイドラインにおいても「CIM」を「BIM/CIM」に変更すべきと考えられるが、2020年度に抜本的なガイドラインの構成変更を予定していることから、本ガイドラインにおいては混乱を避けるため、表題との整合を図り、引き続き「CIM」という名称を用いることとする。
BIM/CIMに関する他の基準・要領等と整合を図る場合は、本ガイドラインの「CIM」を「BIM/CIM」と読み替えるものとする。
注意したいのは、国土交通省が出しているからといって「BIM/CIM活用ガイドライン」は記載内容に「すべて従うように!」というスタンスでつくられたものではないということ。
記載された活用方法をあくまで参考として、発注者や受注者(BIM/CIM導入企業)がそれぞれの事業の特性や状況に応じて、BIM/CIMを活用していくことを目的としているのです。また、このガイドラインが「継続的に改善、拡充」されていくことも明言されています。
BIM/CIM活用ガイドラインの「総則」とは
「総則」とは、全体に共通する、前提としての法則です。
「BIM/CIM活用ガイドライン」の総則について、表にまとめなおしてみました。
気になる「活用効果」については後述します。
項目 | 内容 |
---|---|
活用目的 | 測量・調査、設計、施工、維持管理・更新各段階にて情報を充実させながらBIM/CIMモデルを連携・発展させ、事業全体の関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システム全体の効率化・高度化を図ること |
活用効果 |
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適用範囲 |
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BIM/CIMに関する 基準・要領等の体系 |
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BIM/CIM活用ガイドラインの「測量」、「地質・土質モデル」とは
さらに「共通編」では、各公共事業で共通する工程の測量や地質・土質モデルについても解説しています。
項目 | 内容 |
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測量 |
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地質・土質モデル |
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BIM/CIMガイドラインの「各分野」
「BIM/CIM活用ガイドライン」は「共通編」と「各分野編」の大きく分けてふたつに分かれています。
そもそも「BIM/CIM活用ガイドライン」はこれまでの「CIM導入ガイドライン(案)」をBIM/CIMを活用した事業実施の観点で再編し、改定したもの。
「各分野編」はこれまで「CIM導入ガイドライン(案)」で10項目の公共工事について、BIM/CIMモデルの活用方法や適用範囲などについて解説がまとめられており、今後「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」への全面移行を予定しています。
- 第2編
- 土木編(道路土工・舗装工及び河川土工・海岸土工・砂防土工・付帯道路工)
- 第3編
- 河川編(河川堤防及び構造物(樋門・樋管等))
- 第4編
- ダム編(重力式コンクリートダム、ロックフィルダム等)
- 第5編
- 橋梁編(橋梁の上部工(鋼橋、PC 橋)、下部工(RC 下部工(橋台、橋脚)、鋼製橋脚))
- 第6編
- トンネル編(山岳トンネル構造物)
- 第7編
- 機械設備編(機械設備)
- 第8編
- 下水道編(下水道施設のポンプ場、終末処理場)
- 第9編
- 地すべり編(地すべり機構解析や地すべり防止施設)
- 第10編
- 砂防編(砂防構造物(砂防堰堤及び床固工、渓流保全工、土石流対策工及び流木対策工、護岸工、山腹工))
- 第11編
- 港湾編(港湾施設(水域施設(泊地、航路等)、外郭施設(防波堤、護岸等)、係留施設等))
調査・設計・施工段階から 3 次元データ(第 2 編)、CIMモデル(第 3 編から第 11 編)を作成・活用する場合も適用範囲とされています。上記の各分野におけるガイドラインによって、その分野ごとに、これまでのCIMの活用に関する知見を蓄積してきた叡智を知ることができるのです。
国土交通省が公表した背景
国土交通省がガイドラインをつくってまでBIM/CIM導入・活用を推進している背景には、日本の建設業界が抱える課題があります。
・他の業界と比較して労働生産性が低いこと
・災害による被害や範囲が以前と比べて大きくなっていること
・トンネルや橋といったインフラの老朽化が進んでいること
・老朽化した構造物の更新予算が限られること
・働き手の高齢化や若手の減少によって人手不足になっていること
・建設業界の労働時間が長時間になっていること
建設業界は上記のような多くの課題を抱えているのが現状です。しかも、これらの問題は放っておけば、将来にはより深刻な問題になっていくでしょう。
これらの課題を解決するために、国土交通省はBIM/CIMに期待をかけています。
それはBIM/CIM導入・活用によって、労働生産性が向上するだけではなく、必要人員や長時間労働の削減、そしてコスト削減などの効果も期待できるから。
しかし、BIM/CIM導入・活用は思ったほど進んでいません。これまでの「CIM導入ガイドライン」について「事業実施時のBIM/CIMの具体的な活用場面や効果が不明確であった」と国土交通省 大臣官房 技術調査課が総括しています。
そこで国土交通省は「まず隗より始めよ」とばかりに、公共事業における活用を目指して「BIM/CIM活用ガイドライン」を作成、公表したのです。
「ガイドライン」で企業が求められていること
「BIM/CIM活用ガイドライン」は、受発注者に対し「導入」フェーズから「活用」フェーズへの移行を前提として策定されています。
その「活用」における効果として、「コンカレントエンジニアリング」と「フロントローディング」が挙げられています。
コンカレントエンジニアリングとは、作成した3次元モデルなどを関連する部門に共有することで、開発段階から並行して複数の工程を行って、開発期間の短縮やコストの削減を図る効果があります。
いっぽうでフロントローディングは、工程の初期段階で手間をかけて集中的にさまざまな検討をすることで、その後の工程で発生する可能性がある修正などを未然に防ぎ、それにより工期の短縮化と品質の向上など業務の効率化を目指すもの。
このふたつによって、BIM/CIMをすべての工程で円滑に活用することが可能になるのです。
「BIM/CIM活用ガイドライン」を踏まえ、あなたの会社ではBIM/CIMをどう活かすか。
いずれにせよ、その力をフルに発揮するためには、優れた使い手(BIM/CIM人材)が必要です。
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