実は2020年は「首都高完成」の年
2020年4月末に発出された緊急事態宣言が解除されて約1か月半。ようやく高速道路に渋滞が戻ってきた。経済が再開されれば、やっぱり渋滞するのですねぇ。当たり前のことにちょっと感動している。渋滞のない高速道路は快適だったけれど、今は日常が戻りつつあることに安堵を感じている。私は渋滞が好きなのかもしれない……。
実は2020年3月末、首都高速道路株式会社に、今後の首都高のあり方などについてインタビューを行っていたのだが、まったく渋滞がない状況で、「今後の渋滞対策は?」みたいな記事、読む気にならないでしょうから私も書く気になれませんでした。
ところで、インタビューの内容に行く前に、2020年3月22日に開通した首都高横浜北西線について触れておきたい。
記事初出:『建設の匠』2019年10月21日
開通した首都高K1横浜北西線(筆者撮影)
この開通により、並行する保土ヶ谷バイパスだけでなく、朝の東名上り渋滞の緩和も期待されていた。ところがその効果を見る前に緊急事態宣言となり、渋滞が緩和どころか消失してしまったので効果も不明だったが、最近の渋滞復活によって、おぼろげながら状況が見えてきた。
まず、保土ヶ谷バイパスに関しては、渋滞緩和効果はまだあまり見えていない。保土ヶ谷バイパスは無料の自動車専用道路。対する首都高横浜北西線は有料。利用すれば最低でも400円は余計にかかる。交通転換はまだわずかのようだ。実際に北西線を走ってみると、恐ろしいほど空いている。制限速度は60キロだが、営業車がその2倍くらいの速度でブッ飛ばしていたりする。
東名上り渋滞の緩和効果のほうも、まだあまり見えていない。横浜北西線から第三京浜に抜けるならスイスイだが、横浜北線経由で1号線へ迂回しようとすると、生麦JCT手前から朝の1号線上り渋滞にハマる。北西線開通後、その渋滞距離が伸びていて、あまり時短効果はなさそうだ。大黒JCTでも、大黒線から湾岸線へ合流渋滞が悪化している気配。なかなかうまくいかないものです。
しかしそれでも、北西線の開通は大いなる福音だ。しかも、首都高のネットワークはこれでほぼ完成なのだ。今後はネットワーク強化策も、めぼしい渋滞緩和策も残っていない。首都高ユーザーは、現状を完成形として受け入れるしかない。
首都高横浜北西線(筆者撮影)
それどころか、近い将来首都高は、本格的な大規模更新時代に入る。現在は1号羽田線の東品川桟橋付近が造り直し工事の真っ最中だが、その他の4か所についても、そのうち本体の造り直しが始まる。しかも、東品川桟橋付近は仮設の迂回路を建設する用地があったが、その他4か所にはない(たぶん)。つまり、通行止めを含む交通規制が発生する。その時首都高をどんな渋滞が襲うのだろう?
大規模更新事業計画と完成時期(出典/首都高速道路株式会社)
3号渋谷線に恐怖の大王が降ってくる?
これらの工事がどのように行われる計画か、首都高速道路株式会社に聞いてみた。
まず竹橋―江戸橋間の地下化については、現在国交省を中心に関係機関と調整中で詳細は未定。首都高としてのコメントはなし。個人的には、「地下化は景観改善を含めあらゆる面で無意味」と反対してきたが、担当者に水を向けても無言だった。
首都高速道路株式会社は、一種の請負会社になっている。道路の持ち主は高速道路保有機構、株主は国や東京都などの自治体だ。勝手に余計なことは言えない。公団時代は建設省の出先機関みたいなもので、もっとはるかに計画主体だったから、いろいろ教えてもくれたのだが。
最も完成予定が早い(編注:2025年度完成予定)1号羽田線の高速大師橋は、老朽化により多数の亀裂が発生しており架け替えとなるが、2020年7月時点では「Step1」の段階で、首都高からは工事状況は見えない。また、架け替え中の迂回路はない。つまり通行止めとなる。
1号羽田線の高速大師橋(写真/PIXTA)
ただ、通行止め期間をできるだけ短縮するため、新設橋を多摩川下流側で組み立てて、完成後に既設橋を移動させ、そこにスポンと移植する工法を取る。よって、通行止めが年単位に及ぶことはないという。
私「つまり、1~2か月という感じでしょうか?」
担当者「未定ですので、お答えできません」
いずれにせよ、約3年以内に、1号羽田線が通行止めになるのは間違いなく、その期間は東京―横浜間の大渋滞を覚悟する必要がある。
もうひとつ、造り直し計画の内容が決定済みなのが、3号渋谷線の池尻―三軒茶屋間だ。現在は本体工事に先立って、地下構造物(東急田園都市線のトンネル等)の補強工事中。外からうかがうことはできないが、静かに着実に進められている。
渋滞や錯綜が発生しやすい3号渋谷線の池尻〜三軒茶屋付近(写真/PIXTA)
造り替え完成後は、恒常的な渋滞が発生している下り線のボトルネック部(池尻-三軒茶屋間)が1車線拡幅され、逆に現状余っている上り線の片側4車線部が3車線に狭められる。これで渋滞は確実に緩和されるが、問題は工事中の交通規制だ。こちらは大師橋のような新設橋の造り置きも不可能。上下線を順に撤去して造り直すしかなく、おそらく大規模な交通規制が必要になる。
私「つまり、本線の工事中は片側1車線の対面通行になるわけですね?」
担当者「いえ、そのように決定したわけではありません」
私「……つまり、午前中は上り専用、午後は下り専用みたいな形もあるわけですか?」
担当者「未定ですのでお答えできません」
床版に多数の損傷が発生しているという3号渋谷線 池尻〜三軒茶屋付近(写真/PIXTA)
私「個人的には、外環道東京区間が完成してから架け替えを始めたほうが、迂回路が確保できると思っていますが、いかがですか?」
担当者「外環道東京区間については、当社は事業者ではありませんのでお答えできませんが、完成時期がわかりませんよね」
その通りだ。外環道東京区間は、当初は東京オリンピックまでの完成が目標だったが、それはとっくに断念され、目標が消滅している。早くても5年後だろうか?
それを待っているわけにも行かないというのもわかるが、それにしても3号渋谷線は遠くない将来、しかも相当の長期間(3~4年?)、車線数が半分になり、恐怖の大王が降ってくる。その時は横浜北西線が、せめてもの東名への迂回路となるだろう。
いや、あの口ぶりからすると、ひょっとして上り線の三軒茶屋入口―池尻出口間の拡幅部に仮設の迂回路を設けて、工事中も計4車線を確保する方向性なのか? 首都高研究家としては、そのあたりが今後に残された最大の楽しみだ。