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建設人事のお悩みに圧倒的熱量で寄りそうメディア

「変化に対応できる“人財”との出会い方」山下PMC社長・川原秀仁氏の多彩な採用戦略

編集部 2021年08月31日

社会や経済状況が変わるスピードは年々加速し、建設業界も推進手法や技術面の変革が迫られている。旧来の「建物を建てたら終わり」というプロジェクトは減り、もっと発注者のビジネスや施設運営に踏み込む総合プロセスを担うニーズが増えてきた。そのためには、対応できる人材を確保しなければいけない。

山下PMCは、発注者のビジネスと設計者/施工者の技術を調整するコンストラクション・マネジメントの重要性にいち早く気づき、1997年にPM/CM専業会社として設立された。以来、業界のリーディングカンパニーとして常に先進的な手法を取り入れて注目されてきた。コロナ禍を含め、これまでにない大変化の時代に建設業界はどんな人材を確保すべきか、そしてどうすれば採用できるのか。山下PMCの川原秀仁社長に話を聞いた。

05本インタビューはオンラインで2021年8月18日に実施しました(上写真は山下PMC広報提供)

取材・執筆/丘村奈央子

建築は形だけではない、10年前から自社の採用基準を変えた

川原社長のフィールドは非常に多岐にわたる。自社サイトでのコラム掲載のほかFMラジオJ-WAVEへの出演、広報誌における著名人との対談など、精力的にメディアを横断して発信を続けている。ただしいつも共通して届くものがある。それは「建設業界は変わらなくちゃいけない」というメッセージだ。

「建設産業には長い歴史があり、企画・設計・建築・専門工事会社などにそれぞれの文化があります。その境界を乗り越えられない文化の分断が喫緊の課題です。もう世の中のビジネスは変わっているんです。建物を建てるから建築学だけでいいという時代ではない。ビジネスや人の流れを読んでそれを建築に取り入れていくような、融合やコラボレーションの柔軟性が求められているんです」

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山下PMCでは10年ほど前から採用戦略を変えたのだとか。

「もちろん建築知識や資格を持っていればありがたいのですが、あえていろんな領域から新卒・中途“人財”を探すようになりました。『建物』というと形に固執しがちですが、実は『建物』は生き物です。吸収して、食事もすれば排泄もしている。中で過ごす人の生活と同じです。だから人と『建物』をリンクさせる感覚を持つ人、それをビジネスにつなげられる人に注目して採用を進めるようになりました」

発信を続けていると、採用市場でも独自性が知られるようになった。

「今の志望者はデザイン至上主義というより、ビジネスプラットフォームやビジネスモデルを創り出したい、それを建築と融合させたいと考える人が主流になってきています。PMr/CMrの仕事では膨大な情報をファシリテーションできる能力が必要で、発注者と設計者/施工者の双方を理解しないとうまく調整できません。それができる人かどうかは30分ほど話してみると分かります」

「面接ではいつも『あなたが想定している10年後のキャリアプランは?』と問いかけています。うちの会社に入るか入らないかは別として、やり遂げる意思がある人かどうかその質問から見えるんです」

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業界全体の課題である働き方改革にも注力する。業界では設計や資料作成プロセスで時間を取られることが多いが、労働規定に収まる勤務をなんとか実現させているという。

「例えばCADやBIMのデータは一元化して何度も作成する必要をなくす、現場で使わない実施設計プロセスは省くなど、サプライチェーンの大枠から見直しました。本来、建築の現場は資料作りよりもっとクリエイティブなところへ力を注げる環境にすべきなんです。その工夫はこれからも続けていきます」

 

他社・他領域とのアライアンスで人材を生かす

川原社長の人材登用で特徴的なのは、積極的に他社・他領域とのアライアンスを進めている点だ。例えば現在、山下PMC内ではITや広告業界をはじめ様々な職歴を持つメンバーも建設プロジェクトの一員として参画している。

「自著『プラットフォームビジネスの最強法則』でも述べていますが、私は今後の建設業界は他領域との融合を進めなければいけないと考えています。それは『先端技術・クールジャパン・インフラ・健康・スポーツ・情報流通・金融』の7領域です。社内では今、各領域の知見を持ったメンバーが活動しています。自社採用だけに限らず、元の企業に所属したまま副業として仕事をしている人もいます」

また、ITやデータサイエンスに詳しい人材も必要としているが、必ずしも自社採用にはこだわっていない。

「世の中みんなが欲しい“人財”なので採用が難しいのは分かっています。でもデータ解析からビジネスまでをつなげて考える能力がある人は他領域にもたくさんいる。だからそれを専業とする企業とアライアンスを組む、能力あるフリーランスとコラボレーションするなど、工夫すれば一緒に仕事ができる。時間をかけずに高いパフォーマンスを生み出せる方法です」

他業種からのメンバーが加わることで、社員たちのモチベーションも変わったそうだ。

「例えば航空業界からのメンバーは仕事に対する使命感がまったく違う。もちろん私たちも責任感は持っていますが、向き合い方がこんなに違うのかと社員の誰もが感じたと思います。いろんな領域の“人財”が混ざり合うことで新しいアイデアが生まれ、新しい建築のあり方も発想できます。お客様への付加価値をいつも模索している私たちにとっては大きな成果でした」

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自社だけで頑張るのではない。川原社長は「頼れるところと垣根なくやり合えるような関係」と表現する。

「日本の建設技術は堂々と世界に誇ってよいものですが、まだそれを発揮できない規制や環境に縛られ過ぎていると感じます。技術をしっかり守って伝えていくには、建設業界の力だけでは難しい。他領域との融合以外の道はないと考えています」

 

発注者・お客様という「人」も視野に入れる

そして建設業界には発注者・お客様という大切な「人」が存在する。

「お客様は、私たちが建設で携わるより何倍も長い時間をかけて施設を運用するわけです。でも現状では施工直後にお渡しするものは2つ、建築物そのものと竣工図書(データ含む)だけ。その竣工図書は専門家でも理解が難しい資料で施設運用にはほとんど役立っていません。ここも改善しなければいけないポイントです」

もし施工直後に施設の機能やスペックを適切に伝えられれば、ビジネスをする発注者、つまりお客様は建物を最大限に有効利用できる。数年後には改築や修繕が発生するので施工者がまた竣工時の情報を共有し、正確で一元化された情報であれば作業スピードも早まる。川原社長が考える建物のライフステージでは人と情報が「円環」をなしている。

「現在は円環の途中で情報共有が分断されてしまう箇所がいくつもあります。分かりにくいなら私たちで改善して、スムーズに流れるようにすればいいんです。そうすれば竣工直後から施設がビジネスで有効活用され、お客様に喜ばれて次の円環につながっていく。建設業界も変容するビジネスの先を読みやすくなる

今年4月、その構想を実現するために山下PMCはクラウド型プラットフォーム『b-platform® 』をリリースした。360°写真などのビジュアルデータを活用して建物情報を一元化し、施工者だけでなく発注者にも使いやすいUIを採用。施設に携わる誰もが同じ最新情報を参照できるシステムを提供している。

「皆さんもスマホをパッと出してアプリで情報を確認するでしょう。建物情報もそれくらいの手軽さで参照できるようにして発注者のビジネス戦略に役立たなければいけないと思うんです」

このシステムを使えば資料作成プロセスや現場の確認作業も短縮できる。ひいては建設業界内の人材が「本来の専門能力を発揮して働ける」環境作りにもつながると予想している。

「私も設計をやっていたので分かりますが、建築というのはとても美的でカッコいいんですよ。でもこれからは、ビジネスや体系のあり方もカッコよくなくちゃいけない。建物に携わるすべての人たちが、最高のマインドで過ごせる世界を作らなければと思っています」

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採用というと自社で人を育成する方法に目が行きがちだ。しかし川原社長が見る世界は大きく、協業しようと声をかける人材は幅広い。建設業界が他のプラットフォームに従属するのではなく、社会全体を引っ張るプラットフォームになるためにはどうするかを常に考えている。確かに独自の慣習や環境が残るものの、まだ建設業界から変えられることはいくらでもある。このインタビューでもそんなメッセージがあふれていた。

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